ダンジョン学園のバカ男子~異能はあるけど知能はありません~【第2幕開始】
桃柑
第1章『仲間はいるけど知能はない』
第1幕『バカな男子《やつ》らの金稼ぎ』
001. 第01話 最底辺クラスの男子たち~採掘作業~
――カーンッ、カーンッ
手に持ったツルハシを振りかぶりながら、規則正しいリズムで目の前の岩盤を掘る。
――カーンッ
額に張り付いた前髪が気持ち悪い。
――カーンッ
ヘルメットの中は熱が
――カーンッ
筋肉痛で悲鳴を上げ続けていた筋肉たちも、今や麻痺して何も感じなくなり、ただ機械的にしか動かせない。
――カーンッ
防塵マスクだって、新鮮な酸素を求める身体の欲求を邪魔して、
――ッ
規則正しく鳴らしていたリズムを止め、手に持っていたツルハシを脇に置く。
そして、ごてごてしたマスクの中で、その不快感たちを掻き消すようにボクは叫んだ。
「なんでHクラスだけこんな扱いなんだぁああああああ!!!」
なんだぁああああああ
なんだぁああああ
なんだぁああ
なんだぁ
……
「うるせぇバカが」
「サボるな! 手を動かせ」
「叫ぶ元気があるだけマシだろ……」
ボクの魂の叫びを無視して温かい(?)言葉をかけてくるクラスメイトの男子たち。
やつらはさっきまでのボクと同じように規則正しいリズムを奏でながらツルハシを振るい続けている。
ただし、保護ゴーグル越しに見えるその瞳は、死んだ魚のよう。
10代の男子がしていていい眼ではない。
そんなボクらがいるのは、”鉄ダン”と呼ばれるダンジョンの中。
ランタンの灯りのみで照らされた岩に囲まれた薄暗い坑道。
そんなダンジョンの中で鉄を掘るため、ツルハシを振るってる。
”ダンジョン”――今ではそう呼ばれるようになった、地球とは異なる世界に通じる超常現象が、世界各地に出現し始めたのは、今から50年前……だったかな。
……1980年くらいだった気がする。
その
それらを元手に、ボクたち異能力者を含む人類は、
”それまで地球産の資源を食いつぶして先細りしていた未来から脱却し、人類皆が明日に希望を持てる豊かな社会を築き上げた”
……って、中等部の時の”現代ダンジョン史”の教科書には書いてあった。
まあボクの記憶はさておき、実際今の世界は豊かだと思う。
で、そんな世界で異能持ちの子供たちを育成するための学び舎、世界的な通称”ダンジョン学園”、日本だと”
もちろん、異能持ち。
火を操ったり、速く移動したり、幸運を呼び寄せたり。
本人の資質とかにもよるけど、色んな異能を持った子たちが集められている。
全国6校。各地方に1校ずつ。
ボクらがいるのは、埼玉にある関東
他の地方の学園に比べ、優秀な卒業生を送り出すと評判の学園。
……中には『地獄の方がマシ』と言い残して卒業していった人もいるけど。
……てか多分それ、ボクらのクラスの先輩だと思うけど。Hクラスの。
そんなボクら関東
採掘活動を始めて3日目。
ツルハシを振って鉄鉱石を掘り出すこの作業を、朝から晩まで一日中やっている。
――1日目。生まれて初めての採掘作業は楽しかった。
――2日目。朝起きたら筋肉痛で全身が悲鳴を上げていた。
――3日目。普通に飽きた。
「なんでボクらは10代の貴重な時間を、こんな薄暗い坑道で過ごさなきゃいけないんだ!?」
そんな3日間を振り返りながら、地面に手をついて嘆き悲しむフリをする。
「だからうるせぇって」
「喋ってもいいから手だけは動かしてくれ……」
「……」
そんなボクの肩に誰かの手が置かれて、頭上から聞き慣れた声が降ってきた。
「それはな?――
――金がいるからだよ」
その声に顔を上げると、筋肉質で体格のいい男子が、保護ゴーグル越しに胡散臭げな眼でボクを見ていた。
