神獣遊戯ーTargetー

風の公爵

 狙いを定める。


 目標を定める。


 決めればそこへまっしぐら。


 決めても寄り道してもいい。


 神々は戯れる。


 神々は遊ぶ。


 世界という名の盤面を己の力で揺り動かし、遊戯を堪能する。



ーー


 風の国シルファスの中央部ホークの街は同国の中枢を担う機関が揃いエタリラの大都市の一つである。

 シルファスという国は向かうまでの道程が困難も多いがそれに見合うだけのものが得られ、求め、取引し、商いをする為に人々は集まり街は賑わう。


 そんな街の賑やかさの中心部にその屋敷は存在する。シルファス公爵にして十二星召メビウス・フェルザーの屋敷は堂々とその場所に建ち、その周辺は自由に解放された場所である為多くの露店が立ち並ぶ。

 屋敷二階の窓から街の様子を見てうんうんと頷く穏やかなる公爵メビウスはそっと窓を閉めると、机の上に足を乗せ退屈そうに十二星召ルナールが椅子に座りあくびをしていた。


「暇だのう、誰一人ワシらに挑みに来ようとせんとはの……腑抜けが増えたな」


「無理もない、君は十二星召でもあるが生きる伝説でもあるからね。もちろんこのわたしもデミトリアと同じ時代を生きた者として知られているから……ゆっくり挑戦者を待てばいい」


「とは言ってものう……ん?」


 ため息混じりに話していたルナールが何かを感じて机から足を下ろしてスッと立ち上がり、同じく察したメビウスも微笑みながら来たようだねと言って椅子にかけていた上衣を取って袖を通し、一足先にルナールが階段を飛び降りていくのを見てふふっと笑う。


 メビウスの屋敷の玄関に淡い青の光を放つ魔法陣が現れ、鮮明になるにつれて陣の中にエルクリッド達が姿を見せるのをルナールが見守り、やがて光が消えて完全に現れた時にはメビウスもやって来て一行を出迎える。


「やぁ、久しぶりだね君達」


「連絡なしの来訪となった事をお詫び申し上げます」


「構わないさ。ちょうどルナールも退屈していたからね」


 頭を軽く下げるタラゼドとメビウスが会話してる間にルナールはすっと前へ進み、ずいっとエルクリッドの前に来てじっと見つめたじろがせるとなるほどと言って一歩引く。


熒惑けいこくのリスナーに勝ったようだの」


「えぇっと、はい、一応……」


 報告する前に言い当てられて少し驚きながらもエルクリッドは身体を小さくしながら答え、それを聞いてメビウスも目を大きくしふくよかな身体をぶるっと震わせ驚きを隠せない様子だった。


「バエルに……!?」


「えぇと、はい、ぎりぎりでしたけど」


 謙遜気味にエルクリッドが答えるとさらにメビウスは身を震わせ、しかしすぐにニコッと笑顔を見せそうだったのかと言いうんうんと頷きながら一歩前へ進む。


「詳しい話も聞きたいし、これからの事もあってここに来たのだと推測もついた。奥で話を聞かせてくれないか、良いお茶を用意するよ」



ーー


 きらびやかでありながらも優しい雰囲気に包まれたメビウスの屋敷の食堂に長机を囲み、エルクリッドは仲間達に見守られる中でバエルとの戦いや彼と話した事をメビウスに話し、相槌を打ちながら聞く彼の隣に座るルナールも髪先を指に絡ませ遊びながら聞き目を細めていた。


「……って感じです。なのであたしの次の目標は、残りの十二星召四人に勝つこと、です」


「ほう? ワシも随分甘く見られたものよのぉ……」


「エェト、ハイ、ジブンデモチョウシノリスギトオモイマス……」


 ルナールに見つめられエルクリッドが身を縮め込みながら小声で答え、その反応には冗談じゃとルナールもクスクス笑いながら返しメビウスも穏やかに微笑む。


「バエルはずっと自分に勝てるリスナーを、我々以外の新たな実力者をずっと待っていたからね。それが君というのは中々面白い話ではあるが……ふふっ、デミトリアが聞いたら喜びそうだね」


「だろうな、あやつが一番バエルの事を憂いてたからのう……あぁ、あとはクロスとかいうのもそうだったか」


 両手を机の上に置いて話すメビウスは以前と変わらず穏やかながら言葉には芯があり、飄々とするルナールもまたそこは同じ。


 バエルの敗北を受けて喜びとも取れるメビウスの様子には少しエルクリッドは意外にも感じるが、それは彼がバエル以上の実力者たる者だからと思ってしまう。


(強そうには見えないんだけどね……でも、油断ならない人なのも間違い無い)


 十二星召筆頭デミトリアの盟友にして彼と共にルナールの国盗りを阻止したリスナー・メビウス、確かな実績はあれどあまりにも穏やかすぎるのは初めて会う者を困惑させる。

 だが同じように世界的見て屈指の実力を持つタラゼドも似たものとエルクリッドは思うと気が引き締まり、それはシェダやリオも同様だ。


「ところで……見たところエルクリッドくんはまだアセスが戦える状態ではなく、他の二人も挑戦権稼ぎの必要がある感じかな?」


「えぇ、ひとまずこの街を拠点として活動するという話でこちらに顔を出した次第です」


「ふむふむ、では宿の方は手配しておくよ、バエルを倒した優秀なリスナーには敬意を払うべしとデミトリアならば言って同じ事をするだろうからね」


 タラゼドの返答を受けてメビウスが穏やかに話を進め、ありがとうございますとノヴァが代表して礼を述べる。


 エルクリッドはアセスの回復を待ち、シェダとリオは挑戦権獲得の為の戦いをこなす。風の国シルファス、多くの英傑を輩出してきたエタリラ北部の国で、生きる伝説達と戦う為に。


 

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