第二部・第6話「全土の揺れ、和を結ぶ試練」
一 四国の拍、交わる
〈ルゼア〉の沈黙、〈サリド〉の律、〈ラマル〉の歓喜、〈フリオ〉の凍結。
それぞれの国で整えた“和”は、確かに人々を生かした。
だが——同時に、それらの拍は互いに干渉を始めた。
王都に戻る途上、胸の刻印が灼けるように熱を帯びた。
遠くで沈黙と歓喜がぶつかり、律と凍結がせめぎ合っている。
秤の針は振り切れ、王鈴の輪郭が震え、芽吹きが枯れそうになった。
「……これは“全土の揺れ”」
イリスが青ざめた顔で呟く。
「各国で整えた和が、それぞれ強くなりすぎて——互いを食い合ってる」
セレスティアは厳しく目を細めた。
「つまり、このままでは全土が裂ける。
次は“国と国”ではなく、“世界全体”の試練だ」
二 王都の大評議
王都の大広間には各国から使者が集められていた。
ルゼアからは沈黙の司。
サリドからは軍律長官ハルド。
ラマルからは祭司長ナラン。
フリオからは氷の長。
彼らは互いに目を合わせず、それぞれの和を主張した。
沈黙の司:「余計な声は要らぬ。沈黙こそ和」
ハルド:「律なき和は無秩序だ。王律こそ和」
ナラン:「笑え、歌え! 歓喜こそ和!」
氷の長:「凍結せよ。融けるときだけ、和が残る」
四つの声が同時に重なり、広間は裂けそうになった。
セレスティアが立ち上がり、声を放つ。
「沈黙も、律も、歓喜も、凍結も——すべて和の一部だ!
だが、どれか一つに偏れば、必ず裂ける!」
しかし誰も譲らなかった。
三 拍の暴走
そのとき、王都の空が震えた。
東から沈黙の波が押し寄せ、南から律の轟きが響き、西から歓喜の炎が燃え、北から凍結の冷気が覆った。
四つの拍が都で激突し、地面が割れ、塔が揺れ、人々が悲鳴を上げる。
「……これが“大試練”」
イリスが秤を見つめた。針は狂い、秤そのものが砕けそうだった。
カイルが太鼓を叩いた。だが沈黙に飲まれて返らない。
レイナが剣を振った。だが凍結に封じられる。
ミュナが芽吹きを揺らした。だが歓喜の熱で枯れかける。
セレスティアの布告も、律の轟きにかき消された。
俺は王鈴を握りしめた。
胸の刻印が焼けつき、ルミナの声が轟いた。
『整律官よ。すべての拍を結べ。
沈黙に律を、律に歓喜を、歓喜に凍結を、凍結に沈黙を。
——輪を結び、世界を繋げ』
四 結びの儀
俺は王鈴を逆さに掲げ、声を放った。
「《輪を結べ》!」
セレスティアが布告を重ねる。
「布告。“結びの札”。四つの拍を互いに受け渡せ!」
イリスが灯籠に四つの記号を刻む。
沈黙に“間”を、律に“休み”を、歓喜に“沈黙”を、凍結に“融解”を。
レイナが剣で空に印を切る。
沈黙を裂き、律を受け、歓喜を流し、凍結を溶かす。
カイルが太鼓を叩く。
沈黙の後に律を置き、律の後に歓喜を置き、歓喜の後に凍結を置く。
——四拍の輪ができあがる。
ミュナが芽吹きを抱え、四つの花を同時に咲かせた。
沈黙の白花、律の赤花、歓喜の黄花、凍結の青花。
それぞれの花が輪になって風に舞った。
空を覆っていた沈黙、律、歓喜、凍結が交わり、
初めて“全土の和”が響いた。
五 大試練の果てに
地面の亀裂が閉じ、塔が静まり、人々の悲鳴が笑いに変わった。
沈黙の司は目を閉じ、ハルドは頷き、ナランは仮面を外し、氷の長は深く息を吐いた。
「……認めよう」
沈黙の司が呟いた。「沈黙も、律も、歓喜も、凍結も——和の一部に過ぎぬ」
ハルドが言う。「休みを持つ律は強い」
ナランが言う。「沈黙を抱く歓喜は燃え尽きない」
氷の長が言う。「融解を受け入れる凍結は命を繋ぐ」
セレスティアが宣言した。
「今日、この日をもって、全土は一つの和に結ばれる!」
人々が声を合わせ、沈黙の間を置き、律で揃い、歓喜で笑い、凍結で守った。
——それが“世界の輪”だった。
六 夜空の声
その夜、胸の刻印がやわらかく光った。
ルミナの声が響く。
『よくやった、整律官。
だが、和を結んだ先に——まだ試練がある。
外なる拍が、すでに近づいている』
空に、一筋の裂け目が走った。
そこから聞こえるのは、この世界のどの拍でもない、異なる和だった。
俺は王鈴を握りしめ、仲間たちを見た。
セレスティアは炎を宿し、イリスは冷静に秤を構え、レイナは剣を鳴らし、カイルは太鼓を抱え、ミュナは芽吹きを撫でていた。
「次は——外なる拍」
俺は息を吸い、夜空を見上げた。
結び
全土の揺れは収まり、和は結ばれた。
だが、次なる試練はこの大地の外からやって来る。
――――
次回:第二部・第7話「外なる拍——異界からの侵入」
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