援軍
アヤミとエトラ、そしてカードとなっているウラナとオハム、神獣が揃っている状況で残るイリアが来るのは高くなりつつあった。
神獣を総取りする、となればそれはそれでいいのかもしれないが現実はそう甘くない。身動ぎするだけで断崖を思わせる程のエトラの身体が大地を砕き、安全を確保しながら戦うというだけでも手一杯というのだから。
「風の精霊よ、その御力を我らに貸し与え風を歩む術を……」
呟くようにタラゼドが詠唱し刹那に地面が割れるのに合わせエルクリッド達が身を引くと、僅かに身体が浮いてるのに気づき文字通り空中を歩けると気づく。
「高くは飛べませんが足場に気を使わずに戦えるようにしました」
「ありがとうございます! スペル発動ウォリアーハート! シェダ!」
「助かる! ヤサカ、遠慮なく突っ込め!」
タラゼドが足場の問題を解決し、エルクリッドの支援からヤサカの攻撃へと繋がる。巨体を走り抜けて跳び上がったヤサカが手にする三日月状の刃を振り下ろし、エトラの頭に突き刺しに行く。
が、エトラは自ら頭を向けて振り抜かれる前に攻撃を受けに行き、そのまま鱗で止めるとヤサカを押し飛ばし咄嗟にシェダがプロテクションのカードを切るも、しなる尻尾が大地を削りながらヤサカを埋めた。
「っ……身体がでけえだけあってやべぇな……」
「ヤサカさんは……!?」
「問題はねぇ、が、プロテクションじゃ守り切れねぇな……」
ノヴァに冷静に答えながらシェダは左腕の痛みを感じ、舞い上がる土煙の中でヤサカが姿を現し一度シェダの前まで退く。プロテクションによる防御が間に合っていたものの、その上からでもエトラの一撃は衝撃となってヤサカを打ち抜いていた。
だらんと力なく左腕を垂らすヤサカが一度武器を手放すと、右手で強引に左腕の外れた肩を入れ直しその痛みがシェダにも伝わり一瞬苦悶の声を漏らす。
「ヤサカ、まだ行けるか」
「無論」
武器を拾い直しながら答えたヤサカが再びエトラへ挑まんと構え、シェダも応えるようにカードを抜く。
とはいえエトラは未だ能力がわからず巨大すぎる相手を倒すのは難しい。リオの方もローズがアヤミと戦い続けてるのもあり、当初の作戦はほぼ崩壊したと言っていい状況である。
(ウラナを召喚……はできればまだしたくはない、でも使わなきゃいけないのも確かだし……どうしたら……)
エルクリッドが悩む間にも時間は進みヤサカが駆け出し、エトラの身体が断崖の如く立ちはだかり行く手を阻むも駆け上がって行く。が、待ち構えてたようにエトラが鎌首をもたげながら細い歯の並ぶ口を開け、緑の煙を吐き出し一気に辺りを包み込む。
「スペル発動ユナイト! タンザ、頼む!」
毒煙と警戒し咄嗟にシェダはユナイトのカードを使い銀蛇タンザの能力をヤサカに与えて備える。防毒能力により毒煙の中でも活動可能に、と思った直後にシェダは全身焼けるような痛みに膝をつき、刹那に煙を上げながらヤサカの身体が溶解していく。
「やべぇ、ヤサカ……! 戻れ……!」
完全に溶解する前にヤサカをカードへと戻したシェダだが、エトラの吐いた煙がさらに広がるのを察してすぐに後ろへ下がりタラゼドが風の防壁を展開して防ぎ止めた。
一瞬リオもシェダの方に気を取られかけるもタラゼドが対応したのを見て目の前に集中し直し、がむしゃらに鋭い爪を振るい攻め立ててくるアヤミと戦うローズが防戦となってると気づきカードを抜く。
「スペル発動アサルトミラージュ」
ローズの姿が三つに増えて幻惑し一斉に剣を刺しに行く、と、その瞬間にアヤミはくるりと空中回転しながら躱すと背面から迫るローズの本体を捕まえ、ぐるんと勢いよく回転しながらエトラ目掛けて投げ飛ばし、反応したエトラが尻尾で叩き落としにかかる。
「ローズ! スペル発……」
「スペル発動ソリッドガード」
緑色の結界がローズを包み込み、激しい打撃音と共に守られる。しかし、リオがカード発動する前にそれは使われ、何より重厚なその声色にエルクリッド達ではないと察してリオが振り返り、ローズもまたすぐに身を引きながら地上へと戻り目を大きくする。
「デミトリア殿……!」
「お父、様……」
発動したカードを帯革の留め具を兼ねるカード入れへしまいゆっくり歩み進むは十二星召筆頭デミトリアであった。威圧感溢れ目つきも鋭く衰え知らずの彼はローズの前に来ると、フッと軽く笑みを見せてから彼女の両肩に手を置く。
「久しいなミリア。変わらず、か」
「お父様も息災ないようで……私は、わたし、は……」
今は戦いの最中で話してる暇はない、だがそれでもローズは父デミトリアと再会し感情を抑え切れず彼に身を寄せ泣きつく。
それをデミトリアも優しい手付きで撫でて応えつつ、その姿にリオも安堵し仲間達も同じように一時の安息を感じ見つめていた。
だがすぐにエトラが動きアヤミも上空であぐらをかいて上下逆さの姿勢となったのを察してデミトリアがローズを後ろへやって前へと進み、二体の神獣を前にして怯む事はもちろん昂ぶる事もなく、堂々たる態度で迎え撃つ構えを見せていた。
「デミトリア殿、あなた様が出向くという事は……」
「最悪の事態を避ける為に最適な手段を取る、その為に儂が出向いたというだけの事だ」
振り返らずにタラゼドに答えたデミトリアはエトラとアヤミを見てからエルクリッド達の状態を見抜くように下がっていろと告げ、一歩前へと進み出た。
「お前達は少し休んでいるがいい、儂が機会を作るまでは動くな」
「それじゃあたしらは……」
「手出し無用だ。十二星召としての責務を果たさぬ訳にもいかぬからな、何より、儂自身まだ隠居する身ではない……いずれお前達と相対する前に少しでも肩慣らししたいのだ」
不敵ながらも楽しげな笑みを浮かべるデミトリアは威圧感に溢れながらも、何処か親しみやすさも感じられる。生きる伝説にして十二星召筆頭、エルクリッドはちらりとローズの方に目を向けると何も言わずに頷く彼女に従い一歩下がり、デミトリアもまた二体の神獣を前に進み出た。
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