002. 第02話 最底辺クラスの男子たち~お昼休憩~

◯前回のあらすじ


ダイチ「お前は休憩短めな?」


――――――――――――――――――――











 ダイチの非情な言葉に涙を流しながら歩くこと5分。


 5時間ぶりのシャバに出たボクは、ヘルメットを外し、ゴーグルを放り投げ、マスクを引き千切るように外しながら、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。



「気持ちいいーー!! チョー気持ちいい!!」



「いつの時代の水泳選手よ。あんたは」


 坑道から出てきた開放感そのままに叫んだボクに、女の子の声でツッコミが入った。


「あれ? ナギサじゃん。どうしたのこんなところで」


 声のした方に目を向ければ、キリッとした目に、透き通った鼻筋、唇はピンクが薄く引かれていて、100人見れば100人は美人だと評するだろう女の子、ナギサが立っていた。


「お弁当の配達よ。あとカエデがダイチに用があるから、その付き添いでもあるけど」


 の光を煌めかせた金髪ツインテールの先を指でくるくるもてあそびながら、もう片方の手でお弁当の山を指し示す。


「ああそうか。もうお昼だもんね! ありがとうナギサ」


「べ、別にあんたのためだけに持ってきたわけじゃないし……」


 顔を背けるナギサ。金髪ツインテールの先を指でくるくる、じゃないぐるぐるいじっている。


「トシくんお疲れさまです!」


 そんなナギサの後ろから、パーマがゆるくかかったアッシュグレーのロングに、つぶらな黒い瞳、ほっぺたを子供みたいにちょっと赤らめたちんまい女の子が声を掛けてきた。


「カエデもご苦労さま。お弁当ありがとうね!」


 そうカエデに返事をして、男子が群がっているお弁当の山に向けて歩き出す。


 群がる人数から察するに、ボクら鉄鉱石採掘班12人以外にも石灰石採掘班の8人もいるみたい。


 探索科1年Hクラスの男子全員だ。


「ナギサが言っていたけど、カエデはダイチに用があるんだって?」


「そうなのです! 今後の女子チームの動きについて相談したくて、お弁当届けるついでに来ました!」


 歩きながらカエデと会話する。


 現在、ボクたち探索科1年Hクラスは男子と女子に別れてお金稼ぎに奔走している。


 男子は鉄鉱石と石灰石を掘り集め、ダンジョンの不思議設備でそれらを鉄に変えて売る仕事。


 女の子は、……あれ、女の子たちは何してるんだろ?


「そういや女の子たちは何してるの?」


 隣を歩く2人に、ちょうどいいので聞いてみた。


「女子はネギを収穫しているわ」


「へぇ~、ネギが採れるダンジョンなんてあるんだ」


「あるにはあるんですが、少し遠くて……移動に往復2時間かかってるのです……」


「け、結構遠いね……」


 お弁当の山だったものに辿り着き、自分の分のお弁当を確保しながら、ちょっとしゅんとしてるカエデを見る。


「遠いですけど、お金がいっぱい稼げるならいいかなと思って……でも交通費まで考えると、学園付近のダンジョンで稼ぐのとあんまり変わらなそうなのです……」


「それでダイチに相談に来たのよ」


 自分たちの分のお弁当を手に取りつつ、ナギサがカエデの頭をよしよししている。


 男子も大変だけど女の子たちも大変そうだなとか、そんな浅い感想を思いつつ、2人に、


「とりあえずお弁当食べよっか」


 と声をかけて、今日の昼は女の子2人とご飯を食べた。






―――






「おーいお前ら集まってくれ」


 ボクがナギサとカエデとご飯を食べ終えて、少しまったりしていると、ワイルドな男らしい顔に、こげ茶っぽい色のミディアムヘアをかき上げた筋肉質な男子が立ち上がって、この場にいる人間たちを呼び集めた。


 ダイチの周りにぞろぞろ集まる1年Hクラス男子19名+女子2名。


 そのダイチ――鉄鉱石採掘班リーダー兼、探索科1年Hクラス副代表――は、集まったボクらを確認したあと、その口を開いた。


「オレらの現状について、今からもう一回話しとこうと思うから休憩ついでに聞いてくれ」


「「「???」」」


 『今やる?』みたいな顔をして首を傾げる事情を知らない石灰石採掘班の男子たち8名。


 その内の一人、石灰石採掘班リーダーのタケル――ダークグレーの長髪をウルフカットにして、切れ長の目が特徴的な男前――が声を上げた。


「現状って言ったって、俺ら男子は鉄売って目標額稼がなきゃだろ? てか目標やらなんやらはこの前クラス全員で話し合ったじゃねぇかよ」


 そうして『また同じ話すんの?』とでも言うように肩をすくめるタケル。


「改めてオレらの意識統一のため一応な。……というか、トシのバカがツルハシの振りすぎでそんなことも忘れちまったらしい」


 事情を知らないやつらの為に、そんな説明をするダイチに納得した様子を見せる一同。


「……まぁそれならしょうがねぇか」

「クソバカのトシだからな」

「ツルハシ振らなくても三歩歩いた時点で忘れていただろう」



「誰が鳥頭だって!? ってかみんなだってボクと変わらないぐらいのバカじゃないか!」



 クラスメイトたちのあんまりな言い草に大声でツッコむ。


 そんなボクに対して、やつらはやれやれとでもいうように両手を肩ぐらいの高さに上げて首を振っていた。



 なにこいつらムカつく。



 そんなクラスの男子連中に憤慨していると、お弁当食べたあともボクの隣にいたナギサが、



「大丈夫よ、トシ――」



 クラスメイトの男子たちにバカにされたボクを慰めるためか、声を掛けてきた。


 ――いつもボクに対してはバカだのアホだのの悪口に、たまにゴミを見るような目で見てくることもあれば、直接的な暴力に折檻まで振るってくるくせに……


 ……いや殴られたりする時はボクが悪いかも……


 ……まぁ総合的に振り返ると、ボクに対して結構当たりキツめなのに、ボクが傷ついたりしたこういう時は優し――




「――だって、自分の家族くらいは覚えているでしょう?」




「ダチョウ並?! ボク、ダチョウ並に頭悪いと思われてる?!」


 クラスメイトの女の子から動物界でも随一の頭の悪さを誇るとされている鳥類より少しマシくらいに覚えられていたことにショックを受けて、思わず地面に膝をついた……



「……というかバカでもいいじゃない。(……そ、そういうところもか、可愛いもの……)」



 続けてナギサが何か言ってるっぽいけど、さっき受けたショックがまだ抜けきれていないボクにはよく分からず、顔に『?』を浮かべた。


 しかも後半の方は小声だったからよく聞こえなかった。



 それを見て、両手を肩ぐらいの高さに上げて首を振る男子連中。


 あ、カエデもやつらと同じようにそのちっちゃい頭をフリフリしている。


 なんだこいつら。



「おい、バカは放っといて話を始めるぞ。座りながらでいいから聞いてくれ」


 ダイチの言葉に従い、肩をすくめる動作をやめて各々その場に座り、話を聞く様子を見せる1-H男子一同。


「ていうかボクの為の説明でもあるよね!? ほっとかないでよ!」


 さっき受けたショックから復帰を果たしてダイチにツッコみつつ、ボクもその場に座った。



 ダイチは首をぐるりと回し、全員が座って話を聞く姿勢になるのを確認したあと、話し始めた。




「じゃあ始めるぞ。まずオレらが金を稼ぐ目的についてなんだが――」











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