第44話 兎佐田桃香はサキュバスである?

 ようやく始まった、文化祭の打ち上げを兼ねたハロウィンパーティ。

 始まるのが遅くなってしまったため、準備の際はお菓子を作りつつ、同時並行でサンドイッチも作り、途中で昼食休憩を挟んだ。

 そのため、パーティは完全にお菓子のみのティーパーティだ。


 ジャック・オ・ランタンの型で型抜きしたカボチャ入りクッキー、カップケーキにパンプキンクリームを盛ったもの、丸いマシュマロにチョコペンで顔を書いたガイコツ風マシュマロ、チーズケーキにラズベリーシロップを垂らして血痕のようにしたもの……等々。

 これらに合わせ、薫衣が用意してくれたのは真っ赤なローズヒップティー。

 特に赤がハッキリと出るものをわざわざ選んでくれたらしく、まるで血を飲むかのような雰囲気を味わおうという提案だった。

 もちろん、味は普通に……いや、すごく美味しいローズヒップティーなので安心。


 そしてハロウィンといえば当然!

 オバケのコスプレである!

 蜜羽は相当張り切っていたのか、いつものレオパード柄スーツケースに加え、もう一個、色違いのスーツケースを持って来ていた。

 それぞれみんなで衣装を選び、別室でお着換えタイム。


 リコは三角帽子と黒いローブが目立つ魔女。

 元々の金髪と相まってとても雰囲気が合う。

 杖とか箒があればなお完璧なのだが……大きさの都合で蜜羽も持って来るのが難しかったとか。

 代わりにお菓子作りに使っていた菜箸をタクトっぽく持つのはどうかとリコは行っていたが、うん、それは雰囲気ズレるかな……。


 ばにらは幽霊船の海賊をイメージした海賊コスチューム。

 ボロボロの海賊帽子とマントを羽織り、玩具のサーベルを構えたスタイル。

 コスプレセットには眼帯もあったらしいが、「見辛いからいらなーい」と言って外していた……。

 自由だ……まあ海賊だしな……。


 蜜羽は男装寄りのヴァンパイア。

 カッコよッ! なんだこのイケメン女子は!? クラスメイトが見たらめっちゃ隠れファン増えそうッ!

 キバも口にはめ込むタイプのものを使っていたが、この後食事なのでそそくさと外していた。

 可愛い。


 薫衣はゾンビナース。

 ゾンビと言ってもナース服に血のような模様がついていたり、包帯が巻いてあるように見えるタイツを履いている程度の可愛らしいもの。

 ぶっちゃけ可愛さ追及したらナースだけでよくない? と思ってしまったが、一応ハロウィンパーティなのでオバケやモンスター系の要素は必要か……。

 ……普通のシンプルなナースコスも今度頼もう。


 桃黄子は猫耳パーカーと猫手袋、鈴付きチョーカーの猫!

 全体的にみんな猫似合うだろうなぁと思ってはいたけどここで桃黄子が猫かッ!

 撫でたい……抱きかかえてお腹わしわし撫でたい……。

 ……想像したらなんかえっちぃな……。


 そして私は――。

「……サイズ合いそうなのコレしかなかったんですが……」

 へそ出し……どころかお腹丸出しなノースリーブの黒いトップス。

 かなり太ももの付け根まで露出する黒いホットパンツ。

 そこから脚は生足丸出しで、裸足に黒いパンプス。

 そして湾曲した角のカチューシャ。

「……悪魔、ですかね?」

「いや、悪魔っていうか……」

 リコが私のコスプレを上から下までゆっくり眺め……。

「……サキュバス?」

「さきゅッ……!?」

 ちょっと待ていリコ!

 誰が淫魔じゃ! 黒髪ボブカットで低身長貧乳メガネの淫魔がおるか!

 ……日本人のマニアックなクリエイターたちの作品漁ればギリギリいそうだけども!

「いや、これはサキュバスでしょ。えっちだよこれは」

「サイズ合うの見つけたとしてー、それよく着れたねー」

「わたくしはいいと思います!」

「アタシもいいと思う。興奮する」

 蜜羽を除く四人が好き放題言いやがる。

 蜜羽は顔を真っ赤にしつつ、顔を手で隠して私の事を見ないよう……いや指の隙間から見ているなッ!?

「いや! でも! コレこういう衣装なんですよね!? 蜜羽の持ってきたこういう衣装なんですよね!?」

 私は蜜羽に詰め寄る。

 蜜羽はゆっくりと顔から手をどけ、私の姿を一瞬見てから慌てて目をぎゅっと瞑り―。

「……それ、インナー……」

 と答えた。

「……はい?」

「ちょっと露出高い服の中に着るインナー……それ単体で着るんじゃない……」

 ……。

 あー……なるほど?

