剣乱れ魔穿つ激流

「スペルブレイク、エナジーフォース!」


 エルクリッドのスペルブレイク発動にアセスを召喚しかけたバエルの手が止まる。足元から頭の上へ螺旋を描くように赤青二色の光球がエルクリッドの周囲を飛んで消え、彼女の魔力を回復させ継続力を高めた。


(召喚する瞬間で魔力を補給する、か……読みは正しいな)


 アセスを召喚する瞬間はリスナーは他のカードを併用できず、事前に使うか召喚後に即使用しておく。エルクリッドが集中力を切らさず己の状態を理解していること、その上で勝つ算段を考えていること、それらはバエルにとって一人のリスナーとして迎え撃つに相応しい。


 小さく口元に笑みを浮かべてからバエルは改めて二枚のカードへ魔力を込め、エルクリッドとスパーダも身構え受けて立つ姿勢をとった。


「デュオサモン……いけ、サターン、プルート」


 黒鉄を思わせる重厚なる鎧を思わせる岩の身体を持つガーゴイルのサターンが召喚と同時に石の翼を広げ一気にスパーダへ迫り、素早く拳を突き出し大剣で防ぎ止められながらも押し切りスパーダをのけぞらせる。

 瞬間、スパーダの足下に炎が円を描いて火柱となって一気に燃え上がり、エルクリッドが咄嗟にプロテクションのカードを発動するも間に合わず紅蓮の炎が弾け飛ぶ。


 と、炎の中から黄金の風が吹いて鎧を焦がしたスパーダが姿を現し、ひとまず無事な事にエルクリッドは安堵しつつバエルのすぐ前に佇む漆黒のローブに身を包む骨と皮だけの魔法使いを捉えた。


「ヒェッヒェッヒェッ、このプルートの魔法を受けて健在とは……流石は熒惑けいこくのリスナーが認めたリスナーとアセスだけはあるかの」


「認めるかどうかはこの勝敗が決してからだ。あの程度の攻撃はいなせて当然……」


 そうか、と不気味に笑いながらプルートがバエルに返すとサターンが隣に降り立ってスパーダを捉え、少しよろめくスパーダもまた大剣を構えて相手を捉え攻撃態勢へ。


(サターンは魔法攻撃も行える上に能力そのものもかなりのもの、プルートという魔法使いもかなりの使い手……どうしますか、エルク)


(接近戦はサターン、遠距離はプルートって感じで役割分担しながら仕掛けてくると思う。でも倒した所でバエルの消耗がほとんどないから、大技で無理に反射を狙わなくていいのは幸い……かな)


 ここまでの戦いでバエルはアセスを倒されても反射をほとんど受けていない。そして魔力も撃破数に対して消耗が少なかった。

 その謎はエルクリッドにはまだわからないが、逆にリスナー自身を狙うような立ち回りをしなくて良いと判断しスパーダも静かに頷く。無論、スパーダの方は霊体が負傷すれば反射がエルクリッドに行くため、気をつけねばならないのだが。


 一瞬の間を置きスパーダが大剣を軽々しく振るい大地を切り裂き、衝撃と土煙とでまずは視界と動きを軽く塞ぎ攻めに出た。サターンは動じる事なく一歩一歩ゆっくり前へと歩き進み、プルートは自身を守るように真白の結界を張りながら上空に氷柱を作り出し振り下ろす手の動きに合わせそれをスパーダのいた辺りへ降らす。


 その刹那に土煙から飛び出したスパーダが現れ、そのままプルートへ向かわんとするがサターンが回り込み行く手を阻むと掌底の一撃を食らわせる。

 直撃こそ避けたがスパーダの左肩の鎧が吹き飛び肩より下ももげてしまうが、素早くスパーダが大剣を突き出しサターンを刺し貫く。が、白刃取りで止めて身動きを封じ込め、そこへプルートがすかさず両手を波打たせるような動きと共に岩塊を浮かせ、一気にスパーダ目掛けて放ち直前にサターンが離脱して命中させた。


「ヒョッ、大した事なかったのう」


 舞い上がる土煙が晴れて岩に押し潰された金色の鎧が粉砕されている様を現しプルートが不敵に笑うが、サターンは上空に目を向け鎧から離脱し剣を手にし飛び越えていく霊体のスパーダ捉える。


「スペル発動ウォリアーハート! スパーダさん!」


「捉えた……!」


 ウォリアーハートの後押しを受けたスパーダの太刀筋が油断しきっていたプルートを両断、したかに見えたが、覚えのある感覚を察してすぐにスパーダが距離を取るも後ろからサターンに頭を掴まれそのまま強く締められながら持ち上げられてしまう。


「迂闊だな、幽霊騎士スペクターナイトが媒体とする鎧から離脱する戦術をするのは読めている」


(プロテクション……! そう上手くはいかない、か……!)


 バエルの後方まで押し退けられたサターンを薄い青の膜が保護してるのをエルクリッドは確認しながら頭を締め上げられるスパーダの苦痛を共有し、刹那にサターンは地面へとスパーダを叩きつけ剣を手放させる。

 が、すぐに掴み直され手を踏み潰すも決して離そうとせず、次の瞬間に絹を裂くように腕を千切ったスパーダが凛とした顔つきでサターンの左腕に片腕を絡ませ、ふっと笑う。


「片腕は、もらっていきますよ……!」


 頑強な岩の腕をサターンが力を込め切る前にスパーダは全身全霊を込めた絞め技でへし折って見せ、刹那にサターンの貫手が彼女の胸を貫き通す。


 霧散して消えていくスパーダがカードとなってエルクリッドの元へ戻り、強烈な痛みを感じながらもカードを拾い上げすぐに次のアセスをエルクリッドは呼ぶ。


「ありがとうスパーダさん。さぁ、仕事の時間だよセレッタ!」


 快活な声に招かれ青の水流と共に凛々しく戦場へ水馬ケルピーセレッタが姿を見せ、降り立つと同時に蹄から水を噴き出し辺り一面を水浸しとするとそのまま水を操り高波で一気に攻めに出た。

 高く広く迫る波にサターンは折られた左腕を波へと投げて炸裂させて穴を作ってそこへ向かって飛んで通り抜け、プルートは両手を上げ作り出した太陽の如き大火球を奇声と共に投げつけ相殺させ水蒸気が辺りを包み込む。


「スペル発動、サンダーチェーン」


 視界が消えた中でバエルのカードが発動され紫電の鎖がいくつもセレッタへと迫り、それを水の上を滑るように疾駆しセレッタが避けるのにサターンがいくつも岩を隆起させ行く手を阻みにかかる。


 だがそれをセレッタは華麗に舞うような動きと共に全て避け切り、やがてサンダーチェーンの効果が切れると同時にプルートが両手を開き電撃を放つと立ち止まって受ける姿勢をとった。


「エルクリッド!」


「うん! スペル発動ゴーストップチェック!」


 刹那にサターンとセレッタの位置が入れ替わってプルートの電撃がサターンに直撃し、その身体にヒビを走らせバエルも舌打ちをしながらもエルクリッドに目を向け、確実に追い込んで来ている彼女達の実力を認識し直すのだった。

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