女子高生が大悪魔ベルゼブブに転生したので、厨二病全開で建国します!
桃神かぐら
第1話 大悪魔、建国を宣す
ある年の夏。
佐々木奏音(ささき・かのん)。県立東高三年。陸上部主将。中距離。朝練で空の色が変わるのを見て、夕練で空の色が戻るのを見て、帰りのバスでまぶたが落ちるのが日常だった。
運転手の梁野(やの)さんは、いつも優しい。
バスの車内。窓に夕日が差し込み、制服の裾がオレンジに染まる。停留所のアナウンスがやわらかく流れ、夏の汗が冷えて、ふっと体温が落ちる瞬間。
「こんにちは」
「おお、奏音ちゃん。今日も部活帰りかい?」
バックミラー越しに梁野さんが笑う。まぶたに小さな皺が寄る。
「はい。毎朝やってます。夕練もあるので、毎日クタクタですけどね(汗)」
「はは、無理しすぎるなよ。水分、忘れるな」
その当たり前のやり取りが、日常の証みたいに胸に染みた。
私は部活のメニュー表のことを考え、明日のアップの距離を少し伸ばすか迷い、文化祭の係割りの表を思い浮かべ、皆に回す段取りを頭の内側で並べ替えた。予定を組むのが好きだ。走るためには、道がいる。走る前に、道を引くのが好きだ。
──次の瞬間。
ガタン。金属が悲鳴をあげ、景色が横倒しになる。
ガードレールが砕け、谷風が車体を引きずり、重い衝撃が腹を抜けた。シートベルトが骨に食い込み、肺から空気が逃げ、耳の奥がキンと鳴る。
「えっ──」
窓の外が逆さまに回り、空と地面が入れ替わる。
「や……の、さ……」
声にならない声。返事は、なかった。
梁野さんは即死。佐々木奏音も──ほどなくして、息を引き取った。
◇
「……ん。よく寝た、のかな」
最初に来たのは匂いだった。湿った石、冷たい土、鉄と苔の薄い気配。暗いはずなのに、天井の亀裂の細部までくっきり見える。
ざわざわ、と音。蠢く影が集まり、四角く積み上がって、神輿の形を作る。
虫だ。甲殻が重なり、細い脚が規則正しく働いて、私の体をそっと持ち上げる。
「えっ、ちょっ、虫神輿!? やめてやめてやめて!!」
騒ぐ私を、虫たちは淡々と洞窟の出口へ運ぶ。眩しくないのに、世界は鮮明で、色が立っている。
外には、白い霧と深い森。風は冷たく、しかしどこか甘い。黒翼の群れが方形に並び、膝をつき、頭を垂れている。
先頭の美丈夫が、深く一礼した。
「お目覚めを、待ち望んでおりました──ベルゼブブ様」
「いやいやいや、待って! 私、佐々木奏音ですけど!?」
一歩進んだ男が、名乗る。
「我はルシファー。御方の副官にして第一の臣下。千年の眠りを経て、御方は“器”として蘇られた」
「器って──」
視界の奥がめくれる。誰かの記憶の端に指が触れたみたいに、炎の匂い、祈りの鐘、和解の誓い、深い眠りが、断片的に光る。
口が勝手に問う。「どうして、私が?」
ルシファーは古びた羊皮紙を広げた。
「『ベルゼブブは眠りにつき、千年後、異界の魂を得て建国し、世界を導く』──と」
「建国……?」
胸の奥で、何かがくすぐられる。(どこのラノベ主人公だよ)とツッコミが出る。が、否定は喉の手前でほどけた。私は神社育ちで、幼いころから禊だ祓だに触れて、“見える”ものへの距離が他人より近い。そして、メニューを組むのが、段取りを回すのが、好きだ。
「……分かった。やろう。建国」
霧の天蓋が、低い歓声で震えた。
◇
ここは“ホワイトサントゥクスナ”──白き神聖の地。霧と樹海が天然の障壁となり、攻めにくく守りやすい。周囲には五つの族。エルフ、精霊、妖精、コバルト、ゴブリン。そして悪魔の眷属。舞台は整っている。旗を立てるだけだ。
「国の名を与えます。サントゥクスナ・パラディース・アールデン王国。白い聖域に、楽園の規範を敷き、豊穣の大地を取り戻す」
五族の長が胸に手を当て、ひざまずく。
エルフ族長タフィーラド。精霊族長レナード。妖精族長パランド。コバルト族長カフィーゼ。ゴブリン族長イドラド。
黒翼の将は二人。ケロベロス(近衛長官)とアスタロト(近衛副)。刃の気配をまとって静かに頭を垂れる。
「白き御方よ、忠誠を」
「私は佐々木奏音。異界から来た新米の……まあ、国王です。よろしく」
笑いが生まれ、霧がひと筋薄くなる。誰かが小さく息を飲み、遠くで鳥が一声だけ鳴いた。
◇
現状把握。
資源はある。黒く硬い宝石──ブラックダイヤモンド(BD)。この地でのみ採れる高硬度の希少資源。木材も豊富で、工芸の素地はある。けれど、道がない。市場がない。防衛線がない。 住居は掘っ立て小屋で、井戸は少なく、火に脆い。
ないない尽くし。ならば、やることは明確。
「まず家。次に道。 それから城壁と支城、井戸と水路、値札と税」
板にチョーク(代用品)で描く。
――住宅:5m間隔、防火帯。屋根材は木と瓦を交互に、火の回り方を分断。
――路幅:幹線10m、副幹線6m。避難導線は赤で常時表示。
――井戸:10戸につき1基。排水溝は勾配1%。井戸ごとに消毒石標。
――防火:一街区ごとに防火空地。消火桶と警笛。桶番は輪番制。
――城壁:湖背の半円二重。外石・内木柵。水堀は湖へ連結、内堀は市水路へ。
――支城:森に4、連絡路は等距離。狼煙台は見通し優先。
――市場:門前に仮設。価格表掲示。値札なき販売禁止。
――教育:読み書き算術の義務化。寺子制度、教材は樹皮紙。
――布告:板と図解で“見える化”。読み上げ屋の制度もセット。
――宗教:祈り場不可侵(赤札)。暴力・略取・焚書は大罪、公開裁判。
――税:薄く、だが見える。市税は手数料。地税は収穫一部(飢饉時自動軽減)。
「分かったら──走る!」
タフィーラドが梁を読み、**「梁、歌う」と口の端を上げる。
カフィーゼは石を積み、「石、笑う」と指先で目地を撫でる。
イドラドは秤を担いで市場の骨を作る。「針、真ん中」と得意げ。
パランドは角ごとに絵標識を描き、レナードは井戸の縁を清め、水の流れを整える。
悪魔たちは重い石を運び、魔法で目地を固め、虫の眷属は高所の足場へ部材を引き上げる。
(悪魔の建設力、チート。でも墨出しズレてるとこはズレてるからね)
私はメジャーを当て、NGは無言で×印、OKは親指。“王の顔”**はまだぎこちないが、指示は通る。
──七日。道が通り、井戸が湧いた。
──八日目。和洋折衷の巨大な城が立ち上がった。白漆喰と黒梁、反り屋根と尖塔。唐破風と尖塔が同居する厨二病の城。外堀は湖、内堀は水路。
「……施工期間、完全にバグですよね?」
突っ込む私に、諸族が胸を張る。
「御方のため、諸族総出にて築城」
「梁、歌う」
「石、笑う」
「針、真ん中」
頬の内側が少し熱くなる。(泣かない。王の顔)
◇
建国式。
玉座前に四隅の青い炎。私は巻物を開く。法第一号──『奴隷亡命者保護法』。
「一、我が国は亡命してきた奴隷をいかなる要求でも引き渡さない。
二、亡命者の労働は賃金契約とし、強制を禁ずる。
三、人の売買・虐待・人身供犠は大罪、公開裁判ののち極刑。
四、亡命者に住居・食糧・教育を与え自立を支援する。
五、違反した官人は地位を剥奪し、二重の刑に服す」
ベレト(司法)が頷き、マルコシアスが判定の座につき、グシオン(書記・拷問官)が抄録を板にまとめる。
「見える法が、法です」ベレト。
「耳で覚える布告詩を」フェネクス(詩人委員長)。
「赤は道、青は水」アレクサンドル(寺子)。
黒炎が短く爆ぜて印章が押され、虫の羽音が一瞬止まる。国法が産声を上げた。
◇
広場の布告板は、一枚で足りなくなった。片面に判決抄録、もう片面に帰還名簿。
アレクサンドルがひらがな板を掲げ、フェネクスが韻で読ませる。
「名は灯り/灯りは道/道は国」
子どもが復唱する。痩せた男が震える手で木炭を握りしめる。
「……書いていいのか、俺の名を」
イドラドが頷く。「値札と同じだ。壁に残せ。あんたが消えないように」
男は、子どもが初めて書くときの顔で自分の字を書いた。ミルド。拙い字。だが確かにそこにある。
◇
省庁設置法。
「国家は“顔”では動かない。窓口で動く。だから省庁を作る」
任命式は、儀式として演出する。一人ずつ、理由を添える。長い肩書きは、意味が分かれば快感だ。
「ルシファー──副大統領兼筆頭国務大臣(大宰相)。王の意の代行、外交・行政の総責任者。あなたの冷静は、国の温度計」
「拝命」
「アモン──治安維持庁長官。槍の角度は“七分伏せ”。暴力は最後、秩序は最初」
「拝命」
「ベレト──司法省大臣兼国王最高裁判所長官。法は見えること。判決は簡素、理由は丁寧」
「拝命」
「マルファス──建築省大臣。道・井戸・防火帯。火に勝つのは水、そして間隔」
「拝命」
「ラウム──金融庁長官。秤と税は見えること。検定鋼“L”の刻印はあなたの責任」
「拝命」
「カミジン──医療発展省大臣。感染症対策は導線から。桶と手洗いは国防」
「拝命」
「マルバス──公衆衛生環境。地味が最強。下水が勝てば戦が長引かない」
「拝命」
「ウァレフォル──国家中央情報保全本部長。情報は刃。でも内政を傷つけないこと」
「拝命」
「ボティス──外交渉筆頭国務副大臣。言葉は槍。“見せて勝つ”舞台監督」
「拝命」
「ビフロンス──ネクロマンサー軍司令官。盾は人のために。墓地・祈り場接触厳禁、徴発は代価を」
「拝命」
「ハルファス/ガープ/グラシャラボラス──三軍団長。旗は秩序の象徴。勝ちの華より、退き際の秩序」
「拝命」
「フルカス──宗教省。祈り場不可侵と暴力・略取・焚書の禁止。信仰は守り、線は引く」
「拝命」
「アロケル──教育。名を読み書きするところから。字は祈りの前準備」
「拝命」
床に光が咲き、契約が結ばれていく。
「上に立つ者ほど、法に厳しく縛られる。これが我が国のやり方」
静寂のあと、地鳴りのような歓声。
◇
市場。
門前の仮設市場は、もう仮設の顔をしていない。値札が並び、価格表が大書され、“値札のない販売は禁止”の札が目立つ。
イドラドが秤の皿に重りを乗せ、「目盛りよし」と声を出す。
ロノウェ(言語担当)が指で赤線を引く。「婆ちゃん、その『一』の字、細すぎ。読めない」
魚売りのマルタ婆は腰に手を当てる。「細い方が上品だよ」
「上品は読めるの先」
「やだわ、また正論」
ラウムは肩を震わせて笑い、検定鋼“L”の刻印を秤に打つ。
私はBD(ブラックダイヤモンド)の欠片を光にかざす。黒というより、深い青が眠る。
「王印を打った加工品だけ王室の取引対象。無印は没収。代わりに買上保証で価格を暴れさせない」
「了解、王様」ゴブリンの店主が歯を見せる。
税は薄く、でも見える。市場手数料を掲示。日ごとに更新。叩き売りと買い叩きは、板に残るとやりづらい。
人は、見られると変わる。線と札は、人を善い方へ少しだけ押す。
◇
寺子屋。
アレクサンドルが黒板に書く。「な・ま・え」。子どもが声を揃える。「な・ま・え」。
