第4話
慶知の杜での一日が終わった。昼頃の日差しが強い時を澪車照は歩んでゆく。彼女にとってこの時間は憩いの時間である。たとえ日差しが強くなり、額を伝う汗が煩わしくなる季節になろうとも。
影のある場所を縫うように進んでいると後ろから声を掛けられる。
「照ちゃん」
みなれた少女がいた。
「夜名子ちゃん」
どこか期待していたかのような、いつもより少し声色の高い声がでる。そして彼女もそれに反応するように、そしていつも通りに彼女の隣へと並んで、ともに歩いてゆく。
皓伝屋(しらでぬや)夜(よ)名子(なこ)、彼女は照の友達である。照の家柄とその性格のせいなのか彼女にはあまり友達と言える者が少ない。しかし彼女、夜名子は例外なのだ。
彼女の家である皓伝屋は炎細工という職業を営んでいる。花火に火薬の調合、線香、火に関することであればこの町に住んでいる者たちは彼女の家の名前を出すであろう程有名なのだ。とくに線香と花火に関しては人気だ。線香であれば燃える時間の長さとその香りの調合が、花火であればその品質が評価されている。しかし、そんな彼女の家のお父様にも当然のように不調や老いは訪れるものなのだろうか、一度不調が来てからというもの生産のペースが落ちてしまったらしい。そのため家の者たちに技術を教えている。
その証拠として彼女の手元と足元であったり、服が煤けて一部黒みを帯びている。そして私の鼻に日の下の匂いに、彼女の匂い、そしてどこかとなく火薬のような、焚火のような匂いが調合されたものが入ってくる。最近さらに精を出しているのだろう、と照は感じていた。そしてそれが会話にも自然と織り込まれていく。
「いつも線香ありがとう。お父様が『祈りには皓伝屋程のものでないといけん。けっして品と皓伝屋との好意を絶やすな』って言ってたわ」彼女はお父様のところのみ声色を変えて言う。
「いやいや、こっちこそいつも御贔屓にありがとうね。」続けて彼女は「いやーうちのお父様も『上得意さまだ。失礼の無いように、そして親しくなさい』っていってくるよ」いつの日かしたような会話を今日も交わしていく二人。彼女たちはいつものように道幅が広い道を途中まで進んでゆく。そして近道をするために裏手のような狭い道ともいえぬ場所を通っていつも通りの帰り時を行く。
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