神獣への備え
ホークの街に突如として現れた神獣アヤミによる被害は迅速な対応もあり死亡者はなく、怪我人も軽傷で建物等の被害も最小限に留められた。
何故かの神獣は現れたのか、その答えを翌日メビウスの屋敷へエルクリッド達は赴き、応接間に通され待っていたメビウスとルナールから伝えられるのはアヤミという神獣について情報を受ける。
「アヤミは少し変わった性格をしていてね、一度交戦した相手を覚えて再び襲ってくる事があるんだ。報告によれば君達は一度アヤミとやりあったということだから、その可能性は高い」
火の国サラマンカにて遭遇したアヤミを十二星召カラードの協力もあり退けたエルクリッド達だったが、倒し切れなかったことが響くとは予想はしていなかった。
逆の見方をすれば神獣と相対する事で挑戦権の獲得、ひいてはアヤミの獲得を狙える。前回の戦いで能力を把握できてる事もあり現実的な可能性ではあるが、懸念材料はエルクリッドがまだアセス達が召喚不能という点のみ。
それらを踏まえて一行を代表するようにタラゼドがメビウスと言葉を交わす。
「では、アヤミを制してからお二人のどちらかに挑戦する……という事でよろしいでしょうか?」
「その解釈でいいよ。形式的にはアヤミの件を他の者達がしている試練とする、ということになるね」
「わかりました、では誘い出すならば北東の平野にて。あそこなら戦いの余波の心配もありませんからね」
とんとん拍子で話が進みアヤミとの戦い、その先に待ち受ける十二星召との戦いまで話がつく。
ルナールとはエルクリッド達も以前腕試しした事もあるがメビウスは未知数、しかしあっさりアヤミを退かせたというのは間違いない事実だ。
(この二人のどっちとやるにしても、ちゃんと準備してからでないとね……そして師匠も……)
かたや国盗り物語の大罪人ルナール、かたやそれを阻止した英傑の一人メビウス、どちらも確かな強さを持つ。そして十二星召筆頭デミトリアとエルクリッドの師クロスもいる。
神獣を制するのは彼らへ勝つ自信と強さを身につける最低条件と思うとより気持ちは強くなり、エルクリッド達の肩に自然と力が入るとそれを察してかメビウスがニコッと穏やかに微笑みながら勇まなくていいよと告げ、実力者でありながら威圧感の全くない包むような優しさに緊張がほぐされた。
「危なくなったら無理をせず戻ってきなさい。いくら強くなろうとも生命は一つだからね」
「メビウスさん……ありがとう、ございます」
強くなろうとも生命は一つ、優しくもその言葉は礼を述べるエルクリッドに重くのしかかり、それはシェダやリオらも感じた。同時に冷静になれたことでまずやるべきこと、その為に必要なものとを考えられ話も進んでいく。
「前回の分析を踏まえた作戦を練るとして、エルクリッドには支援をしてもらう形が良いでしょうね」
「でもあたしはウラナが……あるけどぶっつけ本番は流石に、ですよね」
リオに意見しかけたがすぐにエルクリッドは引き、ウラナというカードの力を思い返す。全てを飲み込み喰らう影の神獣ウラナは全てを逆転させ流転させる天邪鬼たるアヤミには有利とはいえ、その力の特性は味方を巻き込む可能性も高い。
実際ウラナを使ったシェダもその事に触れつつ、作戦の流れを口にする。
「ウラナの力自体はアヤミを倒すんなら必要になるとして、頃合い見計らうなら後出しのがやりやすいだろうしな。俺とリオさんで戦いつつエルクリッドに支援してもらって、状況次第でウラナを……って感じでいいんじゃねぇか」
「とりあえずそれで、だね。あとはカードの確認して、なるように、かな」
一通り話がまとまりエルクリッド達が席を立つと、あぁ、とメビウスが思い出すように口にして立ち上がろうとし、しかし椅子にふくよかな身体がはまったのか立てず、仕方なくそのままで苦笑いしながらある事を伝えた。
「此度の件を受けてデミトリアが向かっていると今朝連絡があったんだ」
「デミトリア殿が……!?」
「元々は君達、特にバエルを倒したエルクリッドくんの顔を見に来るという話をしていたんだ。彼の手を借りずとも今の君達ならばアヤミを制する事はできるだろうが……まぁ、頭の片隅に入れておいてよ」
十二星召筆頭デミトリアが出向くというのにはタラゼドも目を大きくしつつ、その理由を聞いて少し落ち着きを取り戻す。
とはいえエルクリッド達が援軍という認識をする中で、タラゼドは一人眼鏡を光らせつつ懸念を懐く。
(神獣がもう一体来る可能性もある……? ならばデミトリア殿が出てくるのも不思議ではありませんが……)
今、アヤミを除いてカード化していない神獣は
そうなれば恐らく難しい戦いになる、デミトリアが出向くのも致し方無しと予感しながら一人タラゼドは思いを秘め、メビウスに小さく頭を下げるのだった。
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