ラファエル(法学僧の若者。視察に来て流れ弾で教師見習い)は汗だくでひらがな修行中。
「ら、らふぁ、え、る……。濁点はここじゃない」
「厨二っぽく払って」
「厨二っぽくって何だ」
フェネクスが歌う。「ラーファーエールー♪」
子ども大歓声。ボニファティウス(記録僧)は筆が止まらない。**“見える教育”**は信仰と喧嘩しない。祈りの言葉も読み書きからだ。
ミルド老人は手が震えて筆が持てない。少女教師が絵から始める。「ミ・ル・ド。あなたの名」
ミルドは泣いた。拙い字が紙に残る。名は灯りだ。
◇
祈り場。
フルカス(宗教省)が赤札を立てる。「不可侵」。
レナードが水面に小さな光を浮かべ、タフィーラドは祈りの列を森へ導く細道に赤い導線を延ばし、カフィーゼは石段の角を落とし、イドラドは供え物の重さを量る。
「宗派ごとの儀式は尊重。でも暴力・略取・焚書は禁止。違反は公開裁判へ」
ベレトが短く言う。見える線が、信仰を守る。
祈りの歌は静かで、でも誰にでも聞こえる音量で続く。子どもが覗き込み、老人が頷き、異族が並ぶ。共存は、線の上で起きる。
◇
政務。
私は議場で国是を掲げた。
一、人は保護される。
二、功は報いられる。
三、法は万人に等しい。
四、制度は見える。
五、力は最後の手段。
拍手。
ルシファーが囁く。「勝ち方を皆が覚え始めています」
「剣で勝つんじゃなく、道で勝つやり方だね」
「剣は誰でも振れますが、道は誰もが使える」
「道の方が筋肉痛が来るけど」
場が和む。王の顔は保った。胃はちょっと泣いてる(仕様)。
◇
人口と収益。
亡命者は日ごとに増え、人口は八千を超えた。キマリス(食糧庁)が配給の変更を告げる。「乾パンは今日で終わり。明日から黒粥」
ベリト(財政)は収支板を大きな字で掲げる。数字は腹を支える。見える数字は、不安を減らす。
労務板には仕事札。家屋修繕、石運搬、配水路清掃、読み書き補助。賃金と時間が書かれている。
シトリー(労務)は窓口で声を張る。「婚姻は教会婚/登録婚/名札証婚の三本立て。式は好み、権利は書類。扶養・相続は登録で。詐欺は公示+罰金」
市場の片隅に**“ウソつきました札”**の例札。「値札詐欺は罰金+公示」。
会場(ざわ……!)。
ボニファティウス、筆が止まらない。「語感まで強い……」
◇
諜報。
シャックス(特別副本部長)が影のように現れる。「報告。ラインテルン公国、奴隷商人が有力貴族へ圧力。ただし国内は大公子派と有力貴族派で分裂。即時侵攻なしの見立て」
「よし。なら制度を先に根付かせる。けど、やりすぎない。内政の信頼を傷つける諜報はしない」
ルシファーは地図を広げる。「国境近くのエイカード/ラインベル/テルトカールド。道の要。いつか押さえねば」
「分かってる。けど**“治めて勝つ”。占領統治の制度が先。市民被害ゼロに近づけるための訓練が必要」
ビフロンス(ネクロマンサー軍)「盾列は人のため。市民接触禁止。徴発は代価。夜戦は禁止、灯りの運用で人の時間**を守る」
「深追い禁止。勝ちの華はいらない。勝ちに行かない勝ちを覚えて」
◇
夜。
私は鏡の前で王の顔を練習する。眉の角度、視線の高さ、口角、歩幅。厨二病スライダーは今日は二割。
肩に虫鎧(つや消しブラック)がふわりとかかる。小さく羽を打って「おつかれ」と言われた気がした。かわいい。
ルシファーが湯気の立つ茶を差し出す。「布告は剣より遅い。しかし遠くまで届く」
「条文は消耗品。胃薬も消耗品」
「名言にしますか」
「フェネクスに止められるやつ」
ストラスが分厚いファイルを抱えて入る。「**“線の巡回見学ツアー”**に他国から二件。見せる外交、効いてます」
