世界を喰らう者

 ホークの街から北東の平野部は村や集落のない地帯であり、そこに住む生き物も不自然な程にいない不毛地帯である。

 少し遠くに山々やホークの街がうっすらと見える程に起伏も然程ないそこは戦うのには都合が良すぎる場所と言え、歩き進む一行の中でその不自然さに最初に触れるのはノヴァだ。


「この土地は、どうしてこんなに拓けているんですか? 特に土地柄問題があるようには見えませんが……」


「かつてはこの土地にも元々町や村はあったのです。ですが神獣をはじめとする大きな争いなどで自然と淘汰され、生き物達も同様に……といった形で自然に戦場として成ったのです」


 戦場として成った場所、タラゼドの言葉を聞いてノヴァは不自然であるが自然とそうなった矛盾を理解する。


 どれだけの年数を重ねてそうなったのか、定期的に行われてるから維持されてるのか、気になる事は多々あれども今はやるべき事があると思い直し気を引き締め、タラゼドがここでいいでしょうと言ったところで一同足を止めた。


「シェダさん、手はず通りにお願いします」


「オハムのカードを使って餌を撒く、そして誘い出してから……っすね」


 タラゼドに促されながらシェダが神獣オハムのカードを引き抜き、それに合わせてエルクリッド達も警戒態勢となり身構える。


 アヤミが確実に来るかどうかというのはわからないが、誘い出す方法として神獣を使うというのを向かう中で話し合い決まった。それがオハムというのはシェダにとっては少し複雑なものもありつつ、思いを漏らす。


「俺の故郷に呪いをかけたアヤミの力をウラナで消して、それからオハムが活力を与えてくれた……今度は逆にオハムを餌にしてアヤミを誘い出すってのは、なんか変な気分っすね」


 自嘲気味な笑みを浮かべながらシェダが一歩前に出て深呼吸をし、オハムのカードへ魔力を込める。

 まずはカードを発動し土地への活力を増強させる、そうして神獣の力に反応させれば隠れ潜むアヤミが出てくる作戦だ。


「ワイルド発動、オハムの置き土産……!」


 掲げながら発動するオハムのカードから紫の光が辺りを照らし出し、みるみるうちに短い草のみが生える平野に木がいくつも生えて葉を繁らせ、草も伸びて辺りを緑で覆い尽くす。


 紫暁豊獣しぎょうほうじゅうオハムの持つ恵みを与える力の凄まじさをエルクリッド達は感じつつ、臨戦態勢となりまずはリオがアセスを呼び出す。


「翼持つ守護者よ、誇り高き名を胸に剣を掲げ降臨せよ。ローズ、お願いします」


 戦乙女ローズが聖剣ヴェロニカを引き抜きながら警戒態勢を維持し、エルクリッドもプロテクションのカードを予め抜いて支援に備えた。

 同じようにノヴァもプロテクションのカードを用意し、ジェダもオハムをカード入れへと戻し鬼兵ヤサカを呼び出しその時をまつ。


「さてこれで来るかどうか……」


 虎視眈々とアヤミが何処かから見ているというのは感じられた。いつ来てもおかしくなく緊張感が増していく。


 やがて空に亀裂が走りアヤミが姿を見せる兆候を見せた、その時であった。大地が鳴動し揺れ始め、立つことも難しくなる程のそれが状況を一変させる。

 刹那にアヤミが空間を裂き姿を現し、一気に奇襲とばかりにエルクリッド達へと急降下で迫ったその時、激しく大地の鳴動と共に巨大な何かが地面を突き破ってアヤミに激突して吹き飛ばし、真紅の鱗を持つそれが銀の角を光らせながら万物を睥睨するようにエルクリッド達を捉えていた。


「神獣エトラ……!? まさかここで……!」


「世界最大の生物にして生命を司る神獣ですか……! ツール使用フェザーシールド、ローズ、エトラに気をつけながらアヤミを!」


 姿を現した神獣エトラを前にして冷静にリオがカードを切って応えるように翼を象る盾を手にローズが飛び立ち、アヤミへ切りかかり戦闘へ突入する。かたやヤサカはエトラが巨体を動かす度に地面が隆起し危険を察してノヴァとエルクリッドを抱えてその場を離脱し、シェダやリオらも跳び退き崩壊する足場から離れた。


 最大の生命体にして世界を喰らう神獣エトラは舌をちらつかせながらエルクリッド達を捉え、ローズが勢い良く切りつける刃を鱗で受け流し軽く動くだけで押し退ける。

 その一方で空を裂いてアヤミも遅れて姿を見せ指先を向け光線をローズに向けて放ち、その姿勢を見てからローズは盾で防ぎ止めるも地上へと追いやられすぐにヤサカに抱えられ割れる大地に呑まれるのを避けられた。


「感謝しますヤサカ殿」


 感謝を伝えるローズを何も言わずにヤサカは下ろすとすぐに走り出してエトラの身体を駆け抜け、頭部を目指していく。ローズも負けじとアヤミを捉えて再び翼を広げ飛び立つとそのまま真っ直ぐ剣を突き立てにかかり、アヤミが受け止めようとした所で急停止から素早く視界より消え三眼を持つ顔を切り裂く。


 確かな手応えと紫の血飛沫にローズはすぐに離脱しアヤミの手から逃れつつも、眼を一つ切られ使えなくなった事に歯ぎしりするアヤミが鋭く睨みを飛ばしローズを敵と認識する。


(ひとまずアヤミは作戦通り……でもエトラも何とかしないと……)


 まずは一太刀浴びせた事でアヤミの敵対心を煽って逃げられないようになりはしたが、エトラという動くだけで影響をもたらす存在がいる事は警戒せねばならない。


 またエルクリッドは自身の身に宿る火の夢エルドリックの力も神獣は敵対視する。今は制御しきれてるのもあってか問題はなさそうだが、考慮しなければならない材料だ。

 そして今この場に四体の神獣が集まってるとなれば、残るイリアが来てもおかしくはないと。


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