改めて思い
同士討ちを誘発された事でサターンはその身体にヒビを走らせたが、すぐに小さな傷は塞がっていきまプルートも申し訳なさげにサターンに淡い緑の光を浴びせていく。
「すまないなぁサターンよ、詫びとしてはこのくらいしかできぬが……」
「……構わん」
最低限の一言だけを返し武人たる振る舞いをするサターンが前へ出てセレッタを捉え、二年半前に一瞬で倒した時より格段に強くなっているのを感じ取った。
エルクリッドとバエルの初めての戦いにおいて、サターンは召喚され当時のエルクリッドのアセスを全て一人でねじ伏せてみせた。それ故か彼らの悔しさをバネとした思いの強さ、それを原動力とし己のものとした実力に強いものを感じ、バエルにもそれは伝わる。
「かつての時より、強くなったと認めざるを得ないな。エルクリッド・アリスター……その身に宿る忌むべき力を考慮したとしても、かつての星の儀に挑んだ者達を彷彿させる」
「星の儀……?」
「“星の残光は願いを乗せる、強き祈りの言霊を詠え、星へ導き願い星を耀かせよ、さすれば流れる星に届くであろう”……星の詩に従い、創造神クレスティアに認められた者だけがリデルとなる。かつてデミトリア様と、クロスがそこに至った」
バエルが語った星の詩はエルクリッドも、戦いを見守るノヴァ達も知っている。一定の周期ごとに星の導きと共に行われる巡礼、その果てにリデルの名を継ぐ者が現れると。
そしてそれがかつて、過去の
ふとエルクリッドはバエルの闘志が少し薄れ肩の力を抜いてるのを察し、それに合わせる形で肩の力を抜く。カレが何かを話したがっている、そんな気がしたから。
「強くなろうとも、守れないものがある。避けられぬ定めもある、打ち砕けぬ運命もある、強くなっても避けられない理があるとかつて思い知った……それでも俺は強さを求め研鑽し続けた、先立った者達への弔いとして、五曜のリスナーとして、かつて言われた言葉の意味を見つける為に」
「バエル……あなたは……」
不思議とエルクリッドはメティオ機関の事件の事が脳裏に浮かぶ、それはバエルの視点のものが伝わってくるように、戦いを通して聞くことができるようになった気がしたから。
断片的にそれは聴こえてくる。狂気の研究者ネビュラが作り出した生体装置がメティオ機関の建物全体を覆い尽くし、そこにいた生徒や教員達を取り込み糧とする阿鼻叫喚の声が。
その中でバエルがなるべく助けながら戦い奥を目指したこと、その中で何とか動けたエルクリッドの友マヤが深手を負いながらも挑もうとした事を止めて引き継いだこと、その結果として、ネビュラの作ったものを破壊する為に、それでも尚死ぬに死ねずに苦しみ続ける多くの者達を救う為に全てを焼き払った事も。
バエルにとってそれが苦渋の決断であったのは、今ならエルクリッドも理解できた。自分が卒業試験を受けてる間に起きた悲劇、かつての因縁を終わらせようとした行動でバエル自身、深く心を痛めてしまった事を、そんな帰路に、自分と会った事を。
「バエル、あなたは……リスナーとしてやれる事を果たそうとする、五曜のリスナーとしても一人のリスナーとしても。やり方が正しいかは別だけど、さ」
エタリラという世界におけるリスナーの役目は多い。そして神獣をはじめとする生きる災害達がもたらすものとそれ以外の弱き者達の間を取り持てる存在だ。
世界の規模で見ればバエルがメティオ機関にて行った大破壊はネビュラの計画阻止と、その犠牲者達の救済をしたと言える。無論、エルクリッドが懐いたような復讐心や怒りを向けられるとを承知で。
今ならそれも理解できる、何があってもその名に恥じぬよう貫徹し続ける強さも、貫徹するが故に背負うものの意味も。
エルクリッドは一度深呼吸をしてからカードをゆっくり引き抜きバエルを真っ直ぐ見つめた。目を逸らすこともなく、揺らがず、強い思いをもった眼差しで見つめながら言い放つ。
「バエル……あたしはあなたに勝つ、それがあたしの出せる答え、それに変わりはないから!」
滾る魔力が風を呼び熱を帯びて逆巻く。エルクリッドの思いを受けたセレッタもまた水を操り二匹の水竜を作り出してサターンとプルートに牙を剥かせ、それに対しプルートも炎の竜を放って絡み合わせ戦わせる。
その間にサターンがセレッタへ向かって低空で飛び立ち、エルクリッドが素早くカードを切った。
「スペル発動アクアバインド!」
サターンの周囲に水が集まり一気にまとわりつくとそのまま身体を締めつけて動きを封じて落下するも、それで止まるサターンではなく走ってセレッタへ向かう。
「ツール使用、紅蓮装甲」
紅蓮の光沢を持つ鎧がサターンに装着され、火花を走らせアクアバインドを蒸発させ拘束を解く。火属性を秘めた鎧で水属性の拘束を無力化させて対応し、同時にプルートも水蒸気爆発を起こす魔法のぶつかり合いを終えて次の魔法準備に入る。
思いはあれども容赦せず、戦いにおいて妥協なく徹するバエルの姿勢は戦星の名を持つリスナーとして相応しく、だからこそエルクリッドは越えたいと強く願えた。
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