あと一体
片腕のサターンに掴まれたセレッタが身体を液化させて逃れるものの、すぐにサターンは魔法を用いて岩塊を出現させ逃げ場奪いつつ面を制圧してくる。
だがセレッタも液化した状態で魔法を操り螺旋状の水流を四方から放ってサターンを狙い、しかしそれらをサターンは全身に力を込めて受け切り全身から放つ魔力で吹き飛ばす。
数多の戦いを経て百戦錬磨そのものたるサターンはマーズの前に立ちはだかる最大の障害にして門番たる存在といえ、それを越えれば残るは一体のみまでと言えた。
(あたし達、渡りあえてる……強く、なれた……)
全く敵わない時がウソのように今は戦えている。アセス達が確実に強くなってきたこと、心の弱さと強さを知ったこと、技を磨き上げ力を使えるようになったこと、それらが今形になろうとしているとエルクリッドは感じつつも深呼吸をしカードを抜く。
「スペル発動ビーストハート、決めに行くよセレッタ!」
「仰せの通りに……!」
スペルを受けたセレッタが水の衣を纏い姿を変え、刹那に蹄と衣から噴き出す水が水竜を象りサターンへと牙を剥かせ迫る。これまでよりも大きい水竜にサターンも地面を殴りつけて岩石の竜を作り壁とし、二匹の竜が組合ってる間にバエルもまたカードを抜きセレッタとサターンは互いに相手を捉えながら移動し相対した。
「ツール使用スペクタースナッチャー……逃さず倒して来い」
「御意」
白銀の爪を装着したサターンがバエルに答えると共に翼を広げ、刹那にセレッタの側面に姿を現す。瞬間移動とも思えるその速さにセレッタは身を翻すも爪の一閃で左目を裂かれ、エルクリッドも反射で瞼が傷つき血が流れた。
いつもならここでセレッタはエルクリッドを案じるが、彼女の強い思いがそれを止めさせ水の腕でサターンの身体を捉えると一気に砕きかかる。
が、サターンも力づくで脱した事で右翼と左足を砕くに留まり、刹那に跳んだセレッタが水を纏う蹄でサターンの背後に回り込み後ろ足で蹴り上げ直接水魔法を体内へと叩き込む。
完璧な動きからの強烈な一撃にサターンの身体が水を溢れさせながら亀裂を走らせていき、やがて砕け始める。が、単眼を光らせたサターンが全身を使って取れかけた右腕をセレッタに向かって飛ばし、それが胸に深く突き刺さり刹那に弾け炸裂しセレッタに深手を負わせた。
「僕とした事が……! ですが、あの時の借りは返させて貰いましたよ……」
崩れ落ちるセレッタが最後に勝ち誇りながらその身をカードへと戻しエルクリッドの手元へ戻り、サターンもまた完全に砕け散るとバエルの手元へカードが戻る。
最初の戦いでセレッタは何もできず一撃でサターンに倒された事もあってか思いが強かったのはエルクリッドも理解し、カードを見つめつつ胸から地を流し服に滲むのを感じつつ優しくしまう。
(お姉様)
(大丈夫、魔力はさっき回復したしこのくらいの傷ならすぐ治るから)
語りかけてくるアスタルテにエルクリッドが答え深呼吸をし、自然と傷は塞がり超回復力とでもいうべき自分のそれを再認識する。
望んで得たわけではない、だがそれもまた己の力と思えば向き合え、そしてそれらがあろうと勝てるかは別とも思えた。だからこそ強くなりたいと願える、正しく使おうと、そうしたものがようやく実り頂に届き最後の戦いに辿り着けたのだと。
「これで、あたしはあと一体……あなたも同じだけど、ウラナを使うなら……」
エルクリッドがそう口にしてる間にバエルがウラナのカードを引き抜いて確認させ、それを戦いを見守っているノヴァへと投げ渡し受け取らせる。
これで条件は同じ、と応えたのにエルクリッドは笑みを浮かべつつ最後の一枚、ヒレイのカードをゆっくりと引き抜き、バエルもまたマーズのカードを引き抜く。
「……ここまで追い詰められたのはあの男との戦い以来、か。その弟子がこうして因縁を持ち、同じように追い詰めるのは因果というのを思わざるを得ないな」
「そうかもね、でも、あたしはあたしの意思でここに来た、ここまで来た」
「それがわかっているならいい、自分が選んだ道は誰のものでもない……その結果の良し悪し関係なく、背負っていくものは己のものとなる、からな」
ここに来てエルクリッドはバエルが五曜のリスナー最後の一人でもなく、
常に厳しい姿勢で自他に向き合う彼が戦いの中で追い込まれた事でそうなった、いや、ようやく腹を割って話せる相手と認めたからとエルクリッドは理解しつつ、魔力を滾らせながら髪色を黒混じりのものへ変え瞳孔を細くし全ての力と思いをヒレイのカードへ込める。
「赤き流星よ、願いを明日へ繋ぐ希となって光輝け! 一緒に行くよ、
赤き光が炎となりやがて外骨格となって真白の鱗持つヒレイの身に装着されるようにその姿を現す。
真化を果たし確かな強さを感じさせるヒレイと、真っ直ぐ前を見据えるエルクリッドの確かなものをバエルは感じつつ、自身も最後のアセスを呼ぶ。
「
漆黒の大炎がカードを掲げたバエルの背後で燃え上がり、それを裂いて紅蓮の麗しくも万物を睥睨せし
相対した二匹の火竜の存在感だけで圧倒される中に二人のリスナーは臆する事なく佇み、それ見つめながらタラゼドがノヴァ達に下がるよう伝えた。
「離れておきましょう、お二人が満足に戦うには我々へ配慮してる余裕はないでしょうから」
「っすね……どっちが勝ってもおかしくねぇ……」
「バエルの高等術ディバイダーがマーズの全力を出す布石ならば、ここからはより激しくなります、ね」
全力の戦いに傍観者は不要なのは間違いなく、それでもいる事の意味を噛み締めながらシェダ、リオとそれぞれ言葉を漏らし手を強く握るノヴァは何も言わずエルクリッドに目を向け大きく頭を下げてから走って距離をとった。
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