十二星召筆頭

 かつて風の国を支配せんとしたルナールを打ち破った若きリスナーがいた。その後いくつかあった災禍に対しても立ち向かい、解決へと導いた生きる伝説たるリスナーが今エルクリッド達の目の前にいる。


 十二星召筆頭デミトリア。老いてなお力漲る様子は説得力の塊そのもの、その彼が静かに帯革の尾錠に備わるカード入れからカードを引き抜きアヤミとエトラの二大神獣がデミトリアを捉えた。


「さぁて……久方ぶりの神退治と行くか。戦場に盃を掲げるは百戦錬磨の武士たる蝦蟇の長、いでよ酒天大蝦蟇しゅてんおおがまマダラ!」


 滾るデミトリアの魔力と共に高らかに名を呼ばれ召喚されるは大きな瓢箪を背負う朱と白の斑模様を持つ巨大なカエル。全身の傷跡と使い込まれた鍔のない刀を手にするマダラと呼ばれたアセスは、舌打ちしながらギロリとエトラとアヤミを捉えると鞘から刀を抜く。


「おうデミ公、久方ぶりにワシを呼ぶと思えば天邪鬼にクソ蛇じゃねぇか、一人でやらせる気か?」


「当然だマダラ、その方が貴様とてやりがいがあるだろう」


「よぉくわかってるのぅ、じゃがお前さんに気を回してるヒマはねぇと一応言っておく!」


 刹那、会話の途中でアヤミが指を向けて青白い光線を放ち、それをマダラが刀を使い切り裂き霧散させ戦いの火蓋が切られる。同時にエトラが巨体を動かしてマダラへ噛みつきに行くがそれを跳躍して避けると、そのままマダラはアヤミへと向かい首を掴んで真下へと投げ飛ばす。


「スペル発動、ダークソーサリー……!」


 反転するエトラと激突寸前で翼を広げ急停止するアヤミへデミトリアがスペルを発動し、それぞれの影が形を変えて身体を締め上げ動きを封じ込める。

 そこへマダラが勢いよく刀を振り下ろしにかかるも、アヤミが指を鳴らし次の瞬間にマダラと位置を入れ替えつつスペルから脱してみせた。同時にエトラも力づくで拘束を破るとそのままマダラに牙を向き、瞬間、マダラはバシッとエトラの頭を叩き伏せて強引に止めてみせた。


「流石に前のように上手くいかないのう!」


「神獣とて生きるものである以上は成長するという事だ。だがそれは儂らとて同じ事よ、スペル発動アースブラインド!」


 マダラに答えたデミトリアが次に使うのは砂塵を巻き上げ視界を奪うアースブラインドのスペル。それによりアヤミがマダラを見失い滞空し続け、エトラは巨体を動かしながら態勢を立て直す。


 瞬間、瓢箪を開けて中身を飲んだマダラが口を膨らませると一気に水をエトラへ吹き付け、独特のその匂いから酒であるとすぐにわかり刹那にマダラが刀でエトラの角を切りつけ、その際に起きた小さな火花が起点となり酒まみれのエトラが炎に包まれ爆発に飲まれた。


「すごい……神獣二体を相手にあんなに……」


 吹き抜ける爆風に飛ばされぬようノヴァの手を掴みながらエルクリッドは驚愕し、それには自信満々にローズが当然ですと述べて視線を集めると戦う父の背中を見ながら誇らしく語る。


「誰よりもリスナーとして相応しくあろうと欠かさず切磋琢磨し、奢ることなく研鑽しながらも後進を信じ育てる事もしてきた人……私の父は、このエタリラにおいて最も誇り高きリスナーであるのですから」


 ローズことミリアは幼き頃から父デミトリアをずっと見ていた。厳しくも優しさもあり、時折見せる穏やかさも知っている。

 今もそれは変わらずにあると戦う姿を見てローズはそう思えた。十二星召筆頭として、一人のリスナーとして、紛れもなく最高の存在だと。


 刹那、デミトリアが上空を見上げるとアヤミが両手を掲げて大きな青い光の玉を作り出し、それをデミトリア目掛けて投げつける。明らかにデミトリアを狙ったそれにエルクリッド達が助けに入ろうとするが、タラゼドが手を横に伸ばして制止させた。


 瞬間、デミトリアは右手に魔力を込めると力強く踏み込むと迫る青い玉に掌底を繰り出し、命中すると共にパァンと大きな音を立てて玉が粉砕され消滅する。これには攻撃をしたアヤミ自身も目を見開いて動揺し、エルクリッド達もデミトリアの凄まじさを改めて感じ戦慄が走る。


「あれってリスナーの魔力性質で分解したって事だよね? アヤミのそれを壊すなんて……」


「だが生きる伝説って人ならできても不思議じゃねぇ……バエルとは違う、圧倒的なもんがある……!」


 リスナーの魔力の性質は分解と拡散にある。突き詰めて応用することで魔力を霧散させての魔法無効を可能とし、デミトリアがやったような魔法攻撃そのものを破る事もできる。

 当然それには相応の研鑽と、揺るがぬ自信や度胸もあってこそ。バエルの師匠筋というのも納得がいく。


 一方でマダラは火の中から飛び出すエトラが牙を剥くのに刀を立てて真っ向から受けて立ち、そのまま押されるが片手を開けて瓢箪の中身をエトラの口へと流し込みガチンと音を立てて閉じさせながら上手く躱すと、そのまま刀をエトラの頭へ突き立て地面に打ち付ける。


「デミ公!」


「灼熱の一撃、闘志を糧とし神をも屠る烈火となれ……! スペル発動、ポイントクリメイション!」


 息を合わせデミトリアが詠唱札解術でスペルを発動しマダラの刀が炎を帯びて一気にエトラの内部へと火が走る。その瞬間に一瞬膨張したエトラの頭部が爆発を起こして吹き飛び、さらにそれを利用してマダラは跳躍しアヤミのいる高さまで飛ぶと翼を切り落とし、さらに角を掴むとそのまま背後から組みつく形を取って落下し始めた。


 刹那、ローズが飛翔し薄緑の刃持つ聖剣ヴェロニカの一閃ですれ違いざまにアヤミの眼を切り裂き、それを見てエルクリッドも今がその時とウラナのカードを引き抜く。


「漆黒を游ぎ永久の陰りを引く者よ、万物を呑み込む深影より出でて姿を現せ! 日蝕泰魚にっしょくたいぎょウラナ!」


 足元に広がる影からぬうっと神獣ウラナが姿を現すとそのまま頭を上げ、それに合わせマダラがアヤミを蹴り飛ばす。同時にウラナが飛び跳ねてアヤミの身体に噛みついて半分に千切った。


 が、アヤミは半身で目を潰されても指先をエルクリッドへ向けて光線を放とうとし、それをすかさずローズが腕を切り落として阻止しさらに首を撥ね飛ばしてトドメを刺す。


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