リスナーとして
爪を