「胃薬の在庫は?」
「増やしました」
「優秀」
窓の外、眷属の輪がゆっくり回る。広場の灯は落ち、布告板だけが淡く光る。
端っこでミルドが背伸びして、また小さく書いた。「ありがとう」。
誰にも気づかれないくらい小さい。でも、確かにそこにある。
(名を守る。人を守る。秩序で勝つ。──今日の分、守れた)
◇
翌朝。
定例会議。人口・収益は右肩上がり。「八千を突破。一万人の国家連盟基準まで、もう少し」
「じゃあ、省庁設置法の本体を出すよ。異議ある人?」
誰も手を挙げない。可決。
「省庁って、簡単に言うと**“王の補佐をする窓口”**。顔ではなく窓口で国を動かす」
任命の第二幕。私は功績主義と昇給・昇級の原則を明記し、諸族の若手にも副次官・課長級の席を用意する。
「上に特権は与えない。上こそ法の縛りが強い」
場が緩み、でも目は真剣になる。儀式は魂を与え、窓口は国を動かす。
◇
布告板の前。
アレクサンドルが帰還名簿を読み上げる。
「リナ、カイ、ガロス、ミルド……」
呼ばれるたび、小さな拍手。自分の名が誰かの口からこぼれたとき、人は体温を取り戻す。名は灯り。
そのとき。北門の上で旗がぴっぴっ、と振られ、上空の眷属ドローン(虫)の密度が上がる。甘い香が風に乗る。
白と金の行列。宗教旗、鈴の音、香炉の煙。聖庁調査団だ。予定より早い。
アモンは槍の角度を**“七分伏せ”**に揃え、ロノウェは二言語併記を拡大して貼る。門番は入城の線を指す。「武器は封蝋、祈り場は不可侵、市民接触は許可制」
団長エゼキエル・ドミヌスは杖をコツンと鳴らした。「悪魔の札で神の僕を縛るのか」
アモンは一歩も引かない。「神は縛れません。人を守る札なら、ここにあります」
(名言、いただき)
私は王の顔で、公開討論を提案した。「広場で、民の前で。見える言葉にしましょう」
◇
公開討論・第1ラウンド:名と奴隷
元捕虜伍長ロッツが立つ。「矢を向けろと命じられた。でも下ろした。ここで労役三十日を命じられ、名で呼ばれて帰された。俺は人に戻った」
ラファエル(法学僧)「神の許しは?」
「分からん。でも名を呼ばれたとき、胸が静かになった。多分、それが神だ」
広場が静まる。言葉は線になって、人の中を通る。
第2:埋葬儀礼
フルカス「遺体の所有権は家族。宗派を問わず墓地は不可侵。神式・村式・樹葬・水葬、全部選べる。必要なのは名札。名のない遺体は、まず名を探す」
タフィーラド「樹葬は根が名を覚える儀式。土の清めと矛盾しない」
レナード「水面に名を映す。水面は鏡、鏡は祈り」
カフィーゼ「石は嘘をつかない。名を彫る」
イドラド「供えは重さで正す。目盛りは嘘をつかない」
エゼキエル、瞼を伏せる。宗教は守る。線を引くから、共存できる。
第3:婚姻
ボティス「三本建て。教会婚/登録婚/名札証婚。式は好み、権利は書類。愛称併記OK、ただし読み替え禁止線」
シトリー「扶養・相続は登録で。詐欺は公示+罰金」
ラウム「寄進は自由、税は秤。寄進の名で徴税は禁止」
エゼキエル「線があるところに秩序がある。神殿もまた、線を守らねばならぬ」
……刺さった、のを見た。
陰で火薬筒を忍ばせていた放火工作員は、サレオスの合図でレラジェの矢に火口だけ射抜かれ、アモンの砂袋で鎮圧。
ウァレフォルが身元を読み上げる。「ヘルマン・グロイエル伯配下。目的、乱闘誘発→『悪魔の暴力』印象操作」
アモン「宗教の衣を着て火を持ち込むのは、宗教ではない。犯罪だ」
線と札は、敵意を可視化して、潰す。
夕刻、団長の問い。「神の沈黙と人の痛みが同時に在る。どちらを先に見る?」
