歴史修繕カンパニー
ちびまるフォイ
歴史修繕巡回済み
「〇〇くん……!」
「▲▲ちゃん……!」
「30年未来から、愛に来てくれたの……!?」
「そうだよ。君を忘れられなくて……」
「嬉しい!! 好き!!」
「僕もさ!!」
二人がアツく体を抱きしめあったときに警告音。
NO MORE 違法タイムリープ
***
「はあ……。今日も残業だよ」
「そうだな……」
当時、私と友人はいつも残業していたのを覚えている。
「最近はタイムトラベラーやら
パラレルワールドからの渡航者が増えてるって聞くし」
「まじかよぉ……」
私と友人の仕事は歴史修繕業者。
タイムトラベラーやパラレルワールドを始め、
異世界からの渡航者などなどが散らかした歴史の矛盾を片付ける仕事。
といっても仕事は地味なもので、未来のゴミなどが現代に残されていないか。
現代に知り得ない情報を話したりしてないかを調査・消去を担当している。
「ったく、また異世界人のやつだよ。
あいつらいちいち異世界の知識をしゃべるのな。
片付けるこっちの身にもなってくれよ」
「まあまあ。さっさと片付けちゃおうぜ」
その日は連休だった。
私と友人は浮かれた時間渡航者の後片付けを済ませて別れた。
去り際に友人が言った言葉を今も覚えている。
「こっちの苦労もわからない奴ら……。
歴史を土足で踏み荒らすくらいなら、いっそこなけりゃ良いのに」
私はその言葉をなんとなく流した。
頭には時間国境で繰り返し流れる NO MORE の広告を思い出していた。
私が家に帰ると電話には着信履歴がびっしり。
宛先はどれも両親からだった。
「もしもし?」
『おう、たかし。おめえ、そっちでは元気にしとるんか?』
「うんまあぼちぼち」
『仕事は決まったのか?』
「あーーうん、まあ決まったよ」
『なんの仕事だ?』
「それは言えないんだけど……」
『言えない仕事って……。危ない仕事じゃないだろうな!』
「大丈夫だよ! もううるさいなぁ! 切るね!」
私の仕事を話せるのは、同僚であり友人しかいない。
家族、恋人への時間修繕業者の情報を明かすことはできない。
これによってプライベートの関係も長続きはしなかった。
「毎日、仕事仕事って……。そんなに仕事が大事なの!?」
「もちろん君のことも大事さ。でも僕の仕事は……」
「なんの仕事かも教えてくれないくせに!
どうせ仕事とかいって別の女と会ってるんでしょう!?」
こんなやり取りばかり続くので、もう恋人も諦めてしまった。
ちょうど別れ話が終わった翌日の出勤日だったのを今も覚えている。
その日、同僚はなにか考え込んでいた。
「おい、もう時空出勤日だぞ。タイムワープカード切っておけよ」
「もうちょっと考えさせて」
「なにを考えるのさ? 今日の歴史修繕現場は決まってる。
まずは未来渡航者の後始末を……」
「それだよ。なんでこっちがいつも後始末なんだ?」
「ど、どうした急に」
「俺ら歴史修繕業者は、いつどこで、歴史改変が起きるか知ってる。
その穴を塞ぐことばかりさせられてる。
だが、そもそも。歴史改変なんかさせなけりゃいいんだよ」
「はあ!?」
「歴史改変なんかさせなけりゃ配慮の無い奴らで
俺らの仕事が増やされることもなくなる!
残業もなくなるんだよ!」
「でもそれは……」
「なあに、ちょっと先手を打つだけじゃないか。
今この歴史を変えようって話じゃないんだ」
その日、歴史修繕現場には早めに向かうことにした。
そして歴史改変をしにきた未来渡航者のワープゲートを跡形もなく消した。
「これでよし、と」
「いいのかなぁこれで」
「ワープゲート閉じるだけで今日の仕事は終了したんだぜ?
未来の奴らの痕跡を消す仕事がまるっと消えたんだ。
これで今日は定時退社だな!」
友人と自分は久しぶりの定時退社に浮かれていた。
仕事終わりにどこどこへ遊びに行こうなどと話していた。
しかしそれは緊急ニュースで遮られることになった。
『ただいま電車が国際犯罪テロリストに占拠されました!
火薬を載せた電車は〇〇地区に向かい……ああ! なんてことだ!!』
「お……おい……これって……」
テレビでは繰り返し報道される阿鼻叫喚の地獄絵図を写していた。
テロリストが電車を乗っ取ったのは、今朝ちょうど自分たちが塞いだ部分だった。
「僕らが塞いだワープゲート。
あれはこの事故を防ぐためのものだったんじゃ……」
「し、知ってるよ! なんてことしちまったんだ!
俺は……俺のせいで多くの人の命が……!!」
定時になっても帰る気にはなれなかった。
暗く重い時間がずっと流れていた。
「……やっぱり変えよう」
切り出したのも友人だった。
「変える?」
「あの事故をなかったことにする」
「そんなことできっこない!」
「業務用のタイムマシンがあるだろう?」
「あれは! 歴史修繕用だろう!?
当時の時代にいって歴史を治すためのもので……」
「でもワープはできる。だから事故を防ぐこともできる」
「それこそ歴史改変じゃないか!」
「……でも俺は歴史改修業者だろう。
あらゆる歴史の痕跡をどうやって消すかは熟知している」
「まさか……」
「俺が行って歴史を変えてくる。
そして、すべての痕跡をなくして来るよ」
「ムリだ! そんなことしても、出発の痕跡はどうする!?
タイムマシンを使ってワープゲート作ったら、その痕跡は!?」
「そこはお前がいるじゃないか」
「はあ!?」
「俺は過去の大事故をふせいで、過去の痕跡のすべてを消す。
だから、お前は俺がいなくなった現在から痕跡を全て消してくれ。
そうすれば歴史になんの矛盾も起きないだろう」
それが友人との永久の決別になることもわかった。
けれど何を行ってももう決断は変わらないことも悟った。
「それじゃ行ってくる。過去の歴史の痕跡は消して来る。
だから現実のほうは……まかせた」
「ああ……またな」
「さようなら」
またね、とは言ってくれなかった。
友達は業務用タイムマシンを使って行ってしまった。
私は友人が向かったすべての痕跡を消して歴史的矛盾を取り去った。
この仕事にも最初からいない人物として片付けた。
ちょうど同じ頃、あれだけ報道されていた大事故は
急にフェイクニュースとされ一瞬で消えてしまった。
友人がやってくれたのだろう。
歴史タイムラインを見ても不自然な場所はどこにもない。
もう会えない彼は完璧で徹底した歴史修繕をやってのけた。
私は最後に自分の記憶を消すことも決めていた。
だが、今ではこの手記にしか残っていないただ一人の友人。
彼の名前を忘れても、ここに残しておこうと思う。
彼の名はーーー
< 現代への影響が大きいため、以降は歴史遮蔽されました >
歴史修繕カンパニー ちびまるフォイ @firestorage
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