第2話 名は灯り、秩序は道
0 朝霧の市と、太い文字
鐘が三つ、霧を震わせる。
門前の広場に、仮設市場の屋根が影の列を作った。昨日まで野晒しの草地だった場所に、今日からは札と線が張られている。赤は道、青は水、白線は屋台の枠、黒い札は値段だ。
「値札は太く! 数字は誰の目にも! 針は真ん中、秤は見えるところ!」
ゴブリン族長イドラドが声を張る。歯の間から出る巻き舌が、朝の空気に心地よく響いた。
秤皿に重りを載せる音が、かちり、かちりと続く。
ラウム(金融庁長官)は掲示板に相場表を貼りだした。木炭の太い字で「黒炭=銀1、干し魚=銅2、麻束=銅3」。相場の右隣には小さく「きょうの検定鋼:良」とある。秤が正しいことは、まず金属で担保するのがこの国のやり方だ。
「婆ちゃん、その“1”の字、やっぱ細すぎ」
「細い字は上品なんだよ、兄さん」
「上品は読めるの先!」
ロノウェ(言語担当大臣)が苦笑しながらマルタ婆の屋台の札を太筆でなぞる。
「“太く書くのは、相手に優しくすること”って覚えてね」
「言い方が宗教だねぇ」
笑いが起きて、緊張の角が折れた。
黒い小箱の上に、宝石の欠片が置かれている。ブラックダイヤモンド。
濡れた雫のように暗く、よく見ると青が眠っている。
「触るの有料——銀1」
ゴブリンの少年商人が胸を張ると、ラウムが咳払いした。
「“王印なし原石の取引”は王室買上制の対象。勝手売りは没収になるから、触る値段で稼ぐのやめようね」
「へ、へい」
少年は慌てて札を裏返す。代わりに「加工見学 無料」と書かれた札が上がった。見せて惹きつけ、制度に乗せる。それがここでの商売の正解だ。
城壁上から見ていた奏音は、顎に手を当てた。(太い字、秤、札。人は“見える”と落ち着く。まずは今日も、見えること)
肩に止まった小さな虫の眷属が、ぱたぱたと羽を鳴らす。了解、の合図みたいで少し笑ってしまう。
1 役所は“顔”ではなく窓口で動く
政庁の間。大理石ではない、磨いた木の床の匂いが温かい。
奏音は玉座ではなく、地図卓の端に立った。王の顔は意識して保つ。眉はやや下げ、声は低め、歩幅は一定。胃は泣いてるが仕様だ。
「——国家を“窓口”で動かす。だから、省庁を今日から本運用に移すよ。任命は前回で済んでる。今日は“窓口の役割”を、市民にも、他国にも、見える形で立ち上げる」
ベレト(司法)とストラス(首席顧問)が厚いファイルを机に置く。
それは儀式ではなく、配布資料。扉の外には一般市民も列を作っている。この国の会議は「見せる前提」で進む。
「建築省(マルファス)——街区の割付と防火帯。『5m空地→2軒で共同』の原則は変更無し。瓦不足時は“交互屋根”で延焼を抑える」
「水資源(フォカロ・ウェバル)——井戸は十戸に一基。排水勾配1%。井戸ごとに消毒石標、清め済印を刻む」
「金融庁(ラウム)——毎朝の検定鋼刻印“L”。相場掲示の時刻は鐘一つ後。徴税は“薄く広く、掲示して堂々と”」
「治安(アモン)——槍の角度“七分伏せ”。夜の巡回路は赤線、行き止まりゼロ。賭場は登録制、未登録は閉鎖。逮捕は“見物可”だが煽り禁止」
「宗教省(フルカス)——祈り場不可侵。赤札は大。宗派儀礼は尊重、暴力と略取は大罪。聖職者も人名札常時携行」
「教育(アロケル)——寺子の教材は樹皮紙で増刷。読み書き手伝いには難民を雇い、賃金は“黒粥券+銅1/日”。字は太く」
奏音はまとめた。
「“制度は見える”——これがうちの作法。窓口の机は外に開いて、紙は壁に貼り、字は太く。苛烈な力は最後の手段にする」
“上に立つ者ほど法に縛られる”。
