流れを断つ
今か今かとアセス達の闘志とやる気とを感じながらも、エルクリッドは慎重にカードを選ぶ。
(バエルの残りのアセスは一度戻したウラヌスと、魔法使いのプルート、ガーゴイルのサターン、そしてファイアードレイクのマーズ……)
バエルはリスナーとしては規格外ともいうアセスの数を持ち、その分の戦術の豊富さと対応力を持つ。今召喚されているマーキュリーとビーナスを倒しつつ、控えているアセスを踏まえながらエルクリッドが選ぶのは、金色の鎧纏う騎士のカード。
「お願いします、スパーダさん!」
黄金の風と共に
「スパーダさん、大丈夫と思うけど落ち着いてこうね」
「わかっています。私は私のできる事を全力で果たします、そしてあなたに勝利を」
深呼吸しながら答えたスパーダが間を置かずにゆっくり前へと進み、そして駆けて着地したままのビーナスへと向かう。すぐにビーナスは飛び立ち、同時に隠れる形となっていたマーキュリーの眼差しがスパーダを捉え、刹那に紫の毒水が壁となり行く手を阻む。
だがスパーダは止まることなく前進し大剣を振るい壁を断ち切るとそのままマーキュリーへと接近、それにはバエルも即応しエルクリッドもカードを抜く。
「スペル発動ソロガード」
「ツール使用、結界砕き!」
大剣を背負ったスパーダへエルクリッドが与えるのは赤の巨大な鉄錘である。見た目だけでそれが凄まじい重さとわかる程の武器をスパーダは両手で持って勢いよく振り上げ、舌打ちするバエルの意思を受け上空からビーナスが羽根を降らせてマーキュリーを遮る壁を作り出す。
次の瞬間に展開されたソロガードの結界を容易く結界破りが粉砕し、次いでビーナスの羽根をも砕き割るがマーキュリーの姿はなく、刹那に武器を手放すスパーダがいた場所に紫毒の水が流れ落ちて結界破りが溶解し失われた。
(羽根が減ればその分動きも機敏になる……ですが、アセスを減らす事はできましたね)
ソロガードはアセス一体をダウン状態として防御結界を作る為に発動すれば必然的に一体分召喚ができなくなる。スパーダの分析をエルクリッドも手を握って確実にバエルのアセスを減らせていること、それでいてまだ彼が余力を残している謎や、油断大敵と戦いに集中し静かに息を吐く。
(多分ウラヌスをダウンさせて防ごうとしたはず。そうなると残りはサターンとプルートとかいうやつと、マーズ……スパーダさん)
(わかっています、ここで私が二体を倒せば数は互角に持ち込めますからね)
背負った大剣を手にし構えながらエルクリッドの対話に答えるスパーダがマーキュリーを地上へ下ろすビーナスを捉え、どうやって二体を倒すかを思考する。
鈍重ながらも毒水による魔法攻撃を繰り出すマーキュリー、岩の如き身体を活かし空から襲いかかるビーナス、先程攻撃を避けられたようにビーナスがマーキュリーを掴み持ち上げる事でお互いの短所を補う。そこにバエルの支援が加わるならば崩すのは難しいものの、スパーダはエルクリッドの強い思いを感じ手に力を込めた。
(エルク……何も守れず死して尚修羅と化していた私を救ってくれた事は今でも思い出せます、そしてバエルに負けて敗走し、強くなろうと誓った事も……私の役目は、エルクの為に勝利への道筋を切り開く事……!)
出会いからこれまで過ごした記憶を振り返りつつ、スパーダが闘志を燃やし刹那に地面を踏み砕いて一気に間合いを詰めた。全身鎧というのを感じさせない速さにはバエルも反応が一瞬遅れ、振り抜かれる大剣の一閃を飛んで躱すビーナスの身体に一筋の裂傷が走る。
「スペル発動フレアカース」
「させない! ツール使用、破魔の護符!」
スパーダの首元に三日月と太陽を象る首飾りがつき、フレアカースの炎の蛇が飛びかかるも弾け飛ぶように消滅していく。刹那、バエルは別のカードを抜いて魔力を込めて発動準備を完了し、同時にスパーダは足元が動かず目を向けると紫の水が固まり固定されてる事に気がつく。
「スペル発動アセスフォース……消し飛ぶがいい……!」
放たれる極大の火炎弾がスパーダに向けて放たれ、エルクリッドはカードを使った直後もありすぐに新たなものを使えない。
確実に倒しに来るバエルのスペルが放たれスパーダの鎧が赤き光を返しながら飲み込まれる、その瞬間、下から上へ縦一閃に振り抜かれる太刀筋が火炎弾を両断し二つに割れながら飛んで消えていく。
そしてスパーダの大剣が静かに風を纏い始め、兜に隠れる眼差しを強くする彼女がマーキュリーを捉えて疾走り、上空から雨あられの如く降るビーナスの羽根と足下から噴き出すマーキュリーの毒水の魔法攻撃をかいくぐり一気に距離を詰め剣を突き出した。
NEXT……
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