流転に逆らえーCutー
第二戦
強さの果てに限界へと到達する。
それは絶望ともなり得るもの。
それは傲慢となり得るもの。
彼はそうはならずにいる。
彼はさらに強さを目指す。
怒涛とも言える力の流れに逆らい、強さの圧を切り裂きながら進まねば勝つ事はできない。
ーー
エルクリッドはダインが倒れ、バエルはムーンとジュピターを倒され戦いは第二幕へと続く。
(次は誰で行こうかな……ヒレイ出して一気に、はまだ無理だし……)
お互いアセスを失って次のアセスを呼び出さねばならない。バエルは両腕を組み後出しする構えを見せ、待っていても彼から動く事はないとわかる。
エルクリッドの心の中で満身創痍のダインが座り込むと、そこへ寄り添うようにローレライが来てそっと鼻先を合わせて労る仕草を見せ、次の瞬間に頭を上げ出せと言わんばかりにゴポゴポと音を鳴らす。
「ん、わかったよ。仄暗い深淵より頭を上げ、星に祈りを捧げよ……おいで、ローレライ!」
白い煙が広がりながら足下を包み込み、ぬっと鎌首をもたげながら姿を現すのは魔獣ローレライ。蛇のような半透明の身体にいくつものヒレを持ち目や鼻はなく、身体の中で鈍く光が明滅しながら煙を出し続ける姿をバエルは見上げつつ腕を解き、二枚のカードを引き抜き魔力を込めた。
「デュオサモン……アース、ネプチューン」
大地を割って大きな腕が現れ、ぐぐっと力を入れながら全体像を現すは燃える溶岩の身体を持つゴーレム・アース。その隣にドスンと落ちるように青い色の球体そのものといった風貌のスライム・ネプチューンが姿を見せ、エルクリッドはすぐに分析に入る。
(アースは確か溶岩のゴーレムで火と地属性二つの特性を併せ持つ、ネプチューンはほとんど動けない代わりに吸収能力に優れてる……ローレライの能力を見定める布陣、かな)
初見の相手に対する防御に優れたアセスをぶつけるのもリスナーの基本戦術の一つ。バエルがそれをするとなると迂闊に攻めるのも難しく、特にネプチューンは自立して動けない代わりに特異な吸収能力を持つ為に尚の事手出しが難しい。
エルクリッドが攻め手を考えローレライが指示を待つ内にバエルがカードを引き抜き、赤熱の身体を持つアースが巨体を動かし始めた。
「スペル発動バーンフォース、来ないならばこちらから攻めるまで」
赤き光を纏ったアースが重厚かつ一歩一歩確実にローレライへと迫り、それにエルクリッドも身構えつつカードを引き抜く。
(考えてても待ってはくれない、迷うなあたし、まっすぐに……勝ちにいくんだ!)
自分にそう言い聞かせながらエルクリッドがカードへ魔力を込めるとローレライが白い煙の中に身を沈めて隠れ、姿が消えた事でアースが前進するのを止め単眼を周囲に向けて探す。
刹那にアースの後ろからローレライが素早く飛び出して身体を巻きつけ締めつけ、アースも太い腕で解こうとするがぬめりもあって上手く掴めず、しかし指先が隙間に入るとそこからローレライを解いて振り払う。
すぐに口を開け赤い光をアースに浴びせたローレライが熱線を放ち焼き切るものの、元々溶岩の身体を持つ事もあってか体表が焼けて溶けようともアースは健在であり、ゆっくりと崩れた部分が再構成されていく。
(ローレライの熱線は火属性……アースにはやっぱり通じない。そしてネプチューンは火属性を吸収できるスライムの変種、不利だけど、このままローレライで押し切る!)
(アセスの交代はしない、か。少しは読み合いをわかってるらしい)
属性に対する耐性は戦いにおいて大きな要素であると同時に、有利不利だけで判断すべきではないのも確かだ。
今、エルクリッドのローレライの攻撃はバエルのアースとネプチューンに対しては有効とは言えないが、逆もまた然りである。特にネプチューンは自ら動けないのもあり、攻撃できないわけではないとしても予想はしやすく機動力ではローレライはアースより勝っている。
他のアセスの事を鑑みると今ここでローレライを下げるのは勝利から離れてしまう。今やる事は確実に相手の数を減らしていきバエルの手札を減らすこと、その為には多少の無理はしなければならないとエルクリッドは判断しローレライもまた煙をさらに噴き出し移動範囲を拡大させ、アースの周囲を泳ぐように機敏に動き翻弄していく。
と、ここで不動だったネプチューンが僅かに丸い体を揺らし、やがてゆっくりと転がり始めて動き出す。
ちょうど移動する先にやってくる位置となった為にローレライが急停止して切り返すも、その瞬間にアースが尻尾の先端を掴み一気に引きずり宙へ投げ飛ばす。
(ローレライが煙の中でないと動けないのを……!)
「スペル発動エアーバインド」
空中に放り出されたローレライがバエルのスペルにより宙に止まった形で拘束され、だがすぐにローレライが体内の光を強く輝かせると赤い光線がヒレから放たれ四方へと伸びた。
それにより拘束が解けローレライは再び煙の中へと潜行し姿を消すが、そこからバエルはおおよその能力を分析し終えたとエルクリッドは察し警戒を強める。
(アースが歩いた所だけ少し削れて緩やかな坂になってネプチューンが動けた。そこからローレライの能力を確かめる為に投げ飛ばして……流石に、手強い……!)
全ての行動に無駄がない。カードの使用も最低限に留めつつ効果的に使う事で魔力の消費を抑えつつ的確に攻め、躱されても次へと繋ぐ。
基本に忠実にを徹底的にこなし、その上さらに隙を見逃さず攻めてくる。これまで相対した誰よりも手強い相手と改めて思いながら、エルクリッドは胸の高鳴りと共に笑みを浮かべカードを引き抜いた。
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