謹慎三日目は事情聴取
「なあ。なんで今日もいんの? お前」
「そっちこそ。やっぱりわたしのこと好きなんじゃなくって?」
噴水の広場。停学処分に絶賛傷心中の俺は心の安らぎを求めて今日もここに来たのだが……。
「お前、よくあんだけ言い争った次の日に同じ場所に来れるよな」
「ブーメランというものを知ってる? 投げたらそっくりそのまま自分のもとに戻ってくるという狩猟民の武器よ」
「あのなぁ、俺はこの噴水広場から見える街の賑わいが小さい頃から大好きだったんだよ。ほら、俺の特等席からどいたどいた」
「あら? 奇遇ね。わたしもこの広場は幼少期からのお気に入りなの。パン屋さんのいい匂いがノスタルジーを誘うわ。ほら、わたしの特等席からどいたどいた」
キッとお互いに睨み合う。
俺の親友をいじめ倒したザ・悪役令嬢のローズ、彼女は今日もこの広場に出没した。
「……まあいいよ。言いたいことはだいたい昨日で全部言い散らかしたからな」
「わたしは嫌なんだけど。早くここから立ち去りなさい」
この野郎。
このクソ女のことは無視して噴水の縁に腰掛ける。
ローズも、俺から少し離れたところに腰を落ち着けた。
「ひとつ、聞いてもいいか?」
「……」
「なんでサヤのこといじめたんだ?」
「言いたいことは昨日全部言ったんでしょう? 鬱陶しいから絡んでくるのやめてもらいたいわね」
「言いたいことは言ったけど、聞きたいことは残ってるんだよ。お前家にいるのが気まずくてここ来てんだろ? 家帰るよりましだと思って、ちょっとぐらい話つきあってくれよ」
「……なんでわかるのよ」
「俺も家にいづらくて出てきたクチだからな」
ローズは、はぁとため息を一つ。
「お父様がそれはもう激怒されて、とても家にはいられないの」
「だろうな」
「あんな怒らなくてもいいのに……」
ローズはそこで言葉を切ると、一度口を閉じる。
少しして、再びぽつりと語り始めた。
「逆に、あんなに鼻につく女がクラスにいて気にならないほうがおかしいわよ」
「あんなにいい子がクラスにいて、気に入らないほうがおかしいだろ」
「相容れないわね」
「ほんとにだ」
しばしの無言。
ぼーっと目の前の風景を眺める。
八百屋の客引き、ランチを楽しむ奥様方、噴水の周りで水をかけあって遊ぶ子供たち……。
ここにいる人たちの中で、醜悪な人間はローズだけであるように思える。
「……別に、大したことしてないわよ? わたしは。ちょっと悪い噂流したり、仲間外れにしただけ」
「それがまさに大したことなんだよ。いいかげん反省しろよお前」
「でも、靴裏に画鋲は入れてませんし、弁当をひっくり返して掃除させたりとかはしてないわ。それに、毒を盛るのも思いとどまったし」
「んなステレオタイプないじめが実際にあってたまるか! ……まて、お前毒盛ろうとしてたのか?」
「そんな大げさな。ちょっとピリッとする程度のものよ」
「山椒みたいなノリで言うな。……ったく、やっぱお前ノートンたちに断罪された方がよかったよ」
本当に馬鹿なことをした、俺は。
「そういえば、あなたこそ。なんでノートンのやつを殴ってまで追放計画を阻止したの? あなたの目的は一体?」
「それは……」
少し考えてから、返事をする。
「なんか、『復讐とかだるいって(笑)』って言ってる俺、格好良くね? って思って……」
「マジの馬鹿なのね、あなた」
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