第22話
暦は十月、長かった夏休みを終えて大学の第二学期が始まった。
最初は一週間に三日ほど主と一緒に大学に行っていたが、今では週に一、たまに二回程しか一緒に大学に来てとは言われなくなり、主が精神的に回復しているのだろうと喜ぶと同時に少し寂しくもあった。
だが我は、空いた時間を無駄にはしない。
主からパソコンの使用許可を貰ったので、ネットで料理系動画を見ては、新しい料理の作り方を学び、主の朝御飯と晩御飯のレパートリーを広げている。
ちなみに昼用のお弁当は丁重にお断りされた。「自分で作れない美味しそうなお弁当を持って行ったら、料理が得意だと誤解されて面倒な事になりそう」との事だった。
せっかくキャラ弁も作れるようになったのに……会心の作だった可愛いさで我のライバルであるシマエナガのおにぎり入りのキャラ弁が、無念!
まあ、主が普通に家で食べて喜んでくれたからどうでも良い。損をしたのは我がキャラ弁を見ることが出来なかった有象無象共よ……もしかしてキャラ弁が切欠になって主に友達が出来たかもしれない?
そうだ。我の願いは主が幸せになる事で、その為には信じられる友達や仲間が必要だというのに主の周りにいる人々を有象無象だなんて、このロクデナシの駄目ペットが!
我がするべきなのは、主に美味しい料理を作る事ではない。主が美味しい料理を作れるようにする事だ。キャラ弁も作れるようになって貰い、堂々と大学に持って行けるようになって貰う。
『という事で、今日から主には我と一緒に料理をして頂きます』
帰ってきたばかりの主に、唐突にそう宣言した。
一言触れておくと、家に戻っても可能な限り魔道具を使って会話している。
防音性は高い部屋だが、独り暮らしのお嬢さんの部屋から終日の声が少しでも聞こえ続けているのは外聞が良くないからである。
『えっと、という事って何?』
『我の作ったキャラ弁を持って行けない理由が、自分では作れないからという話だったので、それならば主に作れるようになって貰おうと考えました」
『……モモちゃんごめんなさい。本当は私のお弁当がどんなに可愛いキャラ弁だっとしても誰も興味なんて持たないのに、見栄を張ってそれらしい嘘を吐きました』
そう告白して、マジ凹み状態の主……ど、ど、どうしよう? どうしようじゃない! 狼狽えるな我が迷えば主が余計に不安になる。自信をもって対策を述べよ。
『それならば、誰も無視出来ない様な素晴らしいキャラ弁を作りましょう。そうすれば主を知らない人だって、思わず話しかけてみようと思うはずです。十分にご友人を作る切欠になり得ると思います。我も全力でサポートさせて頂きますのでやってみませんか?』
咄嗟に考えたにしては良い感じな気がする……多分。
『私に出来るかな?』
自信なさ気だが、それでも少し前向きな質問が来た。これをどう返せばいい?
主は根拠も示さずに大丈夫と言われて喜べる様な、自己肯定感が強めのタイプではないので、無責任な発言ととらえられるだろう。
そんな一瞬で信用を失うような事は絶対に避けなればならない。
考えろ命を懸けて考えろ。急いで慌てて必死になって捻り出せ!
『一緒に少しずつ上達していきましょう』
無難だが、一緒にという言葉で誠意は見せているので悪くはない答えだと思う。
『でも一緒にと言われても、モモちゃん料理上手だから……』
それは考えて無かったよ! 確かに現時点では一緒にと言っては駄目な程に、我と主との料理の腕前にははっきりとした実力差が出来てしまっている。
そして今更、それを隠す事も出来ない。これじゃあ普通に嫌味を言ったも同然だよ。
我こそが何四天王(何してんのー)最強の男だ! はっはっはっはぁぁ~~~死にたい。
……いや無責任に死ぬな馬鹿野郎! 貴様には主の為に生涯を捧げ尽くす使命があるだろう。
『我が主の居ない寂しさの中で身に付けた料理の腕前の全てをお伝えいたします』
『寂しい思いさせちゃってごめんね。毎日一緒に料理しようね』
同情をひくことで何とかなった。これで良かったのかと言う疑問はあるが、とりあえず死なないで良かった。
『モモちゃん。キャラ弁ってどういうのを作れば良いの?』
『主が好きなキャラクターと言うのはありますか?』
『う~ん、あまりないかも?』
『著作権が滅茶苦茶五月蠅いアメリカ製でなければ、日本では個人の弁当に使う程度ならスルーしてくれますよ』
『……日本製? ガンダムとか?』
何故ガンダム? この言葉を黙って飲み込むのに三秒かかった。
『ガンダムと言うと……イケメンパイロットとか格好良いですもんね?』
特に格好良いなんて思ってないのに嘘を吐いてまで迎合した。
『普通ガンダムと言ったら、モビルスーツだと思うんだけど?』
不思議そうに首を傾げる主。まさかモビルスーツの方が好きだとは思わなかったよ。
『やっぱり搭乗可能な人型ロボットをいつか自分で作りたいし』
そういえば主って理工系の女子だったな。
