翌日、約束の時間

午前8時頃。


オレは、キッチンにあった食パンを数枚取り出し、そのままかじっていた。そして牛乳をその辺りにあったコップにザバっと入れて飲む。


平日なこともあり、母さんたちは仕事に行ってしまいオレ一人だ。



帰ってきたって言っても、結局いつもと変わらないような……



そんなことを考えながら、皿洗いを済ませた。



で。

オレはしばらく窓の外を見ながら考えていた。


なんでオレ誘われたんだろう……?



昔、と言っても小学生の頃だけど、一つ下のナナとオレとあと数人の幼馴染みたちで、しょっちゅう遊んでいた。

休みの日はみんなで集まって、山の上にある市内唯一の遊園地……といっても遊具が少しあるだけの公園みたいな所だ……に行くのがお決まりのコースだった。



しかしだんだんと学年が上がっていくにつれ、遊びも変わり、みんな自然と離れていった。そして高校は、ナナとは同じだったけど、他のみんなはバラバラだった。


一つ学年が違えばなかなか会うこともない。

家が近所と言っても、田舎の家だ。偶然すれ違うには少し遠い。


そんなこんなで、高校生活でも会話らしい会話は無く……現在に至る。たぶん最後に話したのは卒業式とかだろう。その辺りもよく覚えていない。

そしてそのままオレは大学進学に合わせてこの家を出た。




待ち合わせまであと数時間。


今更ながら、空いてると言ってしまったことに後悔する。

何を話していいのか……そんな緊張ばかりがオレの頭を埋め尽くしていた。



(SE 玄関チャイム)

ピンポーン♪



「はーい」



緊張していたけれど、チャイムの音につい反応してしまう。一人暮らしも板に付いてきたってことだろう。

オレは玄関を勢いよくガラリと開けた。



(SE 玄関、勢いよく)



「わ……びっくりした……」  



扉を開けると、そこにはワンピース姿のナナが、目をまん丸にして立っていた。




あ……



「あ、ごめん」



内心見とれていたこともあって、オレはつい謝ってしまう。


「先輩、お、おはよう」


「お、おはよ……」


「ふふふ。なんか、そうやって玄関から顔だけ出してるの、昔みたい。いつも眠そうな顔して」


「あ、ごめ、その……そう、だな」



思い出を語るナナに、オレはごまかすように笑った。



「あ、先輩、ごめ……なんか、つい……」


「いや、こっちこそ……」



しばらくごめんなさい合戦を続けていたオレたちだけど、目的を思い出したようにナナが言った。



「あ、あのっ!先輩、お、おはよ……」


「おっ、おはよ……」


「って、ごめん!あいさつはさっきしたし……」


「あ、そ、そうだな」


「……」


「……」


「先輩っ、あ、あのね……今日、今からっ、山の上の遊園地、行こ?」


「へっ!?」


「お弁当も、持ってきた、から」


これ、と言う様に保冷バッグを軽く持ち上げるナナの笑顔が懐かしくて、オレは了解の返事をした。


「う、うん」



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