童貞おじさん異世界来たけど、そこは恋愛の概念が一切存在しない世界だったので布教活動したいと思います
髙橋ルイ
第1章:恋愛のない世界へ
第1話トラックと異世界とおじさん
俺は、ごく普通の
夜勤明け、疲れた足で横断歩道を渡ろうとした瞬間、眩しいライトとけたたましいクラクションが俺を包んだ。反射的に「やべっ」と声を漏らした時には、もう巨大なトラックの影に飲み込まれていた。
――そして次に目を開けた時、そこは病院でも天国でもなく、見知らぬ草原の真ん中だった。
「……は?」
青々とした空と、どこまでも続く緑。見渡してもビルも道路もなく、聞こえるのは小鳥のさえずりだけ。どう見ても異世界転移だ。
俺はアニメやラノベの読みすぎだと笑いそうになったが、状況がそれを許さなかった。自分の体はしっかり存在しているし、地面に触れた感触も本物だ。
「マジで……異世界?」
少し歩いていると、小さな村を見つけた。そこに住む人々は質素な服を着て、俺を見ると驚いたように声を上げた。
「あなたは旅人ですか?」
「どこから来たのです?」
やさしい表情の女性が声をかけてきた。見た目は二十代前半くらいで、整った顔立ちをしている。だが――何か違和感があった。
彼女は俺を案内しながら、村について説明してくれた。食べ物の分け方、畑の手伝い、村の掟。けれど、一つだけ話題が出てこなかった。
男女の関係。結婚や恋人といった言葉が、まるで存在していないように避けられている。
「そういえば……旦那さんは?」と俺が何気なく聞くと、彼女は首を傾げた。
「だんな……? それは何かの役職ですか?」
冗談かと思ったが、目は真剣だった。
その瞬間、俺は悟った。
この世界には――恋愛という概念が存在しない。
胸の奥がざわついた。恋人も結婚もない世界。俺にとっては縁遠い話だったが、それでも「当たり前」として存在してきたものがごっそり欠落している現実に、強烈な違和感を覚える。
童貞である俺にだって、恋愛や人間関係についての知識はある。むしろ「知識しかない」と言った方が正しい。だが、この世界でその知識は、誰も持っていない“新しい文化”になるのかもしれない。
「……もしかして俺、ここで“恋愛の布教者”になれるんじゃないか?」
半ば冗談でつぶやいたその言葉は、しかし俺の胸に妙な確信を残した。
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後書き
第1話は、主人公である“おじさん”がトラックに轢かれて異世界にやって来るまで、そして「恋愛」という概念が存在しない世界に気づくまでを描きました。
童貞であるがゆえに、知識だけはあるおじさん。彼がこの世界でどう動くのか――ここからが物語の始まりです。
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