そう言い切ったとき、廊の向こうの市民席から小さく拍手が起き、じわじわと広がった。拍手の音も、政治資源だ。
2 寺子屋は祈りに似る
正午、寺子屋。
アレクサンドルが黒板に「な・ま・え」と太い字で書き、子どもたちが復唱する。
「な・ま・え!」
ミルド老人は木炭を持つ手が震え、孫ほどの少女教師が手を添える。
「“ミ”。斜めに降りて、上がって、止める。あなたの名」
紙に拙い線が刻まれ、老人の目に水が溜まった。
フェネクス(詩人委員長)が小声で添える。
「名は灯り/灯りは道/道は国」
若い男——捕虜出の伍長ロッツが入口で立ち止まっていた。
彼は三十日の労役を終え、今日、市民札を受け取る。
「俺にも、名の札……似合うかな」
「誰にでも似合うよ」奏音は笑って札に印を押した。「職は“警備補助”。導線の交差点で“赤を守る”のがあなたの仕事」
ロッツは頬を掻いて照れ、すぐ真顔になり敬礼した。名を返すと、人は名を守る側に回る——それが見たかった光景だ。
3 宗教の線引きは、共に居るため
午後、祈り場。
フルカスは赤い不可侵札を高く掲げた。
「“祈りは守る。祈りの名で殴るのは禁止”。異論は、公開討論で受ける」
エルフ族長タフィーラドが森に導線を延ばし、レナードは池の水面に小光を浮かべる。カフィーゼは石段の角を面取り、イドラドは供えの重さを量る。
宗教は衝突しやすい。だからこそ線を“先に”引く。線は争うためでなく、同じ場所に居られるようにするため。
奏音は祈り場の外縁に「静音区域」の札を追加した。
小声の祈りは届く。大声の政治は別の場所でやる。——順番は国の礼儀だ。
4 文化の息、労働の骨
夕刻、広場の端で笛が鳴る。
ブルソン(文化大臣)は「許可楽師札」を配り、“夕暮れの演奏は一日一座まで無料”の布告を貼った。音は治安と同じくらい、都市の緊張を薄める。
シトリー(労務)は仕事板を立てる。家屋修繕/石運搬/配水路清掃/読み書き補助——札には必ず賃金と時間。札の下の細札には「日払い/週払い」の選択欄。人はわかることに従う。
「“名札証婚”の受付始めまーす!」
婚姻窓口の列が伸びた。
「登録婚は権利の箱、教会婚は儀式の灯。式は自由、権利は書類で守るよー」
フォルネウス(文化副)とボティス(外交)が笑顔で補足する。
愛称併記は可、読み替え禁止線は周知。
ラウムは寄進箱の横に「寄進は自由、税は秤」の札を出し、神殿側も頷いた。線は神殿をも守る。
5 “見せる”司法
日暮れ前、臨時法廷。
ベレトが座し、左右にマルコシアスとフールフール。
被告は値札詐欺の商人と、名札偽装の婚姻詐欺カップル。
前者は罰金に加え、“ウソつきました札”を三日掲げる公示刑。後者は証人の名札偽装まで及んだため罰は重く、罰金+登録猶予+公開謝罪。
裁きは淡々と、見える。
軽い笑いも起こる。重い恨みは起きない。見える法は、復讐の熱を冷ます。
6 聖庁調査団:白と金の列
翌朝、北門の見張り旗が二度、三度。
ヴィネ(偵察総局長)が駆け上がってくる。「白と金。宗教旗、鈴、香。聖庁調査団——三十、護衛十二、法学僧五、記録僧三」
アモンは槍の角度を**“七分伏せ”にそろえ、ロノウェは二言語+妖精語の札を増やした。
門前の清め門**には、武器封蝋、祈り場不可侵、市民接触は許可制の三札。
先頭の長身が杖を鳴らす。
「悪魔の札で神の僕を縛るか」
団長、エゼキエル・ドミヌス。
アモンは一歩も引かない。
「神は縛れません。人を守る札なら、ここにあります」
後ろで奏音は心の中でメモした。(名言、ありがとう)
「公開で問おう」
エゼキエルが言い、広場での討論が決まった。
7 公開討論(1)——名と奴隷
