はずれのコロッケ

@_shinku

私、実は人を殺しちゃって。

そう彼女は言った、かける言葉を探しても今の僕には見つけられなかった。そんな僕に彼女は、心配してくれてありがとう、死体はもう埋めて来た。と続けた、まだかけるべき言葉は見つかりそうにない。 


 彼女の後ろをかける言葉を探しながらついていく、彼女は二人で歩いた場所ばかり通って思い出を語る。

このお総菜屋さんも二人でよく来たよね、コロッケが日によって当たり外れあったけどなんだかんだ何回も来たよね。

ここは焼き鳥がおいしいんだよ、なんてことを言えたらいいのだろうが今の彼女に届きそうもない。彼女はコロッケだけを買った。

今日はあたりだよ、それも今までで一番。

彼女はいつもすぐ口にしてあたりでもはずれでも楽しそうにしてのに、今日は今までで一番だというのに彼女は暗いままだった。

 

人付き合いの軽薄なこの町では僕らのことなどだれも気にしない寂しそうに話す彼女のことも何も言えない僕こともだ。日も暮れて彼女はいっそう寂しそうに家に帰える、僕ら二人の家だ。家についてもかける言葉が見つからない。早く彼女に何か言ってやりたいがまだ言葉は出ない、彼女の方は気にしていないようだが。


 ひとりぼっちになるとこのおうちはひろいね。

肩を震わせて彼女は言った。笑っているつもりだろうが彼女がどんな顔をしているかは背中越しにはわからなかった。

ひとりにしちゃってごめんね。

それから彼女は泣き出したその様は号泣としか言い表せなかった。涙でしけった部屋の空気に耐えかねて僕は何か言おうと思ったがまだ言葉が出なかった。彼女は少し落ち着いたのか寝室に向かった。ダブルベットが置いてあるだけの部屋だが相当な時間を過ごした思い出の詰まった部屋だ。

今の私にはここもひろいね。

彼女はまた泣いてしまった、今度は静かに枕を濡らしていた。しばらくして彼女は泣き疲れて寝てしまった。


 人によっては昼ご飯を食べるような時間まで彼女は寝ていた。起きた彼女は朝食も取らずに出かけてしまった。僕は彼女のあとをついていくだけだった。昨日も寄った総菜屋により彼女はコロッケを買ってまた食べた。

 犯人は現場に戻ってくるとはよく言うが彼女もそうだったようだ。でなければこんな山など来ないだろう。町からそうかからず来れる山だ。登山コースは登山客でにぎわうこともある。カブトムシはおろか鹿も猪も熊も出ない。

 何年か前私がカブトムシ取りに行きたいって言って連れてきた以来だったのかな。でも結局一匹も居なかったね。

コースを外れそうな彼女を必死に止めたことを思い出す。裏腹に彼女はコースを外れ鬱蒼とした山の中に入っていった。


 ここに死体を埋めたの、毎日来てごめんなさいするから成仏してね。

あとこれコロッケ、二人でよく行ったあのお総菜屋さんの、今日ははずれだったけど。

「せっかくなら昨日のがよかったな、それに、」

いや、その……ただ落ち着くまで話がしたかっただけなんだ。ごめんね。

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