第2話 巫女・冒険者(トラベラー)と導き手Ⅰ
「まず、巫女についてだけど」という言葉から蓮の説明は始まった。
今、僕が知りたいことはたくさんある。巫女・冒険者、異世界、導き手などはもちろんだが、1番は「今、桃香はどこにいるんだ?」だ。近くにいる気配がしない。近くにいたら蓮が言うだろう。桃香の傍に桐葉はいるだろうが、怪我はしてないか、寂しがって泣いてやしないか等々、心配は尽きない。早く探して傍に行ってあげたい。でもまずは状況確認だ。その後で、どう動くか考えないと。
蓮によると「巫女」とは、目印らしい。
「いつの時代でも人が消えることはあったんだ。
仕事や学校には行っているのに帰ってこなかったり、犬の散歩に行ってそのまま帰ってこなかったり、 極端だ話だと、今まで一緒に並んで歩いていたのに、ちょっと目を離して相手が先に道角を曲がり、すぐ後を追って曲がったのにもう相手の姿はかき消えたようにいなくなっていたり、とね。
事件や事故に巻き込まれたということも考えられるよ。誘拐や事故に遭って記憶喪失になり戻れない、とか。
でも、どう考えても消えてしまったとしか思えない状況もあるんだ。
子どもの場合は“神隠し”とか、異国では"妖精の取り替え子”とかいう言い方もある。
で、その中には、今のボクたちのように異世界に入り込んでしまった人もいるんだ。」
「その人たちも黄昏時に消えてるってこと?」
「さぁ?そこはわからないね。
ただ、黄昏時がこの世とあの世が重なりやすい時間帯であることは確かだ。でも、それがどこの場所で起 きるかはわからないんだ。巻き込まれた人は運が悪い としか言えない。稀に何らかの形で召喚されることもあるしね。
でもね、普段、ボクたちが生きている世界の他にもいくつも別の世界はあるんだ。次元が違っていて普通の人たちには見えない、わからないってだけ。
さっき、ボクがしゃべれるってことは異世界だって言ったけど、この世界、魔法も使えるようだよ。
魔力が感じられるからね。
それと、ボクは自分で体の大きさを変えてるけど、シュウも姿が変化してるよ。」
「えっ、魔法?
僕の姿が変わってる?」
もう、僕の理解の範囲を超えてきている。常識という言葉も元の世界に落としてきたのか?
「ちょっと、まってくれ。
理解が追いつかないよ。」
「いいよ。」
しばらく時間をもらって、頭の中を整理する。
なんとか整理はできた。理解は……アヤシイ。
「続けて。
僕の姿についても教えてくれよ。」
「わかった。
シュウの今の姿は、顔付き、体付きは変わってないけど、色が変わっている。髪は黒色から金褐色(ブロンズ)に、瞳の色は濃紺から深緑(ビリジアン)になっている。
アリス殿の色と同じだな。」
「お母様と同じ色?」
「あぁ。
そっちの色の方がこの世界ではいいんだろ。
こっちに適した色に変化しているということは、こっちにある魔法にも適した体になってるはずだ。
魔法の使い方については、後で教えるよ。
続けていいか?」
「うん。いいよ。」
「巫女について、だったな。
さっき、目印って言ったけど、どういうことかというと、異世界から元の世界に戻るための唯一の目印になるということ。
何らかの形で異世界に紛れ込んでしまった場合、普通なら元の世界に戻ることは、ほぼ不可能なんだ。
考えてみてよ。異世界はいくつあるかわからない。星の数ほどあるかもね。その中で、元の世界とたまたま重なる確率は?
