スカイツリー珍道中、破天荒デート

加藤 佑一

スカイツリー珍道中、破天荒デート

「来たぁ〜、スカイツリー!」


 私の心を映し出したような、抜けるような青空の下、私は今、彼氏げぼくとスカイツリーを訪れていた。


 隣に立つ藤井翔真貝くんは「凄いですね〜、テレビで見るより迫力ある!」と興奮気味に声を上げていた。


「よし、貝!登るぞ!」


「そりゃここまで来たんだから登りますけど、ひめか様?なんで、裸足になったんですか?登るって、どうやって登るんですか?」


 戸惑った様子の貝を見て、私はほくそ笑む。


「わ〜!裸足で駆け出さないでくださーい!てか、どこ行くんですか〜、ちゃんとエレベーターで行ってくださーい!」


 道行く人々が私に視線を注ぐ。女性も子供も高齢者も外国人も。


「私に視線が集まってる。きっと、私が美しすぎて見惚れているのね。私の美しさは万国共通なんだわ〜。ただ存在しているだけなのに、人々を魅了してしまう美しさ!私って罪な女ね〜」


「このねーちゃんなんで裸足なんだ?と好奇の目で見られているだけですよ〜!」



 展望デッキに上がり、東京の街を一望する。車やビルがまるでミニチュアのおもちゃのようだった。


 その時、「無料で記念写真撮れますよ〜」という声が聞こえた。


 無料だと!?そんなサービスがあるのか!その言葉に釣られ、写真を撮ってもらうことにした。しかし、現実は甘くなかった。


「は?1500円ってどういうことよ!」


 無料で提供されるのはプリクラサイズだけで、普通の写真サイズが欲しければ1500円払えという。


「ふざけんな〜!無料でよこせ〜!」


「わ〜、やめてくださーい。その方は雇われているだけの職員さんですから〜」


 さらに私は、富士山が見えないことにも腹を立てる。


「くっそー!富士山が見えないだと〜!ふざけんな〜!お金返してもらわなきゃ!私ちょっと文句言ってくる!」


「わ〜、ひめか様、やめてくださ〜い」



 スカイツリーを降りると、私は貝からバッグを奪い取った。


「え?ひめか様?今度はなんですか?」


「よし!かくれんぼしよう!私を見つけて見せろ〜」


「え〜!」


 私は勢いよく商業施設ソラマチの中に駆け込んでいく。貝の困ったような表情は、あっという間に見えなくなった。


 私がこんな暴挙に出たのには理由がある。貝に内緒で買い物をしたかったのだ。


 貝は先日「そろそろ大人の男性っぽくなりたいから腕時計でも買おうかな〜」とポツリと言っていた。私はそれを覚えていたのだ。


 腕時計を買うと、「こんな私と付き合ってくれてありがとう」というメッセージを添えて、バッグの底にそっと隠す。


「あ〜!見つけた〜!こんなとこにいたんですか!早く僕のバッグ返して下さい」


「い〜や〜だ〜。これは帰りまで預からせてもらいます」


「え〜!なんで〜!」


 だって、デート中にバッグの中身に気づかれたら、恥ずかしいもん。

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