相殺
爆風の中で身を屈めるノヴァ達の前にタラゼドが立って結界で守る中、巻き上げられた砂煙で視界がない中でエルクリッドは吹き荒れる風に負けずに踏み留まりゴーグルをつけて前を向く。
(ローレライ……はまだ平気、だね)
後方へ大きく吹き飛ばされたローレライがぬるりと這うようにエルクリッドの傍らに戻るとすぐに白煙を纏いながら前進し、混乱が治まらぬ内に攻めに行く。当然それはバエルも読んでいるだろうし同じ事をすると読み、刹那にローレライが地面を割って姿を現すアースを砂塵の中で捉え、白い煙を広げるとすぐさま赤い光を浴びせ熱線を放つ。
が、先の衝撃で無常の帯が消失してしまったのもあってか通常の熱線となってしまい、アースの体表を焼き払う程度にしかならなかった。
そこへぬうっとゆっくり転がりながらローレライの背後にネプチューンが近づき、気づいたローレライが素早く距離をとって接触を躱す。
やはり簡単にはいかない、風が吹いて砂塵が晴れる中でバエルも腕を組んで堂々と構える姿を見せ、エルクリッドも目をそらさずカード入れへと手を置く。
(流石に強い……でもそろそろ決めにいかないとね)
今回の戦いに備えてエルクリッドは魔力を回復する手段も用意はしているが、貴重品故に数は少ない。またそれを狙ってアウト系やブレイク系スペルを使われては無駄になってしまう。
また状況的に長期戦になれば不利になるのはバエルとて同じこと、そろそろ動くとエルクリッドは読みローレライがとぐろを巻いて白煙を噴き出し身を隠すと共に攻勢に出た。
「ホーム展開、閉鎖領域!」
展開されるのは赤錆色の柵に覆われた領域、両リスナーのすぐ前までの範囲を球状に包みこみアセスと分断する。
「アセスを戻す事を封鎖するホームカードか……」
「ここで一気に決める……! スペル発動クリアーフォース!」
燃える闘志が言葉に表れるエルクリッドの支援を受けたローレライが真白の光を纏いながら白煙広がる領域を泳ぎ進み、素早く鎌首をもたげながら口を開けてアースを赤い光で照らして熱線で焼き払う。が、やはり同じ火属性というのもあって表面が焼けただれるだけで撃破と至らない。
しかし間髪を入れず第二射、三射と熱線を浴びせ続け強引にアースの身体を溶解させ、力づくで倒しにかかるのにはバエルも舌打ちしながらカードを切った。
「っ……ツール使用ロッキングメイル」
第四射目の熱線が放たれると同時にアースの全身を土塊色の鎧が覆い、熱線で焼かれるも表面が乾いただけに留まる。
動けなくなる程の超重量の代わりに極めて強固な堅牢さを誇る地属性専用ツールのロッキングメイルを前にエルクリッドも力押しは効かないと判断し、察したローレライも熱線を吐くのを止めて次の攻め手へ切り替えた。
狙いに行くのは自力で動けないネプチューン、その周囲を素早く回りながらヒレで地面を削って掘り進めてから熱線を浴びせ、本体には攻撃は通用せずとも足場となっている部分は焼け溶け沈み込む。
(攻撃が通らぬならば無力化するまで、ということか)
(まずはこれで動きは止めた……あとは……)
自力で動けず攻撃手段もないネプチューンをほぼ無力化した事でエルクリッドは残りはアースのみと意識を向ける。ロッキングメイルを破るにはツールブレイク等のツールを直接破壊するカードもあるが、あえてそれを使わずにローレライに意思を伝えて尻尾で巻き取らせ全身を使い閉鎖領域の柵へ投げ飛ばさせる。
超重量というのもあって投げるというより落とす、それでいて柵までは行かず手前で落ちるが鎧の隙間が生まれすかさずローレライが口を開けて赤い光で照らす。
「スペル発動ゴーストップチェック、アースとネプチューンの位置を入れ替える」
動けない対象と動く対象の位置を替えるゴーストップチェックのカードをバエルが使い、ローレライの熱線が放たれると同時にネプチューンがそれを受け一気に膨張しローレライを飲み込む。
しかしそこでエルクリッドは焦りを見せず、むしろ不敵に笑みを浮かべると手を強く握り締め快活に声を飛ばす。
「読んでたよ、そのくらい! ローレライ!」
刹那にローレライが全身から赤い光を放ち、それによりネプチューンが裁断されバラバラに砕け散る。
そして欠片となったネプチューンへすぐにローレライが尻尾で地面を削って浴びせかけて動きを止め、息を深く吐きながらエルクリッドが手にカードを乗せて口ずさむ。
「雫は大地にあまねく恵みを与え、災いとなりて全てを流す……! スペル発動、メイレイン!」
ぽつりぽつりと雨が降り始め、刹那に鋭い針のように鋭利なものとなり集中豪雨となって戦場を濡らす。
動けない状態でのスペル攻撃には欠片となり水属性を苦手とするネプチューンは粉砕されていき、位置を変えた事で水が溜まり溺れる形となるアースもまた水蒸気を上げながらその身を崩壊させる。無論、ローレライも身体を貫かれるがとぐろを巻いて耐え凌ぎ、やがて雨が止むと共にエルクリッドが閉鎖領域のカードを解除し手元へ戻す。
二体のアセスを撃破されたバエルはよろめきつつも手元に戻るカードをしまい、呼吸を調えつつエルクリッドもまた片膝をつき両肩を掴んで痛みに耐える姿を捉えた。
「相殺覚悟で倒しに来るとはな……無茶をする」
「そのくらいでないと、あなたに勝てないからね……このくらい、平気」
とぐろを解くローレライと共にエルクリッドも立ち上がるものの、全身を貫かれる形となったローレライの光は弱くなり満身創痍なのが目に見える形である。
とはいえ、バエルのアセスをこれで四体撃破した事で彼が使える択が限られているのは間違いない、それはノヴァ達もエルクリッドと同じように感じていた。
だが、エルクリッドは違和感を覚えていた。何かが引っかかる、それは見守る仲間で唯一タラゼドも感じており、ハッとその答えに行き着く。
(バエル、あなたはまさか……)
自身の手を数回握って開くを繰り返してまだ動くのを確認するバエルを見ながらタラゼドは驚愕し、それに気づいてないながらもエルクリッドは追い込まれるような感覚に背筋を伸ばす。
底知れぬ強さを、強大すぎて見えないものを、戦星を背負う者はもっている気がしたから。
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