円形に椅子。中央に証言台。赤線は取っ組み合い防止ゾーン。
最初の証言者はロッツ。
「矢を向けろと命じられた。でも下ろした。ここでは労役三十日を命じられ、名で呼ばれて帰された。俺は——人に戻った」
法学僧ラファエルが問う。「神の許しは?」
「わからん。でも、名を呼ばれたとき胸が静かになった。多分、それが神だ」
静寂が落ち、詩板が風で鳴った。
“名は灯り”。言葉が線になって、人の中を通っていく。
8 公開討論(2)——葬送の互換性
ラファエルが論点を切り替える。
「埋葬は神の浄めを必須とする。我らの方式と悪魔の方式は矛盾しないか」
フルカス:「遺体の所有権は家族。墓地は不可侵。神式・樹葬・水葬・土葬——全部選べる。必要なのは名札。名のない遺体は、まず名を探す」
タフィーラド:「根が名を覚える儀式。土の清めと矛盾しない」
レナード:「水面に名を映す。水は鏡、鏡は祈り」
カフィーゼ:「石は嘘をつかない。名を彫る」
イドラド:「供えは重さで正す。針は嘘をつかない」
エゼキエルは目を伏せ、短く頷いた。互換性。争点が線で溶ける。
9 公開討論(3)——婚姻は式と書類
ボティス(外交)が笑って言う。
「婚姻は三本建て。教会婚(儀式)/登録婚(権利)/名札証婚(相互保証)。式は好み、権利は書類で守る」
シトリー(労務)が補足。「扶養・相続は登録婚の箱で運用、愛称併記は可、読み替え禁止」
ラウム(金融):「寄進は自由、税は秤。寄進の名で徴税は禁止」
エゼキエル:「線があるところに秩序がある。神殿もまた、線を守らねばならぬ」
会場がざわつき、やがて笑いと拍手。**“線の言語”**が共有されていく。
10 火は砂糖の匂いで見つかる
歓声の陰で、サレオスの耳がぴくりと動いた。
粉砂糖と松脂の混ざった甘い匂い。袖に潜む火薬筒。
「レラジェ」
「了解」
矢が最短軌道で飛び、火口だけを穿って火は死んだ。
アモンの砂袋が落ち、男の袖から細い銀線が引き抜かれる。
ウァレフォルが読み上げる。「ヘルマン・グロイエル伯配下。目的、乱闘誘発→“悪魔の暴力“印象操作」
アモンは観衆に向き直る。
「宗教の衣を着て火を持ち込むのは宗教ではない。犯罪だ」
エゼキエルは衣を直し、「衣を守った借り、忘れぬ」とだけ言った。
奏音は小さく頷き、**“線は衣を守るためにある”**と心に書いた。
11 核心問答——“順番”の問題
夕刻、香の縁が金色になる。
エゼキエルが杖を収めた。
「神の沈黙と人の痛みが同時に在る。どちらを先に見る?」
奏音は、王の顔のまま短く吸って、吐く。
「痛みを先に見ます。沈黙は、あとで抱きしめる。順番の問題です」
「神を後に置くのか」
「沈黙は置ける。でも血は流れる」
長い静寂のあと、団長は口述する。
「信仰は禁じられぬ/暴力と略取は禁じられる/祈り場は不可侵/違反は公開裁判。これが、そなたの線だな」
「誰の目にも見える線です」
12 翌朝の布告——宗教編・完全版
フルカスが朗読した。
1. 信仰の自由を保証する。
2. 祈り場・墓地・聖遺物は不可侵とし、赤札を掲げる。
3. 信仰の名を用いた暴力・略取・焚書は大罪。公開裁判へ付す。
4. 改宗強要を禁ず。
5. 聖職者は人名札を携行し、名を隠してはならない。
6. 埋葬・婚姻・寄進は選択可能。ただし権利と義務は書類で守る。
7. 上記に反する私法は無効。ただし善き慣習は公示して延命可。
フェネクスが一行を添えた。
「名は祈り/祈りは灯り/灯りは道」
パランドが星を描き、レナードが水を光らせ、カフィーゼが角を面取り、イドラドが針を覗く。
線は増え続ける。それが国の呼吸だ。
13 経済は“公開”で回す
