003. 第03話 最底辺クラスの男子たち~ダイチの話~

◯前回のあらすじ


 ダイチ「説明するぞー」


――――――――――――――――――――











「じゃあ始めるぞ。まずオレらが金を稼ぐ目的についてなんだが――


 ――それは、するためだ」



「「「補習漬けを回避???」」」



 やっと始まったダイチの説明に、初っ端から着いていくことができず首を傾げる。


 周りを見ると、男子連中の3/4くらいがボクと同じように首を傾げていた。


「……どうやらバカなのはトシだけじゃなかったらしい」


 それを見て嘆息するダイチ。


 それを聞いて顔を背ける男子連中(3/4)。


 ――ほらボクの言った通り、みんなもボクと同じくらいバカだった! バカだった!


「……まぁどうせお前らが全て理解しているとは思っていなかったから別にいい。……逆にお前らにちゃんと理解させるいい機会だと捉えよう」


 そう言ってダイチは、呆れた様子から切り替えるように、


「じゃあ分かってそうなやつに聞いてみるか。ユウヒ――」


 一人の男子に声を掛けた。


 ユウヒは、身長低めの大人しそうな顔をした気だるげな雰囲気を漂わせるオタク系の男子。


 普段は無口気味なんだけど、趣味の話になるとめっちゃ喋る。


 ……ユウヒの好きな漫画とかは、ボクの趣味とも合うからボクはユウヒとよく話す方。


「――夏休みが補習漬けになる条件は?」


 ダイチに問いかけられたユウヒは、いつもよりだるそうな雰囲気で、




「………………」




 何も答えなかった。


「……おい、こいつ気絶してるぞ」

「漫画ばっか読んで鍛えてなかったからな」

「やっぱあの作業はユウヒには無理だったか……」


 近くにいたやつらがユウヒの様子を確認しつつ、そんなことを言う。


 ……男子の中でもインドア派筆頭だったからね。ユウヒは。そりゃあんなガチガチの肉体労働に耐えられるわけがない……


「……じゃあ、アキラ」


 そんなユウヒの様子をいたましげに見ながら、別の男子やつに問いかけるダイチ。


 ユウヒの代わりに問われたアキラ――黒髪をセンターパートにした銀縁眼鏡がトレードマークの――は、その眼鏡をいつもみたいにくいっとさせながら、


「学期末テストで全科目赤点です」


 と答えた。


「そう。アキラの言う通り、一学期の終盤に実施される学期末テストで全科目赤点を取ったら夏休みなんてものは存在しなくなる――」


 アキラの回答をダイチが補足。


 その補足にボクら1年Hクラス男子たちから、少し安堵した空気が漏れ出した。


 ……全科目赤点? さすがに全科目で赤点を取るほどボクはバカじゃない。ボクだって自慢じゃないけど、1、2科目ぐらいは赤点を回避できる。



「――注意しろというか、お前ら全員マジで頭に入れておいてほしいのが、全科目赤点を取ったら、赤点取ったその本人だけではなく――


 ――そいつが所属するの夏休みがなくなる」



 そんなボクらの気を引き締めるような説明を続けたダイチ。



「「「クラス全員!?!?!?」」」



「おいおいおいマジかよ」

「流石に全科目赤点はないな。俺は。お前らは知らんが」

「俺の夏休み潰したら殺すぞ?」

「バカが、足引っ張んなよ?」


 中等部の時にはなかった補習制度に驚愕したあと、『俺は大丈夫だけど、お前らは無理じゃね?』とでもいうような牽制をし始めた。


 男子バカたちが。お互いに。


「黙れバカ共! 中等部は赤点ばっかで夏休みどころか、冬休み含めて休みなんて半分ありゃいい方だったお前らがなんでそんな強気になれるんだ!?」


 そんなボクらの牽制をぶち壊すようにダイチの野太い声が響く。


「……いいか? お前ら。このままだとお前ら全員が全科目赤点で、オレ達1年Hクラスはみんな仲良く夏休みなしだ。間違いなくそうなる」


 続けてそう言い切ったダイチ。


 そんな深刻そうなダイチに噛みつく声が一つ。


 金髪ベリショにツーブロック、耳につけた星型のピアスがトレードマークのクラス一のお調子者、テツヤだ。



「俺ら全員が全科目赤点取るなんて、なんで言い切れる? やってみなきゃ分かんねーだろが??」



 その言葉に『そうだそうだ』と、テツヤに続いて声を上げる一部の男子たち。


 そんな男子たちと、ちゃんと向き合うようにダイチが目線を向けて、



「一度習ったはずの内容ですら赤点を取るお前らなのに、内容のテストで点数なんか取れんのか?」



 真剣な様子で問いかけた。


 その言葉に俯き黙るボクら1-H男子一同。


 ……正論すぎてぐうの音も出ない……


 そんなボクらの様子を確認してダイチが、


「そう。そこに繋がるのがオレらの最大の問題点だ。赤点を回避するためにはそのテストの内容を一度習って勉強しなければいけない。学校において”習う”ということは”授業を受ける”ということ。……ただし、今のオレら1年Hクラスは授業を受けることができない……なぜだか分かるなトシ?」


 深刻そうな雰囲気で、今度はボクに問いかけてきた。



 ……いくらバカだバカだと言われてもこれくらいはボクだって理解している。



 ボクら1年Hクラスの最大の問題点、


 授業が受けれない理由、


 それは――




「はい! からです!」




 本来ならクラスに最低一つは割り振られるはずの設備がボクらHクラスにはないからだった。



「そうだ。オレら1年Hクラスには教室がない。だから、授業を受けることができない。……正確には、教室を用意できなければ授業はできないと学園に言われたからだが」



 ダイチの言葉に合わせてふむふむと頷き合うボクら。


「そして教室を用意する方法についてなんだが……学園に問い合わせた結果、やつらがオレらに提示した方法は一つだけ。これについてはこの前のクラス会議で散々話したから分かっているやつの方が多いと思う……タケル」


 そしてこの前の話し合いを覚えているらしいタケルに問いかけるダイチ。


「おう、学園から教室を借りるんだろ? だからそのために――」


 そこまで言って言葉を止めるタケル。その意図を察して、タケルから引き継ぐようにダイチが口を開き、




「――そう、そのために金がいる。学園から出された条件は――




 ――教室の賃貸料5000万の支払いだ」






 ボクら1年Hクラスの現状を突きつけた。











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