終結し、先へ

 裂けた口を開け形容し難い雄叫びを上げながらアヤミの身体が青い光となりながらカードへと変わっていき、やがてそれがひらりと宙を舞うのをローズが回収しリオの前へと降り立ち、マダラも地響きと共に着地すると刀を鞘に収めつつローズを見て不敵に笑う。


「誰かと思えばミリアじゃあねぇか、だいぶ変わっ……てもねぇな」


「マダラ様も相変わらずの腕前のようで何よりです」


 微笑むローズの横顔は今まで見たことがない程に穏やかで優しげなのにリオも安堵する。無理矢理戦乙女へと改造され二度と戻れない身体となってしまった彼女が父や旧友と再会する事は、寂しさもあれど喜びなのは間違いないから。


 それを見ていたエルクリッドもほっこりとしていると、ずいっと目の前にウラナがやって来てつんっと鼻先で軽く触れ、褒めろと言わんとしてる様子に苦笑しつつそっと撫でてやる。


「ウラナもありがと。えと、その、あたしともう少しいてくれるかな?」


 問いかけに応えるようにウラナは自らカードとなってエルクリッドの手の中へと舞い戻り、所有者として認めてくれたのを感じながらカード入れへと戻す。


 と、デミトリアが未だ臨戦態勢でいる事にエルクリッド達は気がつき、その視線の先に頭部を失ってピクリとも動かないエトラがいた。


「マダラ」


「あぁわかっとるわい、あの程度で死ぬクソ蛇じゃあねぇ」


 マダラが振り向くと同時にエトラの身体が脈打ち、頭部を失い煙を上げていた首から新たな頭が生え牙を剥いて威嚇する。


 頭を失った状態から復活した事に戦慄が走ったものの、デミトリアが狼狽えるなと言って混乱を治めながら尾錠のカード入れへ手をかけながら語り始めた。


「エトラが司るのは生命そのもの、己の死すらも生へと変え生あるものへ死を与える事もできる。倒し切るには奴の生命を上回るだけの破壊をもって打ち砕くか、オハムの力をもって生命の氾濫を招くしかない」


 不死の神獣たるエトラの話を聞いてシェダがオハムのカードを引き抜くと、エトラが少し身を引きデミトリアも気づいてシェダの方に向いて持っていたのかと言うと再び前へと目を向け直す。


 いざシェダがオハムのカードへ魔力を込め始めるとエトラが巨体をしならせて大地を揺らし、素早く潜行し始め地鳴りと共に姿を消した。

 アヤミの時と同じようにこれ以上の戦いは無意味と悟ったとエルクリッド達は受け取り、エトラの気配が完全に消え去るとデミトリアもマダラをカードへ戻し、ご苦労と声をかけてからカード入れへと戻し肩の力を抜いてエルクリッド達の方へ振り返る。


「ひとまずはこれで問題なかろう、イリアが出てくる前に終わらせておきたかったからな」


「イリアが……それじゃあ近くに!?」


「流石に近くまで来ていればすぐさまウラナとオハムが実体化していたであろうが、杞憂に終わったらしい」


 前のめり気味に問うノヴァを見下ろしながらデミトリアが答え、イリアがいないのを周囲を見回して示す。


 気持ちを落ち着かせたノヴァは改めて十二星召筆頭デミトリアというリスナーの名に恥じぬ実力を体感し、それはエルクリッド達もまた感じるものだ。召喚したマダラの強さや判断力もさることながら、それで二体の神獣を相手に渡り合ったのは凄まじいの一言に尽きる。

 そしてそんな彼の考えを咄嗟に読み取って行動したローズは手に持つアヤミのカードを見つめ、それからリオへと差し出すも彼女はすぐに取らず受け取れとデミトリアに促されてから手にとった。


「神獣アヤミ、私が持つには……」


「アヤミを放っておくよりは所在がわかっている方が良い、何より神獣を使うかどうかはリスナー次第……というのは言うまでもなかろう」


 確かに、と思ったリオはデミトリアの言葉を受け取って頭を下げてからカード入れへアヤミのカードを収め、それをもって一段落がついたのを見計らいローズが兜を外し姿を見せてデミトリアの前に立つ。


「お父様、私は……」


「以前会って話した時に述べた通りだ、お前はお前の道を進めば良い。それが孝行になると……お前が生きてくれてた事で、十分だと」


 厳格さの中に穏やかさをデミトリアは見せてローズに答え、それを受けてローズはありがとうございますと返してから兜を被りカードへと戻った。


 半年前の一件が済んでからリオはデミトリアと面会しローズと再会させ話は済んでいる。同時に今回彼が来たのは娘を守る意味合いもあったのではと思うも、それは胸に秘めてリオはローズをしまって小さく息をつく。


「次は……小娘、お前だな」


 ローズとの話を終えたデミトリアがエルクリッドの方に向き、背筋を伸ばす彼女を見てフッと笑う。


「バエルに勝ったと聞いたが……これで奴が負けたのは三人という事か」


「えと、あたしと、デミトリア様と、あとはクロス師匠……ですよね?」


 その通りだと緊張気味に答えたエルクリッドにデミトリアは返すと、空を見上げかつての日々を思い返す。

 師として幾度もバエルを叩きのめしたこと、彼がそれからさらなる成長を遂げたこと、そんな彼に土をつけたクロスという新たな強者が現れた事を。そして今、新たな強きリスナーが現れたこと。


「して、お前はバエルに勝って何とする? 五曜のリスナーとなるだけならば、奴に勝ったという事実だけでも十分推薦できるが……そういう目ではないな」


 デミトリアを見上げるエルクリッドは緊張こそあれども強い意思を目に宿す。真っ直ぐに未来へ進むような強い思い、バエルに勝つという目的を果たしてそれが終わりではないという、その思いが言葉として表れる。


「あたしは、十二星召全員に勝ちます。バエルに勝って、その先まで行って……リスナーとして何ができるのか、あたしの力の事とか、答えを見つけたいです」


 望まぬ力を持って生まれ知らずの内に渦中にいた。それらを乗り越え、自分の目標を果たしてから思うものもある。


 快活に話すエルクリッドの表情に暗さはなく、そっと手を握るノヴァの手を握り返しながら笑みを浮かべデミトリアもそうかと答え踵を返す。


「リスナーならば極限まで道を進む事で道が切り開けるだろう。儂がかつてそうしたように、先人達や後の者達もそうしたようにな……戦いの時を楽しみにして待っているぞ、エルクリッド・アリスターよ」


「はい! ありがとうございます!」


 深々と頭を下げながら感謝を述べたエルクリッドに見送られデミトリアが雄々しく立ち去り、ノヴァも頭を下げて見送る。

 

 エルクリッドにはノヴァにリスナーとしての模範を示すという依頼がまだ残っている、そして神獣イリアを獲得するという依頼も。

 まだまだやる事は多くその為の備えなども必要で、それは一人だけでやれる事もあれば仲間の力もまた必要なのも。


「さて、メビウス殿の所へ戻りましょうか」


 タラゼドが転移魔法の準備をしつつそう告げ、エルクリッド達も頷き役割を果たし終えたのを実感する。

 無論これが終わりではなく、新たな始まりとなり先へ向かう一つに過ぎないとも理解しつつ転移魔法の光の中へと消えていくのだった。




To the next story……

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星彩の召喚札師ⅩⅢ くいんもわ @quin-mowa

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