第9話 完クリ宣言

 そもそも魔力が暴走して死ぬとはどういうことか。

 俺はあのときの司教と父の会話から一つの仮説にたどり着いたのたわ。

 まず、魔力量が多いことがファクターの一つとして挙げられていた。が、それは魔力量がありすぎるとどうなるかわからないとか、魔力量が多すぎるから魔力の暴走が起こった場合には被害が甚大になるってしまうから大変だ、というような会話だったと思う。

 つまり、魔力量が多いことは懸念材料ではあるが、魔力の暴走が怒る絶対条件ではない、ということだ。

 そうなると、魔力の暴走が起こる絶対条件は


 ――赤子のうちから魔力が発現している。


 こちらなのだ。

 そして、最も重要なのは司教のあの言葉。


 ――『どの赤子も自我や理性がないままに魔力を使い、一年以内には自らを滅ぼしてしまいました』。


 この言葉である。

 つまり、赤子から魔力が発現しているというのは、赤子ながら、魔法が使えてしまうということだろう。

 自我や理性のない赤子が魔法を使えるとどうなるか。これはすこし想像すれば見えてくる。

 赤子の要求の最初の意思は不快の訴えであろう。

 おなかがすいた、おしりが気持ち悪い、暑い、寒い、眠い、疲れた。きっとこんなもんだ。

 それを一般的な赤子はホギャホギャと泣き、母親や周りの者に訴え、それを察して大人が世話をしてくれる。

 お腹が空いたの?ミルクね、あらオムツを替えましょうね、となるのだ。

 で、だ。

 その赤子がもし魔法を使えたらどうなるだろうか。


「オギャー!(おなか空いたよファイヤー!)」

「ホギャァホギャア!(おしっこ出て気持ち悪いよブリザード!)」

「ミギャミャギャ!(なんか眠いのに眠れないよサンダー!)」


 となるわけだ。

 しかも、対象は母親かもしれないし、部屋のなにかかもしれないし、なんなら自分自身かもしれない。


「ふぁー……」


 想像して身震いする。

 それはまさしく災害だろう。そんなの親にも周りの者にも赤子本人にも止められない。

 しかも、それで魔力量が多い俺の場合は「フギャァ!(なんか背中がかゆいよバ〇ス!(終わりの呪文))」になりかねないのだ。

 こわい。シャオの前髪で隠れた目が「目がぁ、目がぁ…!」になってしまう。


「にゃい!」


 ない! そんなことは起こさせない! 俺は飛〇石を発光させない。大丈夫なのだ。

 なぜなら、俺は転生者。自我も理性もばっちりである。そんな思わずバル〇しちゃったよ、てへ。みたいなことは起こり得ない。

 まあ、それを伝えることは赤子の俺にはできないので、父やシャオに安全性を伝えることができないのが心苦しいが。

 シャオはやはり俺がホギャホギャ言うと、ビクッとするしな。


「にゃる」


 ――神童に。

 本来なら言語でコミュニケーションを取れるのは十分に成長してからだろうが、俺はそれをすっ飛ばすつもりだ。

 どうせ生まれたときから魔物の子と言われた俺である。

 今更、一般的なこどもの成長過程を真似る必要もない。

 早々に父やシャオにコミュニケーションを取り、自我と理性があることを納得してもらう。

 そして、俺に魔力の暴走の危険がないことを理解してもらい、俺は晴れて、この魔法結界だらけの家から出て、公爵家の神童として、俺の生を認めてもらうのだ。


 ――告げられた余命は一年。


 だが、もう半年経った。

 俺のこの赤子の魔力暴走についての仮説は正しかったのだろう。

 俺はあと半年必ず生きる。さらに、一刻も早く言語を習得し、さらに魔法も操ってみせる。

 父と母の仲違いのきっかけは俺だ。俺が生きているのを見れば、母は父のことをまた許せるようになるだろう。父も云われない誹りを受けることもない。

 そして、シャオもこんな小さい家に閉じ込められた生活が終わり、自由に暮らせるのだ!


 ――すべては俺の努力次第。


 だが、必ずやり遂げる! このハードモード、クリアしてみせるぜ!

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余命一年と言われたので、神童になって運命を変えようと思う しっぽタヌキ @shippo_tanuki

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