ラウムは秤に検定鋼“L”を打ち、公開時刻表を掲げた。
ブラックダイヤモンド(以下BD)は王室管理。加工ギルドを設け、品質規格を公示、買上保証で価格の暴れを抑える。
ボティス:「真似できる制度は全部見せる」
ストラス:「見せることで優位になります」
ラウム:「秤に嘘がない国は、商人の足が増える」
数字は腹を支え、掲示は不安を減らす。“公開”は貨幣だ。
14 内政の微細——値札フォントの最低線
ロノウェが布告板に奇妙な宣言を貼った。
「値札の“最低線”——字画の太さは“筆先の幅×1.5以上”」
マルタ婆は目を瞬かせて笑う。
「世界初のフォント法だねぇ」
「読めるは優しさ」と奏音が答えると、周囲がくすりと笑った。こういう細則が、日常の苛立ちを一つずつ消していく。
15 公国の綻び
同刻、ラインテルン公国。
ヘルマン伯は聖庁の石廊で喚いた。「悪魔の札は秩序の敵だ!」
しかしラファエルの報告書には冷静な筆致が残る。
——〈名の札が恐怖を減らしていた。導線の赤は祈りの行列の苛立ちを減らしていた〉
フェルナンド司令は軍報に一行だけ添える。
——〈線があるところに秩序がある。線の撤去は敗北だ〉
硬い字だ。敵ながら最も厄介な相手。
16 “王の顔”の裏側
夜。
奏音は鏡の前で三分、眉・目線・口角・歩幅を整える。厨二病スライダーは今日は二割。
ルシファーが茶を置く。「布告は剣より遅い。しかし遠くまで届く」
「条文は消耗品。胃薬も消耗品」
「名言にします?」
「フェネクスに止められる」
ストラスが分厚いファイルを抱えて入る。「**“線の巡回見学ツアー”**申込、他国から二件」
「胃薬の在庫は?」
「増やしました」
「優秀」
窓の外、眷属の輪が滲むように回る。広場の灯は落ち、布告板だけが淡く光る。
端でミルドが背伸びして、**小さく“ありがとう”**と書き足した。
誰にも気づかれないくらい小さい。でも確かに、そこにある。それが政治の手触りだ。
17 人口と収益、そして“連盟”の閾値
定例会議。
ベリト(財政)が収支板を大書で掲げる。
「人口八千突破。一万人で“国家連盟”の資格に届く。収入は市場手数料と公売で安定。支出は食糧・建設・衛生が厚い。黒字は薄いが、数字は回っている」
キマリス(食糧)は配給を切り替える。「乾パン→黒粥へ。今週は塩を厚めに」
奏音が頷く。「数は腹を支える。数字を見えるように」
数字が見えている国民は、噂で揺れない。
18 戦のほうへ、しかし“治める準備”が先
作戦卓。
ヴィネ(偵察)「公国軍、集結。先鋒一千五百、総勢一万余。指揮はフェルナンド。後方にヘルマン伯。三日以内の越境の見立て」
ハルファス(参謀)「初動は避難導線の開放。橋梁の台帳再確認。夜戦は禁止。灯りの海で人の時間を守る」
ビフロンス(ネクロマンサー)「盾は人のため。市民接触禁止、墓地と祈り場不可侵。徴発は代価支払い」
ガープ(右翼)「矢束に目録札。残量は叫べ。棚卸は戦でも効く」
グラシャラボラス(左翼)「追うな。穴を守れ。穴は人の逃げ道だ」
奏音:「勝ってから治めるのではない。治め続けるために勝つ。勲章は“兵站と民政”に厚く出す」
六大将軍の視線が揃い、短く、深く頷いた。
19 外交の紙は槍より早い
奏音はボティスとカイムに書状を渡す。
「非戦条件:①人身売買の一時停止、②亡命者の不追及、③市民への不戦。返答期限は日没。返答はたぶん拒否。でも、投げてからが本番」
ルシファーが横で苦笑した。
言葉は槍。先に投げれば、敵の言い訳も形が決まる。
20 市の夜、線はゆっくり伸びる
夜の窓口。
