近所の人が野菜とか持ってきてくれるやつ
「ただいまー!」
「おかえり」
家に帰り玄関を開けた瞬間、帰ってきたー!!って空気がするというか、なんというか……上手く表現できないけれど、一人暮らしの家とは違う、柔らかい感じがした。そして肩の力がスッと抜けていく。
台所では、母さんが晩ご飯を作ってくれていた。
荷物を部屋に置いてくると、オレは手を洗い、食卓に並べるのを手伝う。
「うまそー〜!」
メニューはオレの好物の肉じゃがと冷奴だ。こうやって帰省に合わせてくれたことに、心の緊張が緩んでいくのがわかる。
「つまみ食いは、一回までだからねー」
「わかってるってー!」
準備を終えるとみんなで席に着く。
「いただきます!」
「あ、父さん。しょうゆいる?」
「うん、ありがとう。あ、母さんもいるか?」
「うん。ありがと」
ピンポーン♪
(SE 玄関チャイム)
「あ、オレが出るよ」
玄関に一番近い席にいたオレは立ち上がった。
(SE 足音)
「こんばんはー、新井ですー!!」
新井さんというのは、ご近所さんだ。オレは躊躇いもなく玄関扉を開けた。
「はーい」
(SE つっかけが地面を擦る音、2〜3歩)
ガラリ(SE 玄関の扉を開ける音)
「こんばん……え?」
声からして新井のおばさんだと思ったけれど、なんとそこにいたのはナナだった。
「ナナ……」
「こ、こんばんは。せ、先輩、さっきぶり……えと、あ、あのっ!」
「えと……」
どんな反応をしていいかわからず、オレはそのままの格好で固まる。しかしナナはそんなオレに、ビニル袋に入ったものをずいっと差し出してきた。
(SE ビニル袋のガサリという音)
「あの、先輩これっ!!」
「えと、これは……」
「や、野菜とか、いろいろ入ってるからっ!あの、おばあちゃんが、持ってけって、言う、から……」
(SE ビニル袋の音)
受け取ると、大きな袋の中には野菜やらどこかのお土産らしいお菓子やらいろいろ詰められていた。
「あ、ありがとう……母さんたちに渡しておくね。じゃ……」
「あ……」
そう言って玄関の中に帰ろうとすると、ナナが突然、オレの服の裾をつかんだ。
(SE 服をつかむ音)
「……」
「……えと…………ナナ?」
「……」
どうしたんだとナナを見ても、俯いたままだ。
「おーい、どちらさまだったー?」
なかなか帰ってこない息子を疑問に思ったのだろう、部屋の方から母さんの声がした。
「新井さんだったー!野菜持ってきてくれたーー!」
オレも部屋にいる母さんたちに聞こえるように、声を張って返事をする。
「じゃ、じゃあ……オレ、ごはんの途中だったから……」
本当にそろそろ戻ろうと、オレは離してと心の中で言う。
「先輩っ!」
しかしそのとき、ナナがパッと顔を上げた。
「せ、先輩っ……明日って、あいてます、か…………?」
「へ……?」
オレは突然の質問に驚く。けれど、ナナのあまりにも真剣な眼差しに、特に予定がある訳では無かったオレは正直に答えた。
「あ、あいてる、けど……」
その瞬間、ナナはまた俯いてしまう。
「先輩じゃ、じゃあ、………あ、明日……」
「へ?」
「明日の、朝……十時に、来る、から」
(SE 服をつかむ音)
「……あ、うん。わ、わかった」
オレが返事をすると、ナナは服から手を離した。
(SE 足音、数歩)
「じゃ、じゃあ、また明日」
ナナはそう言うと、小走りで夜道に消えていった。
ついあいてるって言ってしまったけど、明日は一体何が……というか、オレは、ナナと何を話せばいいんだ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます