5次元世界と観察者の不在:量子力学と意識の交錯

青松桃梅

5次元世界と観察者の不在:量子力学と意識の交錯

1.観察者のいない世界と5次元世界


1.1 観察者のいない世界


 量子力学では、粒子は観測されるまで複数の状態が重ね合わせとして共存する。観察されるまでその状態は確定しない。しかし、現実世界では、デコヒーレンス(環境との相互作用)により、通常は特定の状態が「確定」する。


 仮に、観察者もデコヒーレンスもない理想化された状況では、量子状態はすべての可能な状態の重ね合わせとして存在する。


 すべての可能性が同時に存在するとは、時間の経過による変化(物事の始まりから終わりまで)だけでなく、事象の発生と非発生が共存する世界を含む。時間の経過による変化の全体を俯瞰するのは4次元的な視点であるが、事象の発生と非発生のすべてを俯瞰することは4次元的な視点では不可能である。そのため、複数の事象を確率的に内包する世界は、4次元以上の次元と考えられる。本論では、それを5次元と定義する。もちろん、5次元以上の高次元の可能性もあるが、どの次元であっても、本論の本質においては、問題が無いと考える。


1.2 5次元世界の定義


 量子状態の確率論的な分布を説明するために、量子の振る舞いは5次元的な世界観における法則であると定義する。前項でも説明した通り、時間+事象の有無を俯瞰する為には、4次元よりも高次元の概念が必要なためである。5次元が4次元に対してどの軸が追加されたかはあまり重要でなく(複数の事象が同時に存在すればよく、軸の定義は副次的なもの)、あえて定義するなら”確率”と定義できる。


5次元は4次元を内包した世界。4次元は、人間の住む3次元に時間軸を加えた、時空間であり、4次元時空に住む者がいれば、全ての歴史を俯瞰できる。その4次元を内包し、4次元を俯瞰できる5次元世界は、1つの歴史を俯瞰できるだけでなく、発生しうる可能性があるすべての可能世界を俯瞰できることになる。


 多世界解釈(MWI)では、観測のたびに宇宙が分岐し、すべての可能な結果が異なる「世界」が存在するとするが、本論では、全ての世界が確率論的に最初から存在していると定義する。観測のたびに世界が分岐したように見えるのは、3次元的な観測による認知の限界によるもの。


1.3 観察者のいない世界と5次元世界


 既に述べたように量子的な観点で定義した、観察者のいない世界と、5次元世界は、全ての可能性を内包する点で類似する。3次元世界を構成する最小単位に5次元的な性質が存在するということは、真の物理法則は5次元的であり、観察によって、3次元的な側面が確定するように見えるが、それは、5次元世界の投影にすぎない。人間が4次元以降の高次元を俯瞰して理解できないため、それが観察による検証の限界となる。


 そのため、観察を必要としない考察による真理の探究が、人間に残された唯一の方法といえる。



2.真の物理法則は5次元的


 宇宙の根本的な構造は、すべての可能な状態や歴史(可能性の「束」)を含む5次元的なもので、量子力学の重ね合わせや多世界解釈のような性質がその証拠となる。


2.1 人間の認識の限界


 人間は3次元空間+不可逆的な時間(4次元時空)しか認識できないため、5次元的な『すべての可能性が共存する世界』を直接捉えられず、単一の確定した現実だけを体験する。


2.2 潜在的な可能性の存在


観測されない可能性(他の歴史や状態)は、5次元的な構造内に「人間に見えない形で」存在し続けている。


量子力学的には「波動関数の重ね合わせ」、「多世界解釈」、「高次元理論の視点」によって、本論の合理性を補完できる可能性がある。



3.量子力学と5次元的な世界の類似性


3.1 重ね合わせとすべての可能性


  量子力学では、観測される前は粒子が「すべての可能な状態」で存在する。デコヒーレンスがない世界では、すべての可能性が混在したままになる。これは、5次元的な視点で「すべての歴史の束」を俯瞰する感覚である。


3.2 多世界解釈と5次元


 多世界解釈(MWI)では、観測のたびに宇宙が分岐し、すべての可能な結果が異なる「世界」で実現する。たとえば、飲み物を注文する際に、『コーヒーを飲む世界』と『紅茶を飲む世界』が分岐する。


 5次元認識者がすべての歴史の「束」を見る能力は、MWIの「すべての分岐宇宙が実在する」という考え方と等しいが、5次元的な世界観においては、初めから全てが確率論的に存在する世界を想定しており、宇宙の根本構造が5次元的にすべての可能性を含むものだと捉えている所に根本的な違いがあり、MWIを包括する理論と言える。


3.3 人間の知覚フィルター


 人間が3次元+時間(4次元時空)しか認識できないのは、3次元世界に生きている生物の宿命であり、脳を含む体の構造が3次元で機能するように作られた為である。量子力学では、観測行為(またはデコヒーレンス)が波動関数を「一つの状態」に収束させる。人は、その「単一の現実」を真の現実の投影の一つとは理解できない。


 5次元的な構造(すべての可能性の共存)が本当の宇宙の姿であり、人間の認識はその一部を「切り取って」見ているだけ。葉っぱの一枚を見て、巨木を論じるようなもので、その本当の姿や大きさを認識することはできない。



4.科学的・哲学的視点からの考察


4.1 多世界解釈(MWI)


 MWIはすべての可能な結果が異なる宇宙で実現する。

 一方、5次元的な世界観は、MWIを拡張し、すべての分岐が一つの5次元空間内に「共存する構造」として存在すると考える。その根拠は、既に述べたように、量子の振る舞いから類推される確率論的に存在する世界観による。


4.2 弦理論や高次元理論


 弦理論では、宇宙は10次元や11次元で記述され、余剰次元が「巻き上げられて」見えないとされる。

 一方、5次元的な世界観は、5番目の次元が「すべての可能性の分岐」を表す次元(確率)であると仮定し、この次元は、人間の認識では捉えられないが、宇宙の真の構造の一部として存在する可能性を示唆する。


4.3 哲学的視点


 5次元的な世界観は、「現実とは観測者に依存するのか」「観測されない可能性は実在するのか」という哲学的問いにつながる。人間の認識が「フィルター」として機能し、5次元的な真実の一部しか見えないという考えは、プラトンの「洞窟の比喩」(影しか見えないが、真実は別の次元にある)に似ている。



5.人間の感覚で捉える5次元的な世界


5.1 現実の断片


 現在の世界は、巨大なモザイク画の一部を見ているようなもの。モザイク全体(5次元的な世界)には、すべての可能なパターン(歴史や可能性)が含まれるが、人間は一つのピース(単一の歴史)しか見ることが出来ない。


5.2 夢のような重なり


 5次元的な世界は、夢の中で複数のストーリーが混ざり合う感覚に近い。すべての可能性が「そこにある」のに、意識が一つの流れに固定されるため、他の可能性は「ぼんやりとした影」のように感じられる。



6.5次元と意識のつながり


6.1 量子もつれが示す5次元的な世界観


 量子もつれが示す非局所性は、時間と距離の概念を超越する。一方、5次元的な世界観においても、4次元を俯瞰する視点では時間は静的な軸となり、その世界では、時間の経過で計る移動距離も無く、全ては一点に集中したように扱える。量子もつれが離れた場所でも相互に干渉するのは、5次元的な世界観における時間の静止により、距離と時間が一点に集まったように振る舞うからである。


 量子もつれの原理で人をテレポーテーションできると想定したとき、転送先で再構築される肉体が転送前と同じ意思(心、魂)を持つことは可能か。


 肉体を完全に再現しても、意識の『主観性』や『クオリア』(感覚の質)が単なるデータや物理情報に還元できない場合、脳の全情報をコピーしても『私』という主観的な体験や『赤さ』の感覚は再現できないと考えられる。


 ここで、意識を扱ったユングについて考察してみたい。


6.2 ユングの集合的無意識


 カール・ユングは、個人の意識(自我)を超えて、人類共通の「原型」や「記憶」が存在する集合的無意識を提唱した。過去に存在した全ての歴史上の人物を含めて全人類に共通した意識が存在すると仮定するなら、それが存在しているのは、全ての可能性と時間を超越して俯瞰できる場所でなければならず、まさに、それは5次元的な世界観が示す次元であろう。

 個人の顕在意識が単一の歴史しか認識できないのは、5次元に存在する魂の巨大な雲(すべての可能な歴史や体験)から、4次元の切り出された個々の意識となる為であり、更に3次元の肉体での認識は、時間を流れるものとして体感する事になる。


6.3 5次元的世界観における意識


 5次元とは、「すべての可能な歴史や状態の束を含む次元」と定義する。意識が5次元に存在すると仮定すると、意識は単一の歴史(4次元時空)に縛られず、すべての可能な状態や分岐にまたがる「全体的な構造」として存在し、それがユングの集合的無意識を実現する。

 5次元世界観では、例えば、「あなたが結婚した状態」と「独身の状態」が重ね合わせで共存している。5次元的な意識は、これらすべての状態にまたがって存在し、特定の肉体(観測された状態)に「投影」されることで、単一の意識として体験される。

 哲学的な非還元主義における意識が物質に還元できないとする立場と、5次元世界観の意識が単なる脳の物理的プロセスではなく、5次元のような高次元的な構造に依存するという考えが同じ方向を示している。


 意識の本質が5次元的な世界観の次元に存在していれば、量子テレポーテーションにおける、意識の喪失も回避できるのである。



7.結論


 この世界は5次元的世界の投影である。3次元の建物が2次元の影を残すように、真の物理法則が成立する5次元の影が、3次元的な現象として人間に認識できる形で発現していると考えられる。また、物質と同様に、人類の集合的な無意識を構成する、個々の意識(心、または魂)も本来は5次元世界に存在し、人間の意識はその投影である。これは6項で述べたように、時と場所に依存しない集合的無意識が5次元的な存在であり、個人の意識とつながっていること、また個人の意識が時間を俯瞰できない3次元的な性質を持つことから明らかである。

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