004. 第04話 最底辺クラスの男子たち~オレらだけのもの~

◯前回のあらすじ


 学園「教室欲しけりゃ5000万払え」


――――――――――――――――――――











「学園から出された条件は――


 ――教室の賃貸料5000万の支払いだ」



 ダイチのその言葉に、場の空気が重たいものになった。


「……5000万? ただの学生にとても稼げる額とは思えない」

「……学園は俺らみたいな問題児たちに授業なんてする気がねえんだ……」

「……Hクラスってだけでそこまでするか?」


 1年Hクラスの男子たちの口から、諦めを帯びたセリフが次々と出てくる。


 ボクも口には出さないけど、みんなと同じような気持ちだ……



 ……あれ、前にも似たような光景を見た気がするし、同じようなことを考えた気がするな……



 何かが頭に引っかかったまんまのボクと、場の雰囲気を無視するかのようにダイチが更に続ける。


「この前の話し合いでは言わなかったが、教室云々うんぬんとは別に、中等部までは補助があった寮費なんかの生活費もカットされたから、その分も稼がなきゃいけねぇ……しかもそれを自分達だけでやる必要がある。親とか保護者からの金銭的援助もHクラスは禁止されたからな……」


 ダイチの言葉に、更に場の空気が重たくなる。


 ……本当になんでHクラスだけこんな扱いなんだろう……


 噂でしか知らないけど、学年トップクラスに優秀な人たちが集まるAクラスは、広い教室に最新の設備を取り揃え、寮も一人暮らしとは思えないほど豪華なものが用意されているらしいのに。


 生活費なんかも他のクラスに比べて多目に支給された上でそれ。やんなっちゃうね。


 ……まぁ、貰えるだけマシだから、そこについてはAクラスだけではなく他のクラスも羨ましいんだけど。


 周りを見渡すと、ただでさえ採掘作業で疲れ切っているところに、学園であるところの自分たちの現実をまざまざと突きつけられて――



 ――男子は全員下を向いてしまっていた。



「「「…………」」」



 ……もうみんな声も出せないほど、色々重たいものを感じてしまっている……


 そんなボクらの様子をゆっくりと見回したダイチが、落ち着いたトーンで、されどさっきまでより力強く、話し始めた。



「……教室もない。……金もなければ助けもない。……ついでに頭が悪くて知能もない。

 ……だけどな? そんな無い無い尽くしのオレら1年Hクラスでも、他のクラスの連中が絶対に持ってない、あるものがある――」



 そこまで話して言葉を区切り、こちらを見回すダイチ。


 『それがなにか分かるか?』とでも言うようなダイチの視線を感じて、俯いていたやつらの顔が上がる。



 ただ、その顔はまだ暗いまま。



 ――問題児だけが集められた、学年の爪弾者つまはじきものクラスの自分たちに、他のやつらが持ってないものを持っていることなんてありはしないだろうと。



 ――学園からは見放されて、その上、誰の手も借りることができない自分たちに、希望なんてありはしないだろうと。



 その暗い顔に疑念と少しの絶望を浮かべて、何も言わずダイチを見ている。


 ただ、その目は、続くダイチの言葉に希望を求めているようにも見える。


 そしてダイチは、ボクら男子一人ひとりに目線をやり、男子全員(気絶したユウヒを除く)と目が合うことを確認したあと、ゆっくりと口を開いた。




「――いいか? お前ら。学園最底辺扱いを受けるオレらHクラスにはあって他のクラスにはないもの、それは――」




「「「……それは???」」」


 


「――仲間だ」




「「「……仲間」」」




 ダイチの言葉に、お互いを、少し拍子抜けしたような顔で見合うボクら。


 そんなボクらにダイチが語りかける。



「なぜかは知らんが、今年の探索科1年Hクラスは、だ。知ってたか?」



 ふるふると首を横に振るボクら。


 それを確認して語り続けるダイチ。




「同じ学年の他のクラスにそんなクラスはねえし、これはオレ達だけに与えられたアドバンテージだ。

 ――ここにいない女子も含めたオレ達40人には、中等部3年間を通して築き上げてきた絆がある。

 ――どんな壁だって力を合わせて乗り越えてきた経験がある。

 ――時には殴り合って、ケンカして、馬鹿みたいに笑い合って、そうして紡いできた思い出がある。

 ――これだけは、他のクラスは絶対に持ってないし、オレら1年Hクラスだけが持っている

 ――しかも、それさえあればどんな困難だって乗り越えていける最高のだ」




 そう言葉を区切って、漢くさく笑いながらボクらをぐるりと見渡すダイチ。


 周りのやつらの顔は、少し照れくさそうにしながらも、もう疑念とか絶望とか、そういったものが浮かんでいる様子はない。


 ……そうだ。ダイチの言った通り、ボクらには、ボクら1年Hクラスのメンバーには絆がある。


 バカだし、問題ばっか起こすし、先生たちにも怒られてばっかで、他のクラスの子たちに嫌われてたりもしたけど、それでも――




 ――血の繋がった家族みたいに強い”絆”がボクらにはある。




「オレらが力を合わせればどんなことだって乗り越えられる。それは、今までがそうだったし、これからだってそうだ。だから今回の問題についてもオレは大して気にしていない。……いつもより状況は悪そうに見えるがな」


 いたずらっぽく笑うダイチ。


 今回ボクらが直面した問題について、先行さきゆきなんて全然見えなくて、無理だとか頭の片隅で考えてしまっていたボクも、そんなダイチにつられて大した問題には感じなくなってきていた。



 周りのやつらもそうだ。



 自分たちならやれる。俺らならやれる。お前らがいればやれる。周りの仲間に信頼を置いて、希望に満ちた顔つきになっている。



 そんなみんなの顔を見て、ダイチがパンッと一つ手を叩いて注目を集め、




「よっしゃお前ら、5000万なんて大した問題じゃない! サクッと稼いで、ついでに赤点もサクッと回避して、一生に一度しかない高1の夏休みを、最高の仲間と、最高に楽しく満喫してやろうぜ――


 ――いくぞぉおおおお!!!」




「「「おおおおお!!!!!!!!!」」」




 ボクらの胸の内を熱いものが駆け巡る。


「よっしゃあ! 何万kgだって掘り出してやらぁああ!!」


 その感情に従って、ボクは声を上げ、身体を動かした。


 周りのやつらも声を上げていて、早いやつはもう走り出している。


 ダイチの掛け声で今まで以上に一つになったボクたち1年Hクラス男子は、坑道に向かって駆け出した。




 こいつらと、この仲間たちと一緒なら何も怖くないやって無敵感を胸に抱えながら、




 それまでの疲れも忘れて。











「……あの~、そ、相談がぁ」


 後でダイチに聞いた話だと、男子たちが走り去った後に漏れたカエデの泣き声は、ギリギリ、ダイチの耳に届いたらしい。











「……ねぇ、ユウヒはここに置いたままでいいの?」


 その日の作業終了までユウヒはそのまま忘れ去られた。











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