久しぶりの事件
「
警部の禿山からの電話を受けた天才と留美は、中古のミニバンで現場へ急行した。
「死傷者は3人。うち1人は心臓を突かれて即死だ」
「犯人は逃走中ということでしたが、どこに逃げたかとはわかってるんですか」
留美が質問すると、禿山はツルツルの頭を見せつけながら言った。
「それがわかってたら苦労はしないのよ。防犯カメラに映ってないんだわ。そこで君たちがなんとか解決してくれないかなと思ったんだわ」
「あの、禿山さん。情報が少なすぎて無理です」
「・・・言われると思った。そりゃそうだよな」
「犯人の特徴とかって分かってたりしますか?」
留美が訊くと、禿山は溜息を吐いた。
「黒い服にサングラス、黒マスク、ニット帽という出で立ちだ。唯一わかってるのは背丈が175センチくらいってことだけだ」
「無理ね」
「終わった。留美さん、事務所に帰りましょう」
「待て待て待て。君たちの頭脳でここをなんとかしてもらえないかね」
「兄貴を呼びましょう。もしかしたら俺達よりも早く真相に辿り着けるかも」
「ちょっと天才くん、何言ってるの」
「俺達はただの助手っすよ、探偵が来ないと始まらない」
「うーん、仕方ない、名探偵さんに来てもらうとするか」
そう言って禿山は迷探偵に電話をかけた。
天才は警察の人間に話を聞くことにした。
「防犯カメラの映像によれば、犯人はどうやら住宅街の方に逃走した可能性がある」
そう語るのは指揮を執る嶋田氏。身長は175センチくらいだ。
天才は、ふと思いついたことを言ってみた。
「住宅街の方、ということは警察署の方ですよね?犯人がそんなところに逃げ込みますかね」
「確かにそうだな。犯人が住宅街に潜伏している可能性も含めて捜査しよう」
「あの、嶋田さん、あなた、今日何時に出勤しましたか?」
「今日はもともと非番だったんだが、事件が起きたんで9時くらいに呼び出された。家が近いからな」
「家が近い?それこそ住宅街の方だったり?」
「そうだが、それがどうした?」
「犯行時刻はたしか7時くらいでしたよね。嶋田さん、その時何をしてましたか」
「・・・家でテレビを見ていたが」
「家族は?」
「一人暮らしだ。何だ、私を疑っているのか」
「大まかに言うと、そうです」
「私は警察だぞ!だいたい、私がお前に疑われる根拠などなにもない!」
「だっておかしいじゃないですか。街にあるどの防犯カメラにも犯人の姿が映ってないんですよ。住宅街の近くの防犯カメラには映ってたのに。嶋田さん、あなた本当にテレビ見てました?」
「見ていた。神に誓っても、だ」
「それなら番組名、主な出演者を答えてください」
「私が見ていたのは朝の情報番組『アサナンデス!!』だ。社会学者の甲斐誠太郎が出演していたな」
「調べてみましたが、合ってますね。取り上げられていたニュースの中で興味深いものはありましたか?」
「やはりなんといってもコンビニ強盗偽装事件だろう。あんなことをやるやつがいるとは思いもせんかった。あとは、パンダの中国返還かね。寂しくなるなあ」
「詳しく、そして淡々と答えられる、ということは嶋田さんは白っぽいですね」
「だろう。私を疑っていた君が間違っていたのだ」
「待て。お前は白なんかじゃない」
「?!」
「・・・白じゃなきゃ、何だ?」
天才はズッコケた。そう、迷探偵の登場である。
「兄貴、よく考えろ。この人は白だぞ」
「・・・犯行は複数人だった」
「何を言っているんだね君は。目撃情報によれば犯人は1人じゃないか」
「警察のくせに、車で逃走した、という線を考えられないのかい」
「兄貴が珍しくまともな会話をしている・・・!」
「逃走用の車は、嶋田氏、あなたのものだ」
「何を言い出すんだ。だいいち、私はテレビを見ていたと言っただろう」
「車にテレビモニターが付いているじゃないか」
「!!」
天才ははっとした。そうか、その線があったか。
「それに、あなたの車は、防犯カメラにばっちり映っているぞ」
「なっ!!」
「いや、あのさ、兄貴」
「?、何だ、天才」
「嶋田さんはとりあえず捕まえるとして、実行犯の方はどうするの」
「無理なものは無理だ」
「・・・・」
こうして嶋田は逮捕され、彼の自白によって実行役も無事警察へ連行された。
「仕事のストレスを発散したかったんだ・・・」
「あんた警察の人間なのによくもこんな事できましたよね」
「すまなかった・・・」
嶋田は反省しているようで、度々うなだれていた。
探偵は、キリッとした目つきでこう言った。
「通り魔には共犯者がいた。つまり、犯人は一人ではなかったのだ」
「兄貴、今回の事件完全に解決できなかったみたいだよ」
「犯人が逮捕されたということは、解決したということだ」
「この記事を見て」
天才は、一枚の新聞紙を持っている。そこには、『凶器の回収を担った?謎の3人目』という見出しが書かれていた。
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