たとえ召喚されていても無理だね。なぜなら、召喚する場合は、求めている条件さえ合えば、どこの誰でもいいからだ。その時、たまたま重なった場所に条件に合った人がいたら呼ばれる。それでも1回で上手くいくとは限らない。よっぽど強力な方法を知っているなら別だけど。で、戻す場合は、もっと難しくなる。場所は元の世界限定、元の世界と時間の流れが違っていたらそこも調整しないとマズいから条件がより厳しくなる。無理でしょ。
でも、例外がある。
それが巫女だ。巫女がいれば、ハッキリとした目印があるから戻れるんだ。
すごいよね。
とりあえず、ここまでが巫女について。
次に、冒険者についてだけど、いいかな?」
「うっ。いいよ。続けて。
ただ、1つ疑問だけど、今回のように桃香も一緒に移動している場合はどうなる?」
「あはっ。確かに。
でも、今回は桃香は次代の巫女様であって、当代の巫女様が元の世界にちゃんとおられる。目印の点では問題ないよ。」
「あっ、そうか。
おばあ様がおられるんだ。」
「そういうこと。
ただ、普通は巫女は元の世界から動かないんだよ。
目印だからね。
さて、冒険者についてだったね。冒険者はトラベラーとも言うんだ。なぜかというと、異世界に紛れ込んでしまった人を探して、元の世界に連れ戻すために時空を旅するからさ。
でもさ、元の世界だって、高く厳しい山や樹海、ジャングル、氷原に行く場合は、様々な訓練をして準備するだろ?冒険者(トラベラー)も一緒だよ。普通は、ある程度まで修行を積んで、師匠が認めるレベルに達したと合格を出さないかぎり異世界へは行かせてもらえないんだ。
今回は、イレギュラーもイレギュラー、まさにアクシデントだよ。あり得ないことなんだ。」
1度、蓮は「ふーっ」とため息をついて続ける。
「最後に、ボクたち導き手についてだね。
導き手は冒険者や巫女について色々なサポートを行うんだけど、1番大きな仕事は異世界の目的地まで導くことと元の世界まで連れ帰ることだ。巫女の場合は、彼女たちの仕事が元の世界から水鏡を通して助言をしたり、補助員、これは他の冒険者や導き手のことだね、を送ったり、元の世界に戻るためのルートを確保したりすることだから、その手助けをする。ルートの確保は元の世界とこちらとの双方向で行うことになる。
だから、冒険者や巫女に引き合わされる前に、ある程度の訓練を済ませている。その中には、いくつかの異世界に実際に行ってみての訓練も、当然含まれている。
ボクは、人間の年齢でいうなら50歳だね。キリハは100歳だよ。
あぁ、人の姿になることもできる。
一応、これで一通りは伝えたと思うよ。」
ここまで話し終わると、蓮は「ホッ」と息をついた。
僕は、今まで蓮が話したことを頭の中で反芻しながら他に聞くべきことはないか考えていた。
「ねぇ、蓮。
なんで今は体の大きさが違うの?元の世界ではポメラニアンだったよね。今はサモエドに見えるんだけど。」
「あぁ。
ボクは本来は神犬だから姿形はどうとでも変えられるんだよ。元の世界では人と一緒にいても不自然じゃないようにポメラニアンのふりをしているだけ。
今は、魔法がある異世界に来ているから幻獣フェンリルとでも思ってくれ。大きさはもっと大きくもできるし、シュウを乗せて飛ぶこともできるよ。ちなみにキリハは神狼だよ。こっちではシルバーウルフになるかな。
それと、ちょっと周りを見たらわかると思うんだけど、こちらの世界はどうやら夜で、辺り一面、街灯なんてどこにも見えない。
地面も見てよ。月光や星明かりで見える範囲から判断して、どうも砂漠にいるみたいだ。夜が明けて、明るくなったらもっとよくわかるんだけど。気温もだいぶ下がってる。
けど、特に寒くないだろ?ボクが結界を張って寒さを遮断しているから。ついでに、ボクたちの姿も見えないようにしている。声も聞こえていないよ。
それに、ボクのこの姿だったら、くっついてたらシュウも寒くないだろ?」
俺って気が利くだろ、ってドヤ顔しているように見えるんだけど……。
「そ、それは色々とありがとう。
寒くないのは助かるよ。」
そうだろう、そうだろう、とばかりに頷いているけど、表情豊かだね。犬なのに。あ、普通の犬じゃないか。
「それと、早く桃香を探したい。
どうしたらいい?」
「そうだね。ボクとキリハは連絡し合えるから、どこにいるかがわかれば見つけられるよ。ただ、お互いが今どこにいるかがわからなければどうしようもない。
まずは明るくなるのを待って情報収集だ。
その前に、何か食べて寝ておかないと。」
「えっ?
食べ物なんてもってないよ。」
「まぁ、ボクに任せて。
ちょっと人の姿になるね。」
そう言うと、急に蓮の姿がゆらゆらとぼやけだした。その一瞬後には、蓮がいたところに1人の少年が立っていた。癖のある金髪に青い瞳の、まるで天使のような美少年だ。
「へっ?蓮なの?」
「そうだよ。ちょっと待ってね。」
そう言うと、腰に付けていたポーチから次々と何か出し始めた。テーブル、イス、食べ物、飲み物……。ポーチから出てくるはずがないものが次が次に出てくる。
「さぁ、食べよう。
話は食べながらでもできるよね。」
「その前に、そのポーチは何?
ポーチより大きなものが次々出てきたけど、おかしいよね?」
「ああ、これ?
マジックバッグのようなものだよ。何でも、どれだけでも入れられるし、時間も止められるから食べ物も温かいものは暖かいまま、冷たいものは冷たいまま食べられるから便利だよ。
出しちゃったから、とりあえず食べようよ。
話は食べながらすればいいよ。
いっただきまーす♪」
「いただきます。」
僕たちはテーブルに向き合って座り、食べながら話を続けることにした。メニューは、僕が好きなハンバーグドリアとコーンスープ、ミニサラダにアップルパイとグリーンティーだった。ちゃんと僕にちょうどいい量になっていて美味しくいただけた。
「で、マジックバッグのようなものって何?」
「マジックって、魔法や魔力だろ。でも、ボクたちが使うのは神力だからね。同じじゃない。だから正確に言うとマジックバッグではないんだ。使い方もまったく同じではないし。じゃあ、何と呼ぶか?難しいでしょ?
もう、マジックバッグにしとこう。」
「神力?」
「うん。
ボクたちは神の御使いだから。使う力も神力であって魔力ではないからね。シュウが使う力もボクたちと同じ系統だから神力だよ。魔法と同じようなことができるけどね。
でも、めんどうだからこっちの世界では魔力って言うよ。」
「蓮が神の御使い?」
「そうだよ。
代々の神代家当主の役割を学んだら理解できるよ。
まだそこまでいってないからね。ただ、1番大事なことは当主を引き継ぐときになるんじゃない。今は体を鍛える方を先にやっているからね。
異世界では、人や動物だけではなく魔物と戦わなきゃいけないときもある。元の世界でも体術・剣術は鍛えられているから自分の身を守るくらいはできると思うよ。今のシュウは両方とも初級が終わって中級に入ってるけど、初級が終われば自分の身は十分守れるよ。特に、剣術で上級までいけば、こちらの世界では剣聖と言われるレベルだよ。」
「シュウも食べ終わったね。
じゃあ、おごちそうさま~。」
「うん。美味しかったよ。
おごちそうさまでした。」
蓮がポーチの中に、テーブル上にあったものを片付ける。汚れ物はそのまま入れていいんだろうか。気になる。
「えっ、そのまま?」とのつぶやきが聞こえたのか「勝手にキレイになるよう」と言っている。テーブルとイスも片付けられ、今度はシャワールーム(もちろんトイレ付き)とベッドが出てきた。本当に何でも入ってるんだな。「一式完備されたキャンピングカーかテントにすれば1回でいいのに」と、つい言ってしまったら、「それいいなー、次からそうする~」と答えられた。何か気が抜けた。僕はシャワーを浴びて、ベッドの中だ。蓮は、またサモエドに戻って僕の隣に横になった。
「なんでまたサモエドにもどったの?」
「こっちのほうがあったかいと思ってだよ。
それにサモエドじゃないよ~。」
「ふーん!?
今、何時頃だろう。あー、みんな心配しているだろうなぁ。桃香、泣いてないかな?」
「まだ真夜中にはなってないと思うよ。こっちに来たってことは僕とキリハから菊様に連絡してる。向こうからも迎えが来るかもね。」
「えっ、菊様?菊様って、お菊さんのこと?
連絡できるの?」
「できるよ。菊様も櫻様の導き手だからね。
でも、この話は明日にしよう。長くなるからね。
じゃあ、おやすみ~」ぐぅ……。
またまた気になることが出てきたが僕も眠くなってきた。蓮が言ったように明日にしよう。それに桃香を早く探しにも行きたいしね。
桃香、おやすみ。よい夢を。
もふもふの蓮の毛皮にくっついて、僕も眠りの中に引き込まれていった。
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