謹慎二日目は大喧嘩

「お前、なんでいるんだよ」

「こっちのセリフよ。からかいに来たのなら帰って頂戴」


 街の噴水がある広場に、彼女は座っていた。


 豪奢な服装に、いかにも気が強そうな顔。

 彼女は、だった。


「サイアクだわ……。謹慎中にクラスメイトに遭遇するなんて」

「俺も最悪だよ。お前の顔なんか一生見たくなかった」


 この女、ローズ=アークシャーは、昨日のクラスの追放運動騒ぎによっていじめの事実が発覚し、一週間の停学処分となったのだ。


「てか、なんであんたこんな時間にここにいるのよ。学校はどうしたの?」

「うっせぇな」


 俺が真っ昼間からこんな場所にいる理由、それは。


「生徒会長くんを殴って停学くらったんだよ。一週間の」


 であった。



「えっ……何で?」



 ***



 クラス内での俺の一言に、みんなの視線が一斉に俺に向かって突き刺さった。


「は? お前、何言ってんだよ」


 誰かが呆然として俺に問いかける。


「だから、『ざまぁ』とかイマドキ流行らねぇっての。そんなくだらないことしてないでさ、もっと他にやることあんだろ、お前ら」


 生徒会長でクラスのリーダー、ノートンがこちらに詰め寄ってくる。とても険しい顔だった。


「キミは……。同志だろう? 一緒にサヤを救うんじゃなかったのか?」

「俺は一度だって協力した覚えはねぇよ。お前らが勝手に巻き込んだだけだろ?」


 ノートンは、驚きの表情で俺を見る。


「キミ――――ジャック君は、サヤの大親友だろ? これからやっといじめの主犯を成敗して彼女の無念を晴らせるんだぞ……?」

「知らんって。なんでわざわざローズに復讐なんてしなきゃいけないんだ? 俺関係ねぇよ」


 ノートンの拳がきつく握られて震える。顔を見ると、こめかみに血管が浮き上がっていた。


「そんな薄情者だったのかい? キミは。失望した」

「勝手にしろ」

「ああわかった。ジャック、お前のことはこれから裏切り物と呼ぼう。これから一切サヤに近づくんじゃない」


 ……。


「あ? 何だって?」

「サヤにはもう近づくなと言ったんだ。お前みたいなは毒だからな」


 その瞬間、俺はノートンの胸ぐらを掴んでいた。


「おめぇに何がわかるんだよ!」

「わかるとも。お前はサヤにとって害でしかない。一時でもお前のことを仲間だと思った俺が馬鹿だったよ。出てけよ、この教室から」


 そうだ! 出て行け!


 野次が飛ぶ。


 サヤだけが、不安そうな、悲しそうな顔で俺を見ていた。

 俺はそんなサヤのほうを向いて少しだけ微笑むと。


 ノートンの顔面に拳を喰らわせた。


「ぐっ、がぁ!?」

「なんもわかってねぇのはお前だよノートン!」

「……お前、こんなことしてどうなるかわかってんのか!」

「わかってる! 少なくともお前よりはわかってんだよ!」


 その後、騒ぎを聞きつけてやってきた教員が俺を取り押さえるまで、そう時間はかからなかった。



 ***



「馬鹿なの? あなた」

「お前にだけは言われたくなかったな」


 だがしかし、たしかに俺は馬鹿だ。気の迷いで変なことを口走ったせいで、俺は一生に一度の青春学園生活を奈落の底に落っことしてしまった。


「……っていうか、私が言うのもなんだけど、なんでせっかくの追放計画をぶっ壊したの? 何をするつもりだったのか知らないけれど、それが成功していたら今頃わたしは停学じゃなくて退学よね。なに、あなた。わたしのこと好きなの?」


 そんなことを聞いてくるローズに。


「んなわけねぇだろぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は叫びを以て返した。


「お前、大体なぁ、反省してんのか? お前がどんだけサヤを傷つけたのかわかってんのか? お前が流した変な噂のせいで、サヤがどれだけ苦労してきたかわかってんのか!?」

「チッ……。だる。あんなどんくさい女、いじめられて当然でしょうが」

「はぁぁぁ? 舐めてんのか。いじめなんてやったほうが100%悪いに決まってんだろ!」

「ああん!? あんたこんなとこまできてわざわざお説教にきたわけ? ほんと頭悪いんじゃないの!?」


 この日はすんごく喧嘩した。

 そして、これがこのゴミ女との奇妙な停学期間の始まりだった。

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