同じ舞台で戦うーListenerー

出会い、そして今に至る

 声を聞く者の戦い。

 

 戦うことで聞こえるものがある。


 戦わねばわからぬものがある。


 それは愚かなのかもしれない、無意味なのかもしれない。


 しかし避けられないものであるのも事実であり、だからこそ、見えてくるものがある。


ーー


 ずんっと重々しく鋭く、カトブレパスのマーキュリーの頭を刺し貫くスパーダの大剣が纏う風を炸裂させ、一気にマーキュリーの身体をバラバラに引き裂き吹き飛ばす。


 そこへすかさず上空からビーナスが迫るが振り返らずに大剣を投げつけその身体へ突き刺し、すぐに反転したスパーダが高く跳んで剣を掴み一気に振り下ろしビーナスの岩の身体を断つ。

 が、尾羽根によってスパーダは叩き落されてしまい、刹那にビーナスが落下し一気に押し潰す。


 しかし、鎧という媒体から霊体を抜け出して難を逃れたスパーダはすぐに大剣を拾い直しビーナスの首を鋭い一閃で跳ね飛ばし、一気に二体のアセスを撃破にまで持ち込む。


 だがその一瞬、エルクリッドとスパーダがほんの僅かに気を緩めた刹那を、バエルは見逃さない。


「スペル発動、ブレイクダウン。マーキュリーとビーナス、ウラヌスをブレイク状態とし、倒されたアセスの数だけ傷をスパーダへ転嫁する」


 アセス二体が完全に消え去る前にカードによりブレイク状態とし、さらにダウン状態だったウラヌスも加えた返し技にスパーダの全身が切り裂かれるような痛みを襲い、エルクリッドにも反射し全身から血が噴き出してよろめく。


 直後にマーキュリーとビーナスが身体を沈めながらカードへ戻ってバエルの手元へと戻り、スパーダも何とか消えずにいた事から押し潰されながらもまだ原型を留めていた鎧へと入り込み再び立ち上がり剣を構えた。


(これで、数の差は埋められた……でもやっぱり、バエルが平然としてるのは何故……?)


 アセスを七体失いながらもバエルは然程消耗してる様子はなく、残りのアセスの数を踏まえると真化したアセスたるマーズを召喚するのは難しい。


 しかし、彼には余力があるように見えた。むしろアセスが倒されたというのに受けるはずの傷の反射をほとんど受けておらず、その不自然さがエルクリッドの警戒心を強め底知れぬバエルの実力を改めて感じずにはいられなかった。


「スペル発動ヒーリング……スパーダさん」


「ひとまずの役目は果たし終えました、後はできるだけ削ります」


 まずは治療をエルクリッドは行い、スパーダの言葉を聞いて静かに頷く。

 今回の戦いにおける策はバエルのアセスを確実に倒して消耗させる事にあったが、彼が然程消耗してない事から全滅させる方向へと切り替えた。


 今、スパーダがマーキュリーとビーナスを退けた事でバエルのアセスはマーズ、サターン、プルートの三体まで減った。ここからデュオサモンをするにしても、圧倒的な力を持つ故にバエルですら消耗を避けられないマーズを含めたデュオサモンをしてくるのは選択肢としてはない。

 そうなると残りの二体の同時召喚もしくは単独での通常召喚となる。バエルの戦術においてアセスフォースの対象にしてもダウン状態とならないマーズは最後まで温存しておきたい札なのは間違いなく、仮に予想を覆し出してきたとしてもそれを撃破してしまえばバエルに勝つも同じ。


(スパーダさん、セレッタ、ヒレイで残りを倒し切るとして……あとはどれだけあたしがやれるか、だね)


 アセス達の気力は申し分ない、この時に向けて来た思いの強さはエルクリッドもよくわかっている。


 そして、それを迎え撃つバエルもまた、彼女達の士気の高さを感じながらもマーズのカードに手をかけず、その事にマーズ自身が心へ語りかけ圧をかけ続けていた。


(バエルよ、貴様遊んでいるわけではあるまいな?)


(今使っている高等術の弊害を考えるとお前を出す選択肢はない、まだあのカードも使ってないのもある。それに、俺と同じ場所に辿り着いた相手に対し真っ向勝負で競り勝つのが熒惑けいこくの星を背負う者としての責務)


(……その気になれば妾はいつでも出られるという事を忘れるな)


 あぁ、とバエルが返すと心の奥底へとマーズが潜って待機し、改めてエルクリッドとスパーダの方に目を向け初対面の時を思い返す。


 絶望感に包まれていた時に現れた敵意を向ける者、それに討たれるならばと思いながらも実力差故に叶わず、弱さに怒り葬ろうとした。そして彼女が渦中の存在である事を知り、それでも運命を乗り越えると信じる者達がいた事も。


(あれから二年半と少し、か……俺にとってはあの日から始まりだったのかもしれない、何もかも失くし最後まで残ったものの意味を、あいつが示した答えの意味も、この力と命が今に至るまで残り続けた意味も、だからこそ……!)


 二枚のカードを引き抜きながらバエルの闘志が静かに燃え盛る。在りし日より今に至るまでの道筋を思い返しながら、今目の前に立つ者との戦いの意味を理解しながら先へ進む為に。


 エルクリッドも、かつて挑み破れてから強くなる事を願い過ごした日々を振り返る。多くを知り、己の事も、世界の事も、バエルの事も理解して今に至った。


「あたしは負けない、あなたに勝つ為にここに来たんだから……!」


「ならば勝ってみせろ、熒惑けいこくのリスナー……バエル・プレディカに強さを示してみろ」


 言葉を介して通じ合うものがある、お互いに相手を知れる、そして戦いを通してより深く、それが声を聞く者たるリスナー同士の戦いと理解しながら。

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