バカと天才

迷探偵・凡間凡と助手の留美、凡間の弟の天才そらとの3人は、あるコンビニにいた。

起きた事件は強盗。通報した店員によれば、犯人は現金306円とタバコ1箱を持って逃走したという。

留美は、犯人が持ち去ったのはなぜそんな少額なのだろうと思いつつ、天才に訊いた。

「しかし、物証がなにもないわね。天才くん、なにか見つかった?」

「なにもないです。ここまで来ると怖くなってきますね」

「なにもないということは、何かあるかもしれないということだ」

「凡さんは黙ってて」

留美はピシャリと言い放ち、刑事の禿山はげやまに目を向けた。

「本当に何も見つからないんですか?毛髪の1本も?」

「・・・ああ。見つかってるのは店員のだけだ。」

留美は肩を落とした。強盗犯の目撃情報も、物証もなし。あるのは店員の証言だけ。

すると、天才が口を開いた。

「・・・留美さん。俺、一つ思いついたことがあるんすけど」

留美は耳を傾けた。


一方その頃、迷探偵と禿山警部。

「で、探偵さんよ。なにか思い当たることはないかい?」

「手がかりがないということは、もうどうしようもないということだ」

「・・・名探偵君。君は帰りたまえ」

「帰りたまえということは、帰ってもよいということだな。じゃ、お先」

そう言って迷探偵は帰っていった。

「・・・ほんとに帰るやつがあるか!」

警部はご立腹である。


数時間後。

通報者本人であるコンビニ店員が警察署へ連行されていった。

この事件の結末には、留美や禿山はもちろん、世間も大いに驚いた。

なにせ、今回はどこぞの迷探偵ではなく、その弟の天才の手柄なのだから。

天才という珍しい名前も相まって、この事件は全国の新聞やワイドショーなどで大きく報道された。

天才の顔を見た全国の女性はもれなくメロメロになり(留美を除く)、熱烈なファンによって何故か家の住所がバレてしまった天才は引っ越しを余儀なくされたという。

また、凡間凡よりも天才のほうが探偵に向いているのではないかという世論も高まりつつあった。

話が逸れてしまったが、ここで留美が天才から聞いた推理を共有しようと思う。

天才がまず不審に思ったのは、店員以外の人の指紋や毛髪が見つからなかった点と、強盗犯の目撃情報が全く無かった点だ。天才が早速防犯カメラを確認したところ、その時店内には通報した店員以外誰もいなかったことがわかった。店員は捜査のどさくさに紛れて金を盗もうとしたのだろうが、手口が簡単すぎてすぐに犯行がバレてしまった。ちなみに、なぜ店員は306円という少額を盗んだのかについては調査中である。

そんなこんなで、天才の探偵デビュー(?)は、女性からの被害を受けつつも、まずまず成功といったところだ。



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