オロバス(青少年)とブネ(魔法省副)が並んで、夜間相談と街灯の出力調整。フォルネウスが「灯りの詩」を貼る。
「名があれば、帰れる」
リナが指でなぞり、カイが**“か・え・れ・る”**をなぞって笑う。
笑いは防音材だ。翌日の恐れは、今夜の笑いで少し軽くなる。
21 聖庁の去り際、白と金の影
四日目の朝。
北門でエゼキエルが言った。
「信仰は燃えず、札は燃える。ゆえに札を燃やす者から先に手を離す」
奏音は頷いた。
「神の名を守るため、人の名を呼び続けます」
ルシファーがぬるっと差し出す。「胃薬でございます」
白と金は鈴の音を残して去り、ヴィネの旗が下がる。眷属の輪が高度を上げ、日常が戻ってくる。
22 遠国のざわめき、こちらの静けさ
公国首都で、ヘルマン伯は再び喚いた。「悪魔の札に惑わされるな!」
でも報告書は冷静だ。
——〈名を呼ばれた者の目は光っていた。導線の赤線は祈りの列にもそのまま使われていた〉
フェルナンド司令は短く記す。
——〈彼らは順番を知っている。血を止め、祈りを後で抱く順番を。乱せば負ける〉
こちらは静かに線を伸ばし、遠くは勝手に騒ぐ。
23 “戦わない勝ち”の訓練
城内の訓練場。
サレオスが奇妙に面白い声で言う。「今夜の目標は静寂と発見。暗殺はしない。必要ならする。でも、しない」
全員苦笑。
レラジェが**“火口だけ撃ち抜く”訓練を重ね、ウァレフォルは匿名札の見抜き方を図解。
アモンは“逮捕の見せ方”**を教える。見物可/煽り禁止、札で行為を説明。
見える治安は、怒りを増幅させない。
24 “線の辞書”ができていく
族長会議。
タフィーラド「導線を森の中にも。**森語の“道”**で札を作る」
レナード「水の前に“青の待機”を増やす。**精霊語の“水の髪”を併記」
カフィーゼ「石段の角は三分の一落とす。“石の眉”の札を立てる」
イドラド「秤は毎朝検定。“針の心”**の札で周知」
ロノウェが笑って対応表を貼る。線の辞書が、また一枚増えた。
25 門は開いて“迎える”
門番詰所。
避難者の列は少し細くなったが、途切れない。
門番が合言葉を問う。
「式典の招待を受けた」
それは**“敵に対する言い訳”でもあった。迎え入れる筋道を、先に用意しておく。
迎える門の横には“手洗い桶→配給→寺子屋案内”の簡易導線。初日で“国民”**の最初の路が決まる。
26 “国是”は短く、壁に貼る
奏音は再び掲げた。
一、人は保護される。
二、功は報いられる。
三、法は万人に等しい。
四、制度は見える。
五、力は最後の手段。
短い。だから覚える。壁に貼る。合言葉のように使う。
ルシファーが囁く。「勝ち方を皆が覚え始めています」
「剣で勝つんじゃなく、道で勝つやり方だね」
「道は誰もが使える」
「道の方が筋肉痛がくるけど」
場が和む。王の顔は保てた。
27 いよいよ、角笛
北の霧が厚みを増した。
偵察の虫隊が高度を下げ、旗が三度、四度。
双頭鷲の赤旗。
ラインテルン公国軍の角笛が、霧を割って鳴った。
奏音は城壁に立つ。
胃は、泣いている。
でも顔は、平気だ。
「繰り返す——勝ってから治めるのではない。治め続けるために勝つ」
赤い線が街を縫い、青い線が井戸へ導く。
布告板は淡く光り、子どもが名を読み、大人が数字を見て、楽師が息を吸う。
虫の輪が空に拍を描き、近衛の黒い外套が翻る。
名は灯り/灯りは道/道は国。
剣よりも先に、道具と札と線が町を守っていた。
朝焼けの縁で、最初の鳥が鳴く。
言葉は槍。線は盾。法は刃。
——そして、王は歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます