第27話「芸術の秋!たましいの映画祭!(5)」

 ソルソルは地球が大好きで、ラザニエルはソルソルが大好きなので、基本的に映画祭では『キネマ天一ワールド』から離れなかった。

 

 それでも13日目には、ようやく人間以外も観てみようとキネマ299ワールドを訪れ。

 『惑星レムロスちびっこレスリング~おまえを世界大会へ連れていく!~』を観て、ハイになり、ちびっこレスラーの優勝賞品が『どう見ても平安時代の地球』だったことに爆笑し、おかしなテンションで眠れなくなった。

 それが、昨日のこと。


 もうヘトヘトになるほど映画尽くしの毎日を14日間、完走して。

 最終日。

 彼らがもう一度訪れたのは、キネマ天一ワールド。

 観た映画は『リバイバル上映・安倍晴明』。最終日にのみ解放される、クライマックスに相応しい一作だ。

 だが、封印されたラスボスには――どこか、見覚えがありすぎた。


「今、封印された奴って……」

 

「うん、ちびっこレスラーの……」

 

「だよな。地球もらったチャンピオンの子だよな……」

 

「人間の言葉話してたね、めちゃくちゃ勉強したのかな……」

 

「努力家だもんな、あいつ……」


《ハァ……ハァ……ついに封じたぞ、悪しき者よ。だが、この封印も永遠ではない……うっ……!》

《晴明様、しっかり!》 

《それでも……これより1000年、こやつが都に戻ってくることはないだろう》


「1000年ってことは……可哀想だけどさ。もう骨になってるよね、ちびっこレスラー」

 

「けど、逆に考えてみろ。あいつが封印された場所、探して骨を持ち帰れば、NASAに売って金持ちになって、魔界の金に換金して、爵位とか買えるかも……!?」

 

「モルダバルト・レコンギアスって名前になる夢、叶うかも?」

 

「ハズいからやめろ黒歴史だぞ!」


《この悪しき者は、天魔の地に封じる。第六天魔の、裏山の奥に》


「…………」

 

「…………」

 

「第六天魔って……」

 

「今、心臓ヒュッてした……」

 

「けど、探すチャンスだろ」

 

「アパートの裏の山だもん、すぐ行けるね」


 ラザニエルとソルソルはエンディングすら観ず、席を立って、ゲート55から下界へ。

 久しぶりの地球は少し肌寒くなっていたが、彼らのハートは熱かった。


「宇宙生物の骨っていくらで売れるの?」

 

「しらん。けど、高そう!」


 降り立った先は、巨大な祠。

 いかにもな『呪われていそう』なお札が黒くなって、大量に貼られている。


「中身は宇宙生物だろ?なんでお札が黒くなってんだよ」

 

「そのほうが雰囲気出ててよくない?開けたら呪われて発狂するかもとか、そういうこと想像しちゃうし、肝試しってそういうものでしょ?」

 

「肝試しじゃねーんだわ!ただの骨回収クエストだろうが、怖いこと言うなよ開けれなくなるだろ!」

 

「じゃあさ、せーので開けよ?」

 

「「せーのっ!」」


 掛け声とともに祠を開けると。

 中からは、まるで貴重品を梱包するようにしてぐるぐる巻きにされた、平安時代の茶色い布。


 だがそれは、うごうごと蠢いたかと思うと。

 フンヌと全身に力を入れ、巻かれた布をすべて筋肉の力で弾き飛ばしたのだった。


 中から出てきたのは、2メートル30センチほどの、2足歩行で4本腕の巨大な黒猫。

 平安貴族みたいな、白い麻呂眉が特徴的だ。


「そなたらが……麻呂を助けたのか?」

 

「ダメだ……絶望すぎる。こんなラスボスみたいな生き物、NASAに連れてく前にこっちがやられる。ラザ、なんとか上手く言いくるめて」

 

「えっ?その、えーっと……きみがちびっこレスリングのチャンピオンって聞いて、助けちゃった」

 

「そうであったか、大義であるぞ!」


 4本のぶっとい腕が、ラザニエルとソルソルをギュッ!とハグ。

 このまま少し力を入れれば、ラザニエルは大丈夫として、ソルソルなんかすぐに粉々にされてしまうだろう。


「……ああ、自己紹介をせねばな。麻呂の名は『X32』にして、リングネームを『デストロイヤー・エックス』という……この『青い星の持ち主』なり」

 

「は?『地球の持ち主は僕』なんだけど」

 

「笑止」


 急に腕に力を込めるデストロイヤー・エックス。

 ミシリ、とソルソルの肩の骨が鳴る。

 

「あ痛だだだだ!」

 

「ソルソル!」

 

「さて、不躾な輩は躾けてやらねば。フム、そうだな。そなたらは、これから麻呂の小間使いとして働くがよい」


 ソルソルの頭に、ふと、ベルザリオ課長の横顔が浮かんだ。

 あの冷酷上司と、この黒猫、どちらが怖いか。

 脳が勝手に意味のない判断を始めたのだ。

 クソ上司に媚びへつらうより、猫の尻に敷かれるほうが、何倍も人生の救いがある――と。

 

「こ、小間使いって……何すればいいんでしょう……」

 

「麻呂の顎の下を撫でよ。全身の毛皮を櫛で漉け。そしてたまに、煮干しを買ってこい。それだけでよい」

 

「え、喜んでやるわ」


 だってこんなの、ただの猫の飼い主だ。

 猫の飼い主は、奴隷とイコール。

 みんなして喜んで猫の尻に敷かれ、たまに見せるデレに心奪われるのだ。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る