防塵マスクを着けていても分かる漢くさい顔立ち。
中等部の3年間を共にし、更にこの先の5年間も共にすることが確定した親友――ダイチだ。
「てかお前、適当なこと言ってサボろうとしてるだけなのバレてるからな? さっさとツルハシを持て。そして掘れ」
そんなダイチは、ボクの作戦を普通に見抜いてきた。
地面に手をついて現状を嘆き悲しむフリをしながら休憩するという、ボクの作戦を。
「いやいやそっちこそ適当なことを言わないでよダイチ。サボるだなんて、ボクがそんなことするわけないじゃないか! 胸に溜まったこの
ダイチの発言から、ボクを睨みつけてくる級友たちを意識しつつ、ゆっくりと立ち上がる。
その死んだ魚のような瞳に殺意をチラつかせてるのを感じ取りながら。
「やっぱ適当言ってんじゃねーかトシ。その態度と言葉からお前の魂胆なんて丸分かりだ」
そう言って胡散臭げな眼を向けたまま、ボクにツルハシを持たせようとしてくるダイチ。
さすがに中等部3年間ツルみ続けた悪友。ボクの考えなんてお見通しだね。
ただそれを認めるとボクの命の危険に関わるので、
「ボクたち、たった1ヶ月前までは中学生だったんだよ!? なのにいきなりガチガチの肉体労働!? 厳しいって」
ツルハシをダイチに押し返しつつ声を大きくして、サボり疑惑についてうやむやにするため、会話の誘導を試みる。
「さっきも言ったろ? 金がいるからだって。んなことは、バカなお前だって分かってるくせに」
更に強めにボクにツルハシを押し付けつつ、ダイチが言う。
「……それは分かってるけど、なんでボクたちはツルハシなんか振るってるのさ?」
サボり時間を伸ばす糸口を見つけたボクは、受取拒否に失敗したツルハシを改めて手に持ちつつ、ダイチとの会話を長引かせるために画策する。
「ああ? バカだバカだと思っていたが、そんなことも忘れるくらいバカになっちまったのか?」
ダイチがそう言いながらその眼に呆れた色を乗せて、こちらを見てくる。
その視線と言葉を受けて、
――茹だりそうな頭、
――マスクで苦しい呼吸、
――筋肉痛の限界を超えて、一瞬でも長い休憩を求める身体、
それらを抱えたボクは、
「そうだ! そんなことも忘れるくらいバカだからもう一回説明してください! お願いします!」
恥も外聞もかなぐり捨てて、ダイチに向かって土下座した。
……ふぅ、立ってるよりも土下座してる方が楽だね……
「はぁ……しょうがねぇからそこら辺について休憩がてらもう一回説明するか。……おーいお前ら、このバカの陳腐な作戦に乗っかって休憩にしよう。外行くぞ!」
完全に呆れたため息をついて、ボク以外作業中だったみんなに声を掛けるダイチ。
ボクの考えは普通にバレてる。
「はぁ~やっと休憩か」
「今何時だ?」
「13時」
「もう昼過ぎてるじゃねぇか」
「筋肉だけじゃなくて、時間の感覚も麻痺してるかも」
「もう分っかんねーなこれ」
「……」
ダイチの掛け声に、ボク以外の作業員10名が手に持っていたツルハシをその辺に立てかけつつ応えた。
「いつまで地面と愛し合ってんだトシ? 置いてくぞ」
土下座しているボクの頭の上からそう言い放って、坑道を出口の方へと歩き出すダイチ。
それに追従する作業員ことクラスメイト男子10名。
「好きで愛し合ってるわけじゃない!」
ボクはそう言いながら土下座から立ち上がって、みんなの後を追いかけた。
朝から活動を始めておよそ5時間ぶりの休憩に、軽くなった心も身体も弾ませて。
「あ、トシ、お前はこいつらより休憩短めな?」
「なんでえええ」
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