私は王の顔で、低く。
「痛みを先に見ます。沈黙は、あとで抱きしめる。順番の問題です」
団長、杖を収める。「信仰は禁じられぬ/暴力・略取は禁じられる/祈り場は不可侵/違反は公開裁判。これがそなたの線だな」
「誰の目にも見える線です」
◇
翌朝の布告・宗教編。
フルカスが朗読する。
1. 信仰の自由を保証。
2. 祈り場・墓地・聖遺物は不可侵。赤札を掲げる。
3. 信仰の名を用いた暴力・略取・焚書は大罪。公開裁判へ。
4. 改宗強要の禁止。
5. 聖職者は人名札を携行し、名を隠してはならない。
6. 埋葬・婚姻・寄進は選択可能。権利と義務は書類で守る。
7. 反する私法は無効。ただし善き慣習は公示して延命可。
フェネクスが添える。「名は祈り/祈りは灯り/灯りは道」
パランドが星を描き、レナードが水面を光らせ、カフィーゼが角を面取り、イドラドが針を覗く。線は増え続ける。それが国の呼吸だ。
◇
治安。
アモンは夜の巡回を二倍にし、街路灯を増灯。井戸ごとに消火桶と警笛。賭場は登録制。未登録は閉鎖。
グレモリー(風俗取締)は香の瓶に火を入れて、燃え方で松脂を見抜く。
「見える管理が、戦にも効く」右翼軍団長ガープが笑う。矢束には目録札が差してあり、残量が誰でも見える。
◇
国境の風。
ヴィネ(偵察)が望遠筒を閉じる。「公国軍、集結。双頭鷲の赤旗。先鋒千五百、指揮はフェルナンド守備隊司令。後方にヘルマン・グロイエル伯の旗。示威→威嚇→殴打で来る。三日以内の越境と見る」
ハルファス(参謀総長)が駒を置く。「初動は避難導線の開放。橋梁台帳を再確認。夜戦は禁止、灯りの海で人の時間を守る」
私は深呼吸。胃がきゅ、と鳴る(仕様)。
ボティスとカイムに書状を託す。「非戦条件:人身売買の一時停止/亡命者の不追及/市民への不戦。返答期限は日没」
ルシファーが並ぶ。「返答は多分、拒否だ」
「投げてからが本番」
◇
夜、城壁に立つ。虫の輪が天に図形を描き、青い灯りがゆるく揺れる。
(死んで、悪魔になって、王になって。法も、布告も、値札も、全部、人のためにつくってる。名を呼べる国であるために、私は戦う)
アスタロトが近づく。「近衛、全備。救出と避難誘導が最優先」
「虫は運ぶための力」
「はい。ハエ騎士団の名に誓って」
黒い外套が翻り、虫の合唱が、進軍の拍を刻み始めた。戦はすでに始まっている。だが国は先に回っている。
道と桶と値札。赤線と青線。布告と抄録。剣より先に人を守る。
◇
最後の確認。
政庁の間で、私は短く告げた。
「繰り返す。勝ってから治めるのではない。治め続けるために勝つ」
「評価は都市の回復で出す。勲章は兵站と民政にも」
六大将軍の視線が揃い、深く頷く。
ビフロンスは部下に言い聞かせる。「市民を見たら遠回り。命令だ」
モラクス(武神統制)「攻勢の華は不要。退き際の秩序が勝ち」
ルシファーが囁く。「陛下、胃は」
「泣いてる。でも、顔は平気」
「立派です」
私はほんの一瞬だけ笑い、すぐ王の顔に戻した。
◇
広場の布告板は淡く光り、子どもが名を読み、ミルドがありがとうを書き足す。市場は値札で回り、祈り場は赤札で守られ、寺子はひらがなで未来を掴む。
名は灯り/灯りは道/道は国。
霧の国は、灯りを増やしながら、秩序で勝つための姿勢で立っている。
そして北から、双頭鷲の赤旗。
ラインテルン公国軍の角笛が、霧を割って鳴った。
(行こう。言葉は槍。線は盾。法は刃。虫は翼。私は王。名を守るために)
朝焼けの輪郭が生まれ、最初の鳥が鳴いた。
⸻
役職表です。
