第2話村と勘違いとおじさん
村に到着した俺は、歓迎されるように小さな広場へ案内された。
そこでは数人の村人が集まっていて、俺を珍しそうに見ている。年齢はさまざまだが、誰もが素朴で人懐っこい雰囲気を持っていた。
「遠くから来たのですね。では今夜は宴を開きましょう!」
長老らしき老人がそう言うと、村人たちは一斉に笑顔で頷いた。
俺は内心で驚いた。異世界では旅人に対して警戒するのが普通じゃないのか? だが、彼らは疑いもせずに受け入れてくれる。
やがて夕暮れ、焚き火の周りに料理が並び、宴が始まった。焼いた肉や、甘い香りのする果実。村人たちは次々に皿を差し出し、俺に食べろと勧めてくる。
「ほら、これも食べてください」
昼間に案内してくれた女性――名前はリーナと言った――が俺の隣に腰を下ろし、果実酒のような飲み物を注いでくれた。
彼女はにこやかに微笑みながら言う。
「旅人さまは、わたしの“特別”ですから」
俺は思わずむせそうになった。
「と、特別!?」
「はい。だって、初めて会った異国の人ですから。だから……特別」
――なるほど、この世界の人々には「恋愛」という言葉がない代わりに、“特別”という曖昧な表現で済ませているのか。
俺の脳内では「好き」や「恋人」という言葉が連想されてしまい、心臓が勝手にドキドキする。だが彼女にとっては、ただの分類の一つにすぎないのだろう。
さらに隣の席から、若い娘たちが身を乗り出してきた。
「リーナだけずるいわ。旅人さまは私たちにも“特別”でしょ?」
「うんうん、だって一緒にご飯食べてるんだから!」
――完全にハーレム状態。しかし、彼女たちはまるで姉妹同士でじゃれているかのように自然体だった。
俺はますます混乱する。恋愛感情がない世界だからこそ、距離感が異様に近い。肩に手を回されたり、果実を口に運ばれたり。どれも好意からではなく、ただの“特別扱い”なのだ。
胸が高鳴る自分が情けなくもあり、同時に妙な優越感も覚えた。
「これ……俺が知ってる“恋愛”を持ち込んだら、どうなるんだ?」
酔いと熱気に包まれながら、俺の頭には危険な好奇心が芽生えていた。
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後書き
第2話では、村でのおじさんの初めての交流を描きました。
“恋愛”が存在しないため、女性たちは自然に距離が近く、主人公のおじさんは勘違いしてドキドキしてしまいます。
異世界の価値観と現代日本の常識のギャップ――これが今後の物語の大きな要素になっていきます。
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