黒の力を我が身に
戦況を見ると、エルクリッドはローレライを召喚するも攻めあぐね、バエルは受けの姿勢を取りつつ反撃で迎え撃つ。
アセスに関してはエルクリッドは五体の内ダインが戦闘不能、バエルは十体中二体が戦闘不能と単純な数では差がないと言えた。
だがバエルには絶対的な強さを持つ
(とはいえアースを倒しつつネプチューンもってのはキツいか……何とか属性を通るようにすればいいけど)
ローレライの放つ熱線は噴き出し続ける煙に触れている事と、その相手に口からの光を浴びせてる状態の二つを満たした対象を熱線を放ち一瞬で焼き払うというもの。だが火属性を有するアースにそれはほとんど効果はなく、ネプチューンも火属性を吸収する性質を持つ為必殺とはならない。
反面バエル側もローレライへの有効打があると言えないのも確かであり、持久戦にもつれ込む前に倒しに来るのはエルクリッドにも予想がつく。
ならその前に状況を打破してかねばならない。まずはどちらから倒すか、攻撃を通す為にどうするか、ローレライにアースとネプチューンの周囲を這わせ威嚇させつつ策を練る。
(スペルで攻めるにしてもネプチューンが吸収しちゃうし、ツールなら……いや、ローレライに使えるカードなんて……)
今回の戦いの前に様々なカードを集めてもらい吟味し選び抜いたが、ローレライは魔獣という特徴と特異性故に装着できるツールが少なく、今の場面で使えるものはない。
まだローレライには未知の力がある、エルクリッドも把握しきれてないそれはバエルも予想できないものなのは確かだ。と、考えてる内にアースがネプチューンを片手で持ち上げ動き出し、機敏に動くローレライの動きを見切り正確にネプチューンを投げつけ命中させた。
「ローレライ! 今……」
「ツール使用、炸裂の鉄砂」
ネプチューンがずぶずぶとローレライを取り込みにかかり、藻掻き至近距離から熱線を浴びせるも一切焼かれないどころか膨張しさらにローレライは飲み込まれる。
そこへバエルのツールにより黒い砂が降り注いでネプチューンに取り込まれ、そこへ赤熱化させた両腕を組んだアースが拳を振り上げ下ろすと刹那にネプチューンが破裂し、黒い砂がローレライの全身に刺さりながら身体を強く殴られ沈められた。
柔軟性のある身体故にアースの攻撃そのものは大した負傷にはならない、と思ったがエルクリッドはローレライが苦悶するように体内の光を明滅させながらゴポゴポと音を鳴らしながらもが、さらにアースに頭を掴まれ強引に口を開けられそうになる。
「させない! スペル発動アクアチェーン!」
「スペル発動チェーンアウト」
エルクリッドの発動したアクアチェーンのカードが割れるように消滅し無効化され、ローレライの口が徐々に開かされ始めてしまう。
その隣で少しずつネプチューンも飛散した身体が集結して再生しつつあり、エルクリッドは一気に追い込まれる。
(ローレライ……! どうすれば……)
考える猶予はない、守護の魔獣として母スバルが宿してくれたローレライをただ倒されるのを待つしかないのか、そうエルクリッドが折れかけた時にハッと何かを思いつき、呼応するようにローレライも鉄砂突き刺さり痛む身体をしならせアースに巻き付く。
「
ローレライの身体に巻き付く形で黒い帯が二本交差するように巻き付いていき、同時に半透明の身体が灰色へと変化していく。
バエルはローレライの変化だけでなく、エルクリッドの瞳孔が細くなり黒髪となっているのに気づき、それが彼女の身に宿る
(持て余してものを使えるようになったか……だがそこからどうする?)
ふと、バエルは己がエルクリッドへ期待してると気づき、軽く深呼吸をし気持ちをすぐに切り替える。今は戦いの最中、楽しむというのは流儀に反する。
しかしやはり、エルクリッドが不利をどう克服してくるのかという興味はあり、カード入れに手をかけつつ戦況を見守る姿勢で待つ。
無常の帯を巻いたローレライは口を半分程強引に開かれたが、同時にアースに光を浴びせて照らし出す。そして次の瞬間に熱線を放つとアースの頭部が消し飛び、通じなかったはずのものが通った事にバエルも目を見開きノヴァ達も身を乗り出す。
「攻撃が通った……!? でも……」
「考えられるのは一つしかねぇ、ローレライの属性を変えて攻撃が通るようにしたんだ。あの無常の帯とかいうやつで……!」
ノヴァに対えたシェダが導き出す答えはバエルも理解し、だが力が抜けローレライを解放して絞まったアースがすぐに生えるように頭を再構成し再び元に戻って振り出しとする。
(なるほど、本来は相手に対し使うカードを自分のアセスに使ったか。そして魔獣はその恩恵のみを受ける……己の力を把握しきれてるらしいな)
魔獣はエタリラに住まう生命とは異なる存在だ。未だ謎も多い存在に近しいエルフの血を引き、その力を使うエルクリッドを捉えながらバエルは冷静に分析しつつカードを引き抜き、その間に再生し終えたネプチューンを確認して次の手を繰り出す。
「スペル発動ストレンジスペル、この戦いで発動されたスペルカードのいずれかに変化させる」
かざしたカードが閃光と共に別のカードとなりバエルはその絵柄を確認する。ストレンジスペルは発動されたスペルに変化し使えるものの、不特定故に狙ったカードが使えずさらに一定数使われてなければ効果を発揮しない。
「天運に委ねる、っていうの?」
「勝敗を分ける要素には心技体だけではどうにもならぬものもある……そして真に強き者は天運すらも引き寄せ、偶然を覆すものだ」
エルクリッドの問いに鋭く返すバエルがカードを見せ、有言実行をしてみせたのを示す。ストレンジスペルが変化したカードはアセスフォース、そして即座にバエルは発動の為のアセスを引き抜く。
「スペルブレイク、アセスフォース! 我が最強のアセスの力を、再び躱せるか!」
スペルブレイクにより強化されて発動され、漆黒の大火球がローレライへと放たれる。規模の大きさ故に避ける事は不可能に等しく、防ぐ事も難しいと察しエルクリッドは己の中に潜むアスタルテを呼び起こし、漆黒のカードを引き迎え撃つ。
「
全身を使って煙を巻き上げたローレライが漆黒の光を纏いながら口内に漆黒の炎を溜め込み、そして迫るものと全く同じ漆黒の大火球を放つ。
同質同威力のそれが激突した事で対消滅を起こし、大爆発の余波で周囲へ爆風が吹き抜け大地を揺らした。
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