第8話 代筆

【現地報告書 No.08】


提出者:斎宮梢

同行者:笠原悠人(?)



――この報告書は、私が書いている。

悠人が「自分を消失」と記した後から、彼の声がかすれて聞こえにくくなった。

隣に立っているはずなのに、影だけが薄い。


「……俺は、まだいる。信じろ」

悠人はそう言った。

だが、その声が祠の壁からも反響してくる。



【映像記録 抜粋】


08:55

・梢が報告書に文字を書き込む様子。

・映像では彼女は一人で祠に立ち尽くしている。

・「悠人の声」は環境ノイズとして検出され、音声解析では“提出者:笠原悠人”と自動変換される。



私は御幣を強く握りしめ、札の壁をにらんだ。

そこには再び、新しい文字が浮かび上がっている。


――斎宮梢、代筆者。死亡。


「……ふざけないで」

私は震える手で墨を走らせた。

――笠原悠人、生存。斎宮梢、生存。


すると祠の奥から低い唸りが響き、壁の札が一斉に剥がれ落ちた。

無数の紙片が渦を巻き、黒い嵐となって吹き荒れる。


「梢! やめろ、記録を弄るな!」

悠人の声が嵐の中から響いた。

振り向くと――そこには、二人の悠人が立っていた。



【補足メモ】


・報告者の交代により、記録の改竄速度が加速。

・“代筆”行為そのものが札の怪異を強化している可能性。

・二人目の悠人が出現。どちらが本物かは不明。



私は確かに報告を書いている。

でも、この文字を残すたびに、悠人は増えていく。

……次に消えるのは、私かもしれない。

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