天邪鬼再び
パチっとエルクリッドが目を開け上体を起こすと夕暮れの日が部屋に射し込み、椅子に座っていたリオがおはようございますと声をかけたのにあくび混じりにおはようございますと返す。
「あれ? ノヴァはまだ戻ってないんですか?」
「大方、風の国の特産品等の珍しさにはしゃいでいるのかもしれません。シェダとタラゼド殿がついてるので心配はないと思いますが」
まだノヴァ達が戻ってないのを聞いてからエルクリッドは少し乱れた髪と服を整えて起き上がり、ひとまず身体を伸ばし少しは疲れも取れたのを確認する。無論、アセス達の回復はまだまだかかる為に戦う事はできない。
と思ったが、そういえばとエルクリッドはバエルから渡された神獣ウラナがあるのを思い出し、目を瞑り対話を試みる。真っ暗な水の底とも言うべき場所を大きな何かが泳ぎ、不意に闇の中で橙色の模様が明滅し存在を示す。
(一応は、認めてくれてる……のかな?)
光が消えエルクリッドも目を開けて深呼吸をし、カード入れからウラナのカードを引き抜き見つめる。
召喚自体は問題なくできるようだが上手く力を合わせられるかはわからない。もっとも、こうして街にいる以上は余程の事がなければ戦いとはならないだろうとはエルクリッドは思い、カードをしまって軽く腕を上へ伸ばし息をつく。
「とりあえずあたしらは先にご飯にします?」
「夕食には少し早いですが、待つついでにはなるかもしれませんね」
机の上に置かれていたカード入れを手にとって立って腰につけながらリオが答え、エルクリッドも頷き共に部屋を出た。その時、びりっと走る空気の振動の如き気配に二人が窓の方へばっと振り返る。
夕暮れの太陽が影に覆われ闇へ閉ざされていき、同時にビシッと音を立てて夕焼けの空に亀裂が走り空を裂きぬうっと姿を現すは蒼白の天邪鬼・
突然の神獣の出現に街を行く人々が目を奪われ足を止め、刹那にアヤミが手を振り青い炎を降らせ触れたものを焼き払うと時間が動き出すように惨劇の幕が上がる。
「アヤミ!? どうしてここに……!」
神獣は不意に現れるとはいえその活動そのものは常に監視され、街に近づく前に十二星召が対応するもの。
無論完全とはいかず不意に現れるというのもあるが、ホークの街の空をゆっくり飛びながら青い炎を撒き散らすアヤミは眼下を見下ろし何かを探しているように見えた。
逃げ惑う人々の合間を縫うように街にいたリスナー達がアセスを召喚し一斉に挑みにかかるも、用はないとばかりにアヤミに叩き落とされ撃墜される。
力の差は歴然だがアヤミが動きを止め注意がリスナー達に向いた事で避難誘導も進み始め、役割分担が構築されていく。エルクリッドとリオも部屋を飛び出して街へと躍り出て臨戦態勢となるが、アセスがまだ戦えないエルクリッドはウラナを召喚するかを悩みリオが気づき制止をかけた。
「まだウラナは出さないでください。まだ人々の避難も完了していませんし、メビウス殿がもうじき……」
リオがカードを引き抜き魔力を込めながら話していたその時、アヤミの上空より金色の翼を広げる魔物が迫りそれに気づいたアヤミが素早く身を翻す。
しなやかで強靭な馬の如き四肢と獰猛なる翼と爪と嘴を持つ鷲の身体を持つその魔物はヒポグリフ。攻撃を避けられてもすかさず後ろ足でアヤミを蹴り上げて空へと追いやり、その下で倒れるリスナー達の所にメビウスもルナールを伴い姿を見せる。
「メビウス、ワシも手を貸すか?」
「それには及ばないよルナール。アヤミ程度ならわたしとハスラーだけで十分……それに倒すにしても場所が悪いからね」
そうか、とルナールがとんっと一歩下がるとメビウスが右の腰につけるカード入れに手をかけ、ヒポグリフのハスラーも空気が震える程の甲高い咆哮でアヤミを威嚇し天を駆けて攻めに行く。
刹那、ばっと布で身体を隠すように空を引っ張りアヤミが姿を消し、構わずハスラーがいた場所を前足の爪で切り裂くと同時に太陽の影が消え元の夕日が戻る。
しばしハスラーが周囲を警戒しながら滞空しメビウスも同じようにカード入れから手を離さなかったが、アヤミが去ったのを確認するとメビウスは肩の力を抜き、ハスラーも地上に下りてアヤミによりつけられた火を翼で巻き起こす砂塵でかき消していく。
「退いたようだの、しかし……」
「うん、どうして現れたのかを調べないとね。でもまずは被害状況の確認と怪我人の手当救助が先だ」
ルナールにメビウスが答えているとそこへエルクリッドとリオが駆けつけ、その姿を見てルナールがふむと顎に手を当てながら目を細めた。
「メビウス、どうやら答えが来たようだの」
「へっ? なんの事です?」
「まぁ良い、明日にでも屋敷に来い。それで良いな、メビウス」
そうだね、とルナールが進めた話を聞きながら周りに駆けつける風の国の騎士達にメビウスが答え、なんの事かわからないエルクリッドは首を傾げリオもひとまず戦わずに済んだことを案じながらも、厄介事の気配を察してため息を漏らす。
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