第6話 姉妹の絆

 素戔嗚尊は満身創痍でしたが、眼前で光り輝く豊饒の大地が取り戻されたことを見届け、一面の緑に戻った周りの風景を、満足そうに見つめました。。


 そして、彼は懐から、もうひとつの布包みを取り出しました。

 クシナダから託された、八つの勾玉。

 静かに包みを開いた彼は、言葉を失いました。


 ひとつ、またひとつ……勾玉は、壊れていたのです。

 赤き勾玉は、貫かれたように穿たれ。

 青き勾玉は、押し潰されたように砕け。

 白き勾玉は、毒霧に焼かれたかのように黒く染まり。

 八つのうち、七つの勾玉が壊れていました。

 ただひとつ、薄桃色の勾玉――クシナダの勾玉――だけが、やわらかな光を帯び、無傷のままそこに残っていたのです。

「……娘御の姉君たちが……この命を、守ってくれたのか……。」

 素戔嗚尊は、崩れかけた勾玉を指でそっとなぞりながら、静かに目を閉じ、こう呟きました。

「大切な妹のためとはいえ、我などのために……。ありがとうな……。」

 その言葉は、風に乗って山に溶け、静かに消えていきました。

 すると、不思議なことが起こりました。吹き抜ける風が、ふと優しく頬を撫でるように感じられたのです。

 まるで――姉妹の魂が、そこにいたことを知らせてくれたかのように。


 やがて、息が整い、素戔嗚尊は剣を杖にして、ゆっくりと立ち上がりました。

「さて、湯村の郷へ戻らねばな。」

 そのとき、彼の目がふと止まりました。

 倒れ伏した八岐大蛇の巨大な尾。その最も太く重たげな一節が、どこか不自然に膨らんでいることに気が付いたのです。

「……そういえば、あの尾の一撃は……異常な強さだったな。」

 呟くと、彼は最後の力を振り絞り、剣で尾を裂きました。

 すると、その内側から――光り輝く一振りの剣が姿を現したのです。

 それはただの鉄剣などではなく、火や水、風や雷といった天地の理をその身に宿す、まさに神の剣でした。

「……何と、神々しい……。」

 素戔嗚尊は剣を手に取り、その神秘の輝きにしばし目を奪われました。

 それは、八岐大蛇が最後の力をもって守り続けた宝か、あるいは自らの命と力の源だったのかもしれません。

 彼は静かにその剣を佩刀とし、鏡と勾玉を懐に戻し、湯村の郷へ――クシナダと、優しい民たちのもとへと帰還したのです。

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