第5話

遺跡の奥で見つけたあの結晶から放たれた光は、ユウキの身体の隅々まで温かく満たしていった。

過去と未来、獣の姿と人間の心、その狭間で揺れていた彼の魂は、今まさにひとつに結びついていくようだった。


「人間に戻りたい」――ずっと抱き続けてきた願い。

それは決して消えることのない希望だった。

だが、獣人として過ごした日々のすべても、彼の大切な一部になっていた。


ミナの優しい声、ケンの力強い励まし、そして村の仲間たちの笑顔。

そのすべてが彼の背中を押してくれた。


「俺は、この世界で生きる」

ユウキはそう決めた。


身体は獣人でも、心は変わらず人間のまま。

二つの世界を繋ぐ架け橋として歩む道を、これからも迷うことなく進む。


やがて、遺跡の出口に差し掛かったとき、朝の光が差し込んできた。

柔らかく、優しく、世界を包み込むような光だった。


「ここが、俺の居場所なんだ」


ユウキはそっと目を閉じ、深呼吸した。

どんなに遠く感じた「人間としての自分」も、

もう恐れることはなかった。


これからは、獣人として生きる中で見つけた絆や記憶を大切に抱え、

人間だった頃の記憶を少しずつ取り戻しながら、

確かな一歩を踏み出していくのだ。


振り返れば、村の仲間たちの顔が揃っていた。

笑い、語り合う彼らの姿に、ユウキは心からの安堵を感じた。


「ありがとう」


静かに呟いた言葉は、きっと彼らにも届いたはずだ。


世界は広く、まだ知らないことがたくさんある。

時には迷い、時には傷つくこともあるだろう。


だが、ユウキはもうひとりじゃない。

この身体と、この世界、そして仲間たちと共に生きる未来がある。


彼の物語はここで幕を閉じる。


けれども、その先に続く道は、まだまだ長く続いている。


光差す朝の村で、獣の身体の少年は静かに笑った。


「また明日も、生きていこう」


その言葉が、優しく風に乗って世界に響き渡った。


—完—

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生猫獣人での異世界スローライフ 〜人間になりたいのですが?!〜 ちょむくま @TakinsaCI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