第28話 秋トの喧嘩
「今日はたくさん遊ぶぞ~!」
「はしゃぎまわって転ぶなよ?」
「春香ちゃんって本当に可愛いよね」
俺たちは今、桜が綺麗と有名な藤宮公園に三人で来ていた。
春休みも残る所一週間弱となってしまったわけだけど、この時期は桜が良く見える。
だからこそ、俺たちはこうして桜を見に来ているのだ。
所謂お花見デートと言う奴だ。
「とりあえずレジャーシート広げるか」
「だね。手伝うよアキ」
「私も手伝う~!」
普段以上にハイテンションな春香を微笑ましく思いながらも俺たちは三人で仲良くレジャーシートを広げる。
辺りは家族連れで花見をしている人がそれなりの数いて賑わっている。
他にも露店などが出ており、焼きそばやたこ焼きといった定番の屋台が数件目に入った。
「そう言えば、狂歌が脱走してたらしいな。ニュースになってから少し経った後に連絡が来たよ」
「へぇ~そうだったんだ。じゃあ、あの夜急いで私の家に来たのってそういう理由?」
「まあ、かなり不安になってな」
「あの時の秋兄はめちゃくちゃ焦ってたよね。すぐに走り出して行っちゃったし」
あの時は本当に焦っててなりふり構わずに走ったから、掘り返されると少し恥ずかしい。
出来ることなら掘り返さないで欲しい。
というか、結局すぐに発見されたらしいけど。
酷い状態で発見されたらしい。
全身痣だらけで怯え切った状態。
何を聞いてもまともな反応をしなかったらしい。
「アキって私のこと凄く好きだよね」
「……わるいかよ」
「秋兄凄く顔真っ赤~照れてるの? うりうり~」
春香が肘で脇腹を小突いてくる。
本当に恥ずかしいから是非ともやめていただきたい。
「やめてくれ。結構マジでハズイから」
そんなこんなで和気あいあいと桜が咲き誇っている公園を歩く。
荷物は貴重品以外はレジャーシートの上に置いてきている。
まあ、こんなにも人目のある場所で盗みを働くような人間はそういないだろう。
「悪い、ちょっとお手洗いに行ってくる。ここら辺に居てくれ」
恥かしい絡みをされたらなんだか尿意を催してしまった。
二人に一言そう言ってすぐにトイレに向かう。
少し混んでいて数分ほどかかってしまった。
「全く、こういう賑わっている公園はトイレが混むから嫌なんだよな」
ちょっとガラの悪い奴もうろついてるし。
視線をそこら辺に動かしてみるとチャラチャラしていてガラの悪い男が数人ほど目に入る。
礼二もチャラチャラはしているけど、明るくていい雰囲気を出しているがここにいる奴らはその限りではない。
あまり人を見た目で判断したくはないけど、少なくとも俺は関わりたいとは思えないな。
「っと、速く二人と合流しないとな」
そう思って足早にトイレを後にして、理奈たちと別れた場所に向かうと……
「面倒なことに巻き込まれてそうだな」
そこには理奈と春香がガラの悪そうな男に絡まれているところだった。
付近の人たちは認識はしているようだけど、助けに入る気配はない。
というか、普通に理奈に気安く触れようとしているなんて全く持って不愉快だ。
「すいません。俺の彼女と妹に何か用ですか?」
「あ? なんでお前」
「だから、この子の彼氏ですって。そういうあなたは何をしているんですか?」
出来る限り笑顔を作って俺は三人に話しかける。
金髪で口が悪い。
世間一般的に見てこういう輩を不良というのかもしれない。
まあ、内面も見ていないのにそういう事を言うのはどうかと思うけど。
今、受け答えをしてみた感じまともな人間には思えなかった。
「はぁ? お前みたいな冴えないのがこんな美人の彼氏かよ。釣り合ってね~」
「じゃあ、そこのもう一人の子はなんなの? まさかハーレム?」
「妹ですよ。ハーレムなんてとんでもない。俺はこの子一筋なので」
最大限笑顔を保とうとしてるけど、そろそろ限界かもしれない。
眉間がぴくぴくしてきた。
「へぇ~じゃあ、この子と遊ぼっかな~」
「触るな下種が」
春香に手を伸ばした男の手を反射的にはたき落としてしまった。
まあ、仕方あるまい。
そろそろ我慢の限界だったし、話し合いで解決できるなら俺が理奈の彼氏と伝えた時点で引いているはずだ。
そうしていないという事はお察しである。
「ア!? んだてめぇ」
もう一人が俺の肩を掴もうとするが、掴まれるよりも先に俺はその手を蹴り飛ばす。
「俺、喧嘩とか嫌いなんでこの辺でやめませんか? 人の目もあるわけですし」
周りを見渡しながらそういうけど、三人は既に周りの様子なんて見えていないみたいで顔を真っ赤にしながら殴りかかってくる。
理奈と春香を後ろに庇いながら、喧嘩をするのは気が進まないけど。
この状況で逃げて変に因縁を作るよりはここで精算したほうが良いかな。
「死ねぇ!」
金髪の男が殴りかかってくる。
余裕で避けれたけど、後々の事を考えて一発だけ殴られておく。
頬に鈍い痛みが走るけど、これで正当防衛の口実はついたかな?
三対一だし。
「アキ!」
「秋兄!」
後ろから二人の声が聞こえてくる。
心配をかけてしまったことを心苦しく思いながらも俺は目の前にいる三人と相対する。
「へっ。カッコつけた割には全然強くねぇじゃねぇか。甘ちゃんが」
「だな。お前みたいなひょろがりに何ができるってんだよ」
下種な笑い声がこだまする。
不快極まりないがこうして油断してくれている方がこちらとしてはありがたい。
「言ったじゃないっすか。俺喧嘩は嫌いってね!」
言いながら目の前の金髪の鼻っ柱目掛けて全力で殴りつける。
ドンと嫌な音が鳴ってすぐに殴った手からぐにゃりと嫌な感触が伝わってきた。
人を何の躊躇もなく殴るのなんて久しぶりかもしれないな。
「な、お前何してくれてんだ!」
仲間がやられたことに激昂した赤髪の不良が殴りかかってくる。
典型的なテレフォンパンチで軌道を読むのはたやすい。
というか、普段から狂歌が命に係わる攻撃をしてきてたんだから流石に慣れる。
それに、殺す気もない考えも見え透いている奴の攻撃なんてあたろうとしない限り当たるわけがないんだ。
「喧嘩は嫌いだって言ってるじゃないっすか!」
パンチを躱して腹に思いっきり蹴りを叩き込む。
嫌な音とともに男は横に吹っ飛んでいった。
「で? あなたはどうします?」
最後に残ったのはピンク髪の男だった。
完全に戦意を失っているようだし、この男は放置してもいいかもしれないと思ったけど。
もし、報復とかをされても面倒だと思った俺は脅しをかけることにする。
「お兄さん、そこの伸びてる二人を運んどいてくださいね。あと、今度俺の大切な人に手を出そうとしたら……わかりますよね?」
「は……はい」
そういうとコクコクと頷いてくれたので安心した。
全く、せっかく楽しいお花見デートだったのに邪魔が入ったな。
なんて思いながら俺のことを心配そうに見つめる二人の下に戻るのだった。
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