バアル 大統領
ルシファー 副大統領兼筆頭国務大臣(大宰相)
アガレス 経済担当筆頭国務副大臣兼教育省大臣
ウァサゴ 魔法省大臣
カミジン 医療発展省大臣
マルバス 医療発展省副大臣兼公衆衛生環境改善担当大臣
ウァレフォル 国家中央情報保全本部長官兼諜報活動指導委員会委員長
アモン 治安維持庁長官
バルバトス 狩猟庁長官
バイモン 国防軍総司令官兼軍事担当筆頭国務副大臣 ブエル 医療発展省国内医療環境改善担当大臣
グシオン 国家中央情報保全本部副長官兼最高拷問官 シトリー 労務省大臣
ベレト 司法省大臣兼国王最高裁判所長官
レラジェ 国家中央情報保全本部本部長兼裏工作局局長
エリゴス 諸民族及び少数民族省大臣
ゼパル 諸民族及び少数民族省副大臣
ボティス 外交渉担当筆頭国務副大臣兼大統領首席補佐官
バティン 筆頭国務大臣首席補佐官兼国王近衛長官
サレオス 諜報活動指導委員会副委員長兼暗殺総局局長
ブルソン 文化・芸術発展省大臣
モラクス 武神統制担当大臣(将軍のまとめ役)
イボス 未来予知官兼国家安全保障会議議長
アイム 防災担当大臣兼国家安全保障会議副議長
ケロベロス もう一人の近衛長官にして近衛第一師団長
グラシャラボラス 国防軍左翼軍団長
ブネ 魔法省副大臣
ロノウェ 諸民族及び少数民族省諸民族及び少数民族言語保護担当大臣
ベリト 財政省大臣
アスタロト 近衛副長官兼近衛第一副師団長
フォルネウス 文化・芸術発展省副大臣
フォラス 国王最高顧問官
アスモデウス 労務省副大臣
ガープ 国防軍参謀総長兼右翼軍団長
フールフール 奴隷保護担当大臣兼国民及び捕虜正式な取り扱いに関連事務等担当大臣
マルコシアス 国王最高裁判所最高裁判官兼処刑判断委員会委員長
ストラス 国王最高顧問官兼大統領首席顧問官
フェネクス 文化・芸術発展省詩人委員会委員長
ハルファス 国防軍もう一人の参謀総長にて中央軍団長
マルファス 建築省大臣
ラウム 金融庁長官
フォカロ 水資源管理担当大臣
ウェバル 水資源管理担当副大臣
シャックス 諜報活動指導委員会顧問兼国家中央情報保全本部特別副本部長
ヴィネ 国家偵察総局局長
ビフロンス ネクロマンサー軍司令官
ウヴァル 外交渉筆頭国務副大臣顧問官
ハーゲンティ 筆頭国務大臣顧問官兼国王特別顧問官 クロケル 鉱物資源環境担当大臣
フルカス 宗教省大臣兼ベルゼブブ崇拝布教最高指導官
バラム 国防軍戦務参謀次長兼第二軍総司令官
アロケル 教育省教育制度評議会議長
カイム 外交渉担当次官
ムルムル ネクロマンサー軍参謀長
オロバス 労務省青少年健全育成担当次官
グレモリー 治安維持庁副長官(風俗の取り締まり)
オセ アミー オリアス ヴァブラ ザガン ウァラク 六大将軍
アンドラス 国家中央情報保全本部内戦工作局局長 フラウロス 国家中央情報保全本部反乱支援局局長
アンドレアルフス 経済省大臣
キマリス 食糧庁長官
アムドゥスキアス ベリアル デカラビア セーレ ダンタリオン アンドロマリウス 第一軍団から第六軍団長へ任じます。
もう一種類同じものを作った。
役職表 サイン ベルゼブブ
六十神将 エンデ ナーグ ヨハンネス・レノーバー セト バフォメット ベルフェゴール アザゼル イフリート メデューサ リリス
アレクサンドル
クロワロ
エルフ族長のタフィーラド、精霊族族長レナード、妖精族族長パランド、コバルト族族長カフィーゼ、ゴブリン族族長イドラド
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