「ちょっと上に着る服探してきますッ!」

「えー、待ってよ桃香」

 その場から逃げる勢いで服を探しに行こうとした私の腕を、リコが掴んだ。

「いいじゃん、この部屋空調聞いてるからその格好でも寒くないでしょ?」

「そういう問題じゃないんですよ! 私このまんまじゃほぼ痴女じゃないですか!」

「ウチは桃香が痴女でも好きだよ♡」

「その愛は今はいらない!」


 その後も私は必死に抵抗したが、私のこと大好きな彼女たちが私のこんな姿を逃すはずもなかった。

 ソファに座った私の両隣を蜜羽とばにらが陣取り、ソファの背もたれの方からリコと桃黄子が私を覗き込むようにスタンバイ。

 そして案の定、足元には薫衣がいる。

 ……ゾンビナースの格好だから今にも足に食らいつきそうだな……。

「あ、あの……桃香さん、パンプスを脱いでいただいても……?♡」

「脱ぐぐらいならいいですけど……噛まないでくださいよ!? 食べないでくださいよ!? 食べるにしても除菌シートで足拭いてからにしてくださいよ!?」

「……努力はいたします♡」

「何ですか今の一瞬の“間”は!? あと断定じゃないんですか!?」

 色んな意味で怖いが、ひとまずパンプスを脱ぐ……。

 途端に甘噛みが来た!

 いや、違う! 噛まれたのはじゃない!

 だッ!!

「ばにらッ! 耳甘噛みするのはいいですけど急はやめてくださいッ!」

「でもほらー、あーし今海賊ゾンビだからぁー♡」

「そのコスプレゾンビ属性ありましたっけ!?」

「あー……じゃあ今からつけるー♡」

 じ……自由!

 この海賊自由すぎる!

 そしてもう反対からは……何やら荒い息遣い。

 ばにらに耳を甘噛みされながら視線をそちらへ向けると……蜜羽が手で目を隠しつつ、指の間から私を見てハァハァ言っている。

 ……一見すると不審者だな……。

「あの……大丈夫ですか」

「い、いや、その……この格好の桃香さん見てるとよォ――……犯罪臭がすごいというか……」

「正しい感想ですよ! 私まだ高校生ですからこんな痴女じみた格好犯罪臭がすごくて正しいんですよ!」

「それはそうなんだけどよォ――……なんつーかよォ――……もっとヤベー臭いがするっつーかよォ――……♡」

 そう言いながら興奮してる蜜羽も別の意味で犯罪臭!

「うん、めっちゃヤバい匂いする♡」

「リコはリコで匂いの意味が違いますよね!?」

 上から私の匂いを嗅ぐリコの姿はもはや安定感すら覚える!

「っていうかヤバい匂いとは!? この服別に匂い増える要素ないですよね!?」

「んー……桃香、サキュバスの格好してるからさぁ」

「したつもりはないんですけど!?」

「たぶんウチらを誘惑する何かが出てる」

「出してませんけど!?」

 私を何だと思っているんだ!

 まあぶっちゃけこの五人の女の子に囲まれてる状態は……女の子を誘惑する何かが出てる可能性も完全に否定はできないけども!

 あと反応返って来てないの桃黄子だけど何してるんだ!?

 リコと反対側の上を見上げると……。

「……へへ♡」

 ピンキーリング見てニヤニヤしてる――!

 ここに来てフェチと関係なく普通に恋する乙女みたいなことしてる――!!

 ある意味今までで一番のギャップ!!

 やっぱ萌えるなぁこの人!!

「……じゅるる♡」

「んぉうッ!?」

 全員ぐるっと反応確認してたら、ばにらが私の耳をだいぶがっつりしゃぶり始めてるッ!

 もう甘噛みどころか食べる勢いでやってるッ!

「ば、ばにら……なんか、いつにも増して耳への食いつきがおかしくないですか……?」

 物理的な意味で。

「んー……なんかさー……」

 どことなく、アンニュイな雰囲気の表情を浮かべるばにら。

 なんだ……まさか本当に私の体から女の子を誘惑する何かが出てそれに反応してるのか――!? と、思わず身構えてしまった。

 が、ばにらの回答は。

「お腹空いてきたから……」

 だった。

「じゃあお菓子食べましょうよッ!! 皆さんもハロウィンパーティってこと忘れてませんかッ!?」


 その後、ようやくまともに始まったハロウィンパーティ。

 だいぶ遅くなってから食べ始めたため、おやつ頃から夕方にかけてお菓子でお腹がいっぱいになってしまい、帰宅後、家で用意された夕飯はあまり入らなかった……。

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