ちなみに【女子】=【女の子】ではない。
同様に【男子】=【男の子】でもない。
それどころか本来の意味では正反対の言葉だ。
男子なら元服した立派な男性を意味するように、元々女子も成人した女性を意味する言葉だ。
男子女子の言葉の意味がねじ曲がった理由は、我は学校教育にあると思う。
小学生になった子供達をまとめて男子・女子と呼び、その意味を捻じ曲げてすり替えたのだ。
故に【女子会】等の言葉に過剰に反応して、女子って年齢じゃねえだろとか言うのは恥ずかしいので止めておいた方が良い。
まあ、主に関しては年齢はともかく見た目は女の子で良いのでは無いかと思うけど、絶対に口にはしない。
『モビルスーツで好きなのは何ですか?』
『ザク! 圧倒的にザク。あの丸い頭が良いの。スコープドッグと双璧だと思うの』
スコープドッグはアーマード・トルーパーで、モビルスーツではないですよ。
『本当はザクを作りたいけど色々と謎技術が多くて造るのは無理だけど、スコープドッグならポリマーリンゲル液さえ開発出来れば、既存の技術でもギリギリ何とかなりそうな気がしない?』
そう言われて、銀河を二分する巨大星間国家を築いた文明なのに、主が開発出来そうと思うアーマードトルーパーで戦争しているって笑えますよねwww と言いそうになり危なかった。
我はボトムズについては知らない事にした方が良い。絶対に前々世がバレてしまう。
『主、キャラ弁には二つの方向性があります。立体的造形と平面的造形です』
意味が分からないという顔をされたので説明を始める。
『ご飯を成型したり、ハンバーグなどの形を利用して、キャラクターを立体的に作る方法と、海苔などを切り貼りしてキャラクターを平面的に表現する方法です』
前者は比較的緩い造形でも問題なく後者はかなりのクオリティーが求められる。
『出来れば立体的に作りたいな』
……正直ほっとした自分がいる。
『ダークグリーンはほうれん草の湯がいた葉を絞って……』
『食紅じゃダメなの?』
『出来るだけ自然の食材を使いましょう。グルメ漫画を読む限り食紅で色を付けるのは推奨されていません。主の健康を考えるならきちんとしたものを食べて──』
『──モモちゃんがグルメ漫画に毒された!』
別に毒されてはいませんし、単にグルメ漫画を読んだって事にしておけば、我の正体がバレないと思っただけです。それにグルメ漫画で食紅の類に文句をつけるのは……
『黒は海苔か海苔の佃煮を使い、ピンクは新鮮なほうれん草の茎の付け根を使えば良い感じのピンク色ですよ』
『そうか~ほうれん草と海苔だけでザクを作れるんだ。これなら食紅使う必要ないね』『残ったほうれん草はおひたしにしてお弁当に入れれば無駄が無いです。それでも残った分は我が頂きます』
『え~モモちゃん食べても少な過ぎて、誤差の範囲でしか減らないよ』
はっはっは、そりゃあそうなんですけどね。現在の体重が六十gだから自分の体重の一割を必死に食べても六gだから誤差の範囲と言われても仕方ない。
『それでは主、ザクを作るとして頭部だけにしますか? それとも全身を作りますか?』
『私のイメージではバストアップかな』
『SD(スーパーディフォルメ)でしょうか? それともディフォルメですか?もしくはリアルですか?』
『SDも良いけれど、ここはリアルでお願い』
なるほど、リアルですか……まあ、我は良いんですよ。高い記憶力と【念動】を使う事で自分のイメージ通りに作れますが、それを主も作れるようになる必要がある。
これは長い戦いになりそうだ。
ザクに使われる緑系の色は、オカズとして使える食材に似たような色の物は無いので、御飯に着色するしかなかったので、炊き上がった御飯を小分けにして、それぞれに着色して行く。湯がいたほうれん草の葉の部分はキッチンペーパーで水分を拭き取ってから、徹底的に細かく刻み、異なる比率で御飯に混ぜ、メインカラーである二種類の緑の色の御飯作った。
『中々、良い色になったね。これなら遠く色だけ見えてもザクだと思うよ』
『それはどうでしょう?』
『私にはもう、このご飯はザクにしか見えないよ』
『そ、それは流石に主だけではないでしょうか?』
珍しく我が主に対して正面から反対した。余りにも特殊な個性は
『そんなこと無いよ、十分にザクかスコープドッグか区別がつくよ』
もう駄目だ。手遅れだ。我にはもうどうしようもない……神よ、非力な我をどうかお許し下さい。
ちなみに、大学にザク弁を持って行った結果は……
『お弁当食べてる時に、通りがかった男の子が三人ほど二度見してたよ』だそうだ。
これは我から見ると微妙な一歩だが、主にとって偉大な飛躍で……良いのかな? そんな事、我にだって分からないんだ。
だから我が主に言えた事は『これからも一緒に精進しましょう』だけだった。
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