第49話 新年は明けるのである。
クリスマスが過ぎ、冬休みの課題を終わらせる頃には、もう年末である。
大掃除と新年の準備を済ませ、大晦日は家族と年越しそばを食べる。
うさフェチメンバーで年越しの集まりをする話も上がってはいたが、薫衣が年末年始は家族の集まりで色々忙しいらしい。
流石に大企業の家族となると、どうしても出なければならない集まりなどがあるのだろう……。
薫衣抜きで集まるのも変な話なので、年末年始は各々家族と過ごそうということになった。
その代わり、本日、一月四日。
三が日が過ぎ、お正月の空気も少し落ち着いた頃。
うさフェチメンバーでしばらくぶりに集まり、初詣に行こうということになった。
薫衣もこの頃であれば調整が効くらしく、少し遅れたがお正月の挨拶も兼ねての集合だ。
「あけましておめでとうございます!」
いつもの駅で全員集合後、私はひとまずみんなに新年の挨拶。
「桃香あけおめー」
「あけおめー」
「あけおめェ――」
「あっけおめー」
リコ・ばにら・蜜羽・桃黄子は揃って「あけおめ」。
「あけましておめでとうございます」
薫衣丁寧に「あけましておめでとうございます」……。
なんか私がお嬢様サイドにいるみたいになっちゃったな……。
「まー、アタシはご近所さんだから桃香には元旦に挨拶に行ってんだけどね」
「ずりィよなァ――、地伊田はよォ――」
「とは言ってもさぁ、ご近所付き合いしないわけにもいかないし~?」
桃黄子のご近所特権マウントと蜜羽の食いつきも……そこそこ久しぶりだなぁ……。
「まーまー、とりあえず行こー?」
ばにらが二人を制し、みんなで駅を出発。
このまま初詣の神社に向かう――わけではない。
最初の目的地は――。
「じゃーん」
振袖を来たリコが、くるっとその場で一回転して見せる。
「どう? 似合う?」
「似合います! 滅茶苦茶似合います!」
私はその場で跳ねん勢いで大興奮。
私たちがいるのは、いつものホテルの和室の大部屋。
宿泊したり雑談したりするためではなく、この部屋で振袖を着付けて貰うために用意して貰った。
ちなみに振袖は薫衣が大量に所有しているものを貸して貰ったので、あくまでお友達への貸し出しという建前でレンタル代などはかからないら。
後で調べたら着付け込みでレンタル何万とか何十万とかの世界だった……配慮がありがたすぎる……。
「あーしはあーしはー?」
「アタシも似合うー?」
「ばにらも桃黄子も似合います! 最高です!」
金髪ギャル三人の振袖……イイ……。
このアンバランスさがたまらない……。
ちょっと……ほんのり背徳感というか……いけない組み合わせをしている感じではあるが……むしろそれがイイ……。
「あ、あたしよォ――……こういうの着るの初めてなんだけどよォ――……」
ちょっと遅れて着付けの部屋から出て来た蜜羽は……すごいことになっとる!!
普段黒豹の尻尾が如く束ねていた黒髪を解き、後ろで綺麗に丸くまとめ直してお花のかんざしで固定!
振袖とベストマッチな長身美女に!
不良っぽさはどこへやら! どこからどうみても大和撫子!
「ほ……本当に着るの初めてなんですか……?」
「お、おうよォ――……」
「勿体ない……もうずっとコレで行きませんか」
「いや振袖じゃ学校通えねえじゃあねーかよォ――……」
蜜羽のギャップに萌えていたら、その後ろから薫衣。
うむ……流石に元々大量に所有しているだけあって、思った通りの完璧な振袖姿……。
……あれ? なんか光ってない?
全身にキラキラしたパーティクルのエフェクトかかってない?
「……? いかがなさいました?」
「あ、いえ……すごくキラキラして見えて……」
薫衣に首を傾げられたが、キラキラパーティクルの幻覚が見えてましたとは流石に言えなかった。
それにしても……金髪ギャル三人! 普段は不良スタイル! お嬢様! どの属性も振袖を追加した途端深みが増す!
とんでもねえ眼福イベントだ……みんなの恋人でよかった……。
「桃香も可愛いよ~、やっぱ黒髪ボブカットは和が合うね、和が」
「えへへ、ありがとうございます」
リコに褒められた。
フフ……まさか一般人に偽装するためのモブ風黒髪ボブカットがこんな風に生きるとは……運命とはわからぬものよ。
「でも、唐狩さんのサイズでよくみんな入ったね……特に豹堂さん」
桃黄子がそんなことを口にするが、確かに不思議な話。
薫衣は私ほどではないが結構小さい方。
蜜羽の身長によく合わせられたな……と思ったら。
「実は、皆さんにお貸ししたものは、かなり前にわたくしが成長した後のサイズを考えて両親が購入してくれたもので……豹堂さんのものに関しては極端に身長が伸びた場合を想定して購入しておいたのだと……」
という事情を、薫衣が教えてくれた。
「……背が伸びる度に買い直した方がよかったんじゃない?」
「当時、まとめて購入するとお得だったそうで……」
リコの疑問にも薫衣がしっかり答えてくれたが……着物ってまとめて買うことあるのか……。
答えがまた知らない世界の領域……。
……ん? 待てよ?
背が高い人に合う着物は……薫衣の背が伸びた場合を想定して購入したもの……。
じゃあ……。
「あの……薫衣……薫衣よりも背が小さい私が着ているこの振袖は……?」
「あの、それは……実は……」
薫衣はかなり口籠ったが、観念したように口を開く。
「……わたくしが小学生の頃の……ものでして……」
やっぱりかッ!!
そりゃそうだよな身長140cm級の振袖って子供用しかないよなッ!!
高校生が着れる140cm向けの振袖って条件満たすことほぼないよなッ!!
「だ、大丈夫だよ桃香……あの……すごく……似合ってる……から……?」
先程褒めてくれたリコが、フォローのような、フォローになっていないような言葉を投げかけてくれた。
なんかちょっと最後疑問系の感じだったし……。
「なあよォ――……? それってよォ――……?」
同じく疑問系の口調でススー、と忍び寄って来たのは蜜羽。
「桃香さん……実質今小学生の格好してるってことでよォ――……♡」
「蜜羽ッ! その大和撫子状態でフェチったトロ顔しないでッ! 勿体ないからッ!」
その後、近くの神社へ。
三が日は過ぎているとはいえ、まだ十分過ぎるほどの人混みだった。
参拝の列もできていたため、私たちは揃って最後尾に並ぶ。
「あれだよねー、二礼二拍手一礼でいいんだよねー?」
列に並んでいる間に、ばにらが参拝やり方を聞いて来た。
神社によっては異なる場合もあるが、この神社の場合は二礼二拍手一礼で問題ない。
「はい、それで大丈夫ですよ」
「そんでー……最後の礼をしながらお祈りでいいんだっけー? お祈りしてから最後に礼だっけー?」
「……どうでしたっけ……?」
細かい所がうろ覚えだった私は、つい聞き返してしまった。
ばにらも「?」の顔で困っている。
そんな私たちを助けてくれたのが、後ろにいた薫衣。
「二礼二拍手の後にお祈りです。お祈りが住んでからお辞儀で締めくくります」
「おお……ありがとうございます」
「唐狩さんありがとー」
私とばにらで二礼二拍手なしの一礼を、薫衣に。
無事参拝を終え、私たちは初詣の屋台でおやつタイム。
暖かいおしるこを頂き、近くの飲食用のテーブルへ。
椅子は無いため立ち食いだが、おしるこを持ち続けていると中々熱くなってくるため、一旦置くことのできる場所が用意されているのはありがたい。
「みんな、お祈り何お願いしたー?」
おしるこの白玉をもぐもぐと食べながら、桃黄子がみんなに聞く。
行儀よく食ってくれよ桃黄子……この振袖におしるこ垂らしたら大惨事だぞ……。
「いや、初詣で祈った願い事ってよォ――、口に出したら叶わなくなんじゃあねーのォ――?」
「えー? 口に出した方が叶うんじゃなかったっけ? 言霊的な奴でさぁ」
蜜羽と桃黄子の対極の意見。
私はどちらかと言えば「言わない」派だが……確かに言霊理論もどこかで聞いた事がある気がする……。
どちらかが正しいのか……再び薫衣に助けを求める視線を向けてみる。
察した薫衣はニコリと微笑むと……。
「どちらでも大丈夫ですよ。ご自身が信じる方を選ぶのが最適です」
という回答を貰った。
いいんだ……どっちでも……。
「桃香はアレでしょー? 『みんなを幸せにできますように』とか祈ったんでしょー?」
リコがニヤニヤしながら聞いてきた。
が……残念、その予想はハズレだ。
「いえ、実は私、そもそも願い事してないんです」
「えっ?」
確かに、「みんなを幸せにする」という目標はある。
でも――。
「みんなを幸せにするのは神様じゃなくて私ですから。神様に頼むようなことはしませんよ」
ずるる、と、おしるこをひと啜り。
おしるこを口元から離した時、周りのみんなは頬を染め、ぱちぱちと瞬きをしていた。
「……言うじゃん……」
先程まで、人を揶揄うようなニヤニヤ顔だったリコも、照れ恥ずかしそうな顔でそっぽを向く。
「だから――『大切なみんなと出逢わせてくれてありがとうございました』って、神様にお礼言って終わりにしました」
と、みんなに教えると――。
「あ゛~……待って待って桃香……二段構えはずるい……♡」
顔はそっぽを向いたままだが、耳まで赤くなっているので赤面が十分に伝わるリコ。
「えへへへー、いいなー、それー♡ あーしもそういうの祈っとけばよかったかなー♡」
顔を赤くしつつ嬉しそうなばにら。
「……あたし神様より桃香さんにお礼言うッ……!♡」
真っ赤な顔で、おしるこに使っていた割り箸を折らんレベルで握りしめる蜜羽。
「桃香さん……♡」
おしるこをテーブルに置き、頬を染め、うっとりした目で私を見つめる薫衣。
「いやぁ……甘いなぁ……おしるこより甘いなぁ……♡」
ずるずるおしるこを啜りつつ、赤い顔で呟く桃黄子。
五者五様の反応だが……嬉しそうな様子なのは全員同じだった。
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