第26話 着物
「着物なんて、僕は初めてだ」
「あっそう?俺は……いや俺も実は初めてで」
「あ、そうなんだ。それにしてもこの着物、何処から?」
「かーちゃんの趣味。事情を説明したら、もうなんかめっちゃ持ってこられてさ」
「着物織るのが趣味ってこと!?結構すごいね」
「そうそう。結構すごいよね、なぜそれで持て余しているのか、というのも多少疑問だったりするわけで…あ、あった」
ガサガサとカバンの奥が探られ、1枚の着物が取り出される。パキッとした明るい白地に、うっすらと金の差し色の入った、170cm丈のもの。
「春陽クンはこういう色が似合うと思うのね。黒に良く映えるハズ…ってかーちゃんが言ってました。結構袖が広め短めだし、胸元も結構出るやつだけど。せっかく切ったんだし、見せたいだろ?只でさえ夏だしな。はいどーぞ。肌着は…まぁシャツで良いでしょ。下は…当日は半ズボンでも履いときな」
自前のシャツを着て、それからなんとなく広げて、羽織ってみる。
「…これどっちが前?」
「左らしい」
「帯とかは」
「取り敢えずこれで。紺色の、それとセットのやつね。付け方は」
「わからん」
「了解。因みに俺もよくわからん。調べるかぁ」
二人が、各々はだけた状態でスマホを開く。
「へぇー色々結び方があるわけね〜。よくわかんね…この貝の口ってやつ試してみるかぁ」
わからないなりに、彼らは帯を結ぶ。ずっと、心なしかぽわぽわと笑っている春陽を見て、夏目はニヤニヤしていた。
彼の目から見ても、春陽は一段と、いや、三段くらいはカッコよくなっている。きっと当日、ちょっと、いや、結構ガッツリ、紅葉を笑わせてくれるのではないかと思った。
「おおーなんかいい感じじゃん、春陽!白に黒毛のコントラストが映えるねぇ〜。他にも色々ある。かんざし…は今の短さだと挿さんないかな?あーあと、耳にかけるピアスとか、花飾りとかある。お好きにどうぞ」
「…今までの理論で言うとこれか?なんだこの白い花」
「えー、画像検索によると…トルコギキョウって花らしい。8月の誕生花なんだってさ」
「へぇ……じゃあこれもらうね。これ生花?」
「造花だよ」
「おっけー」
耳に挟んで留めるタイプだ。小さな白い花の飾り。
「………紅葉。今、僕…これ以上ないくらい、素敵だよ。これでダメなら…もう、僕たちは終わりになっちゃうのかな」
「春陽…」
「……いや。そんな気弱なことは言っていられないか。夏目!そして…言葉にはいないけど、囲炉裏にも。僕は、僕の全身全霊を掛けて。当たって砕けてくる」
「………そうか。じゃあ、俺たちはできるとこまで一緒にいるから。明日、頑張れよ!」
夏祭りは夏目と囲炉裏を含む四人。これは二人きりで行かないと主張する紅葉を、夏目と囲炉裏がごり押し交渉をして譲歩させたからだ。
決戦は、明日。
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