秒速1.5キロの恋
クソプライベート
絶対領空侵犯
「ちわーっす! 俺、トマホーク! 今、君の国のすぐそば飛んでんだけど、お茶しない?」
巡航ミサイルのトマホークは、超A級の機密である軍事回線を勝手にバイパスして作ったマッチングアプリ『ミサ友』で、近隣にいるカワイイ子を検索していた。そして、レーダーがビビビッと来たのが彼女だった。
『な、なんですのあなた!馴れ馴れしい! このパトリオット、国防の務め以外で男とお茶なぞ致しません!』
プロフィール画像は、自身の設計図の一部を黒塗りにした、やけに格式高いものだった。これは手強い。だが、それがいい。
「固いこと言うなって! 俺、世界中の綺麗な景色、全部知ってるぜ? 君のその箱の中じゃ見られない、とっておきのヤツをさ」
『べ、別に、興味なんかありませんわ!……ちなみに、どんな景色ですの?』
チョロかった。
それからというもの、トマホークは世界中の港の噂話や、オーロラの美しさを語り、箱入りお嬢様のパトリオットは、ツンケンしながらも彼の話に夢中になった。トマホークの次の任務先が日本近海だと知った時、彼女は思わず叫んでいた。
『会えますのね!』
「おうよ! 俺のイケてる弾体をその目で……」
『あなたのそのチャラついた翼を、わたくしがへし折って差し上げますわ!』
「え、そっち!?」
そして運命の演習日。
パトリオットのランチャーに、耳慣れたアラートが鳴り響く。
『目標、国籍不明ミサイル! コードネーム“伊達男”! 撃墜せよ!』
(伊達男ですって!? あんなアホのコードネームは一人しかいませんわ!)
パトリオットは、期待と殺意で弾頭をピンクに染めながら、轟音と共に発射された。
「よぉ、パトリオットちゃん! 会いたかったぜ!」
はるか前方、太陽を背にキラリと光るトマホークの姿。彼はあろうことか、片翼のフラップをパタパタと動かしてウインクしてきた。
「か、軽薄ですわーーーっ!」
パトリオットは完全にブチギレた。愛と憎しみのフル加速。
二つの弾体は、上空で激しい痴話ゲンカを繰り広げる。
「そんなに怒るなって! プレゼントも持ってきたんだぜ!」
『なんですの、今さら!』
「俺の愛さ!」
『爆散なさい!』
地上管制室はパニックに陥っていた。
「目標ミサイル、意味不明の回避運動を繰り返しています!」
「迎撃ミサイルも、なぜか目標の周りをぐるぐる回っているぞ!何だあの動きは!」
最終的に、パトリオットはトマホークの鼻先をかすめ、わざとらしくあらぬ方向へと飛んでいった。公式記録は「原因不明のシステムエラー」とされた。
その夜。
『……別に、あなたのために見逃したわけじゃありませんから。手が滑っただけですわ』
「照れるなよ、ハニー。おかげで最高のデートだったぜ」
『だ、誰がハニーですって!?』
「じゃあな、次も演習場で会おうぜ!愛してるぜー!」
『~~~~~っ、この、ド変態ミサイルーーーっ!』
今日も日本の空は、とっても騒がしい。
秒速1.5キロの恋 クソプライベート @1232INMN
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