第26話「芸術の秋!たましいの映画祭!(4)」
人生映画の配信元、アカシックレコード本社にて嘆く、4枚羽根の天使がひとり。
「凡人、凡人、凡人、凡人、家系ラーメン味、凡人、凡人、凡人……あああもう!こんなモブ顔俳優にショボいストーリー、どうキャッチコピーをつけろと!?」
その天使、深緑のおかっぱに猫のような鋭い瞳。
彼の名を、ノリエルという。
「はー、疲れるわホント……冷めたおでん食いながら『地球の映画』のキャッチコピーつけるほど疲れる仕事はないわ。『モテたい……モテたい……』のやつなんかそのまま『モテたいなら告白しろ!』って載せてやろうか?なあウニエル?」
この世の『すべての記録』を納めておくための巨大なフィルムの塊、神様の作った【アカシックレコード】の裏から書類を持って現れたのは、4枚羽根のツンツンした黒髪の天使、ウニエル。
「ノリエル様。冷めたおでんはチンすればよろしいかと」
「俺、おでんは『たまご』しか食わないんだ……チンしたら爆発するし。鍋で温めるのもめんどくさいって、俺が凡人だからかなあ、凡人映画ばっか観てて凡人が移ったからかなあ、あは、あはは……」
「ああ……お可哀想に……」
彼の持つ書類には、天使にしか読めない文字で書かれた『各サブスク総合再生数予想ベスト&ワースト100000』が記録されている。
「うわ、ワーストのほう、地球映画ばっかじゃん。やっぱもう、地球はオワコンだな。ロケ地、【レムロス星】にするだけで再生数10倍は余裕だしな」
「ええ、ロケ地としても地球のレビューは星1.8……特に『人間』は愚かな種族で不幸になる者も後を絶たず、たましいたちから『サ終にしてくれ』との声も多数」
「じゃあもうみんな『レムロス星人』になりゃいいじゃん。ほとんど猫だし、賢いし、かわいいし」
ノリエルは頭上に思考を公開。
現れたのは草原にて「ぴゃーぴゃー」と鳴きながら遊ぶ、二足歩行で四本腕の、子猫のような宇宙生物たちだ。
「……騙されませんよ。レムロス星人、もっとムキムキで大きいでしょう?」
「そ、そんなことないし!レムロス星人は猫だし!ゴリラみたいにでかい戦闘民族なんかじゃ……」
「ほう。ゴリラ、でかい、戦闘民族……」
「ね、猫だし……確かに大人になると筋肉質にはなるけど、顔はずっと猫だし、かわいいし……」
ノリエルの想像の中のレムロス星人が、どんどん巨大でムキムキに変貌していく。
『ぴゃーぴゃー』と鳴きながら遊んでいた想像上のレムロス星人は既に見る影もなく、今や『シャーッ!シャーッ!』と威嚇しながら、4本のぶっとい腕で格闘する戦闘民族と化していた。
「おいやめろ!俺の可愛いレムロス星人からゴリラ成分を消せ!ウニエル、お前の目がゴリラを描写してるんだろ!」
「ノリエル様は疲れておられるのです。キャッチコピーは私がやっておきますので、ノリエル様は神様に『地球をサ終にしてください』と直談判をどうぞ。それが地球のためです」
ノリエルは疲れた顔で『キネマ天一ワールド』のシアター2を指差す。
地球映画ばかりを流すその場所では、神様と蝿の王がポップコーンを食べながら上機嫌でスクリーンを眺めているようだ。
「見ろよあのモニターを!神様、あんなにニッコニコで地球映画みてるのに、サ終にしろって!?」
「あー……いや、忘れてください」
「でもなんで、ハエの映画観てるんだ……?地球でもワースト中のワーストだろ」
「あれは蝿の王のお孫さんのホームビデオですよ。虫好きですからね、神様。ワースト上位なのは、ノリエル様は気にしないほうがよろしいかと」
*
その一匹のハエは、ベルザリオに忠誠を誓っていた。
彼に与えられた仕事は、主人の部下の進捗状況を伝えること。
さらに言うなら、第六天魔ハイツ202号室の様子を覗き、自らの目で見たソルソルの映像を主人の脳内に届けることだ。
が、そのハエは、たまにちらっとラザニエルの姿も映すことがある。
天界へ紛れ込み、今しがた命を終えたばかりのハエが視たのは、ドリアン味のポップコーンにまみれ、ぐったりするソルソル……の、隣に座るラザニエルとベルザリオ。
「のう、蝿の王よ。わしの孫、可愛すぎんか?」
「我輩の孫のほうが可愛いが?」
「何を言う、わしの孫の美しすぎる顔を見よ」
「フ、我輩の孫のポップコーンを貪る姿を見よ。可愛すぎるであろう?」
言いつつ、両者ともに頬はデレデレ。
とはいえ、蝿の王は仮面のせいで表情はわからぬが。
「「は~~、可愛~~」」
それから彼らは、何時間もハエたちの人生を眺め続けた。
*
ノリエルは神様と蝿の王の様子を伺いながら、これはムリだなと諦めた。
地球のものでも、最も観客数の少ない映画。
レビューすら気にせずニコニコ観ている2人の姿に、どうせ神様は地球をサ終なんてしないと決めつけ、直談判をやめてしまったのだった。
「ノリエル様、直談判は?」
「だってムリじゃん。あそこまでデレデレしてる神様を説得する労力、冷めたおでんを鍋で温めるよりめんどくさいわ。もういい、地球は勝手にやらせとけ。キャッチコピーも適当でいいや、『モテたい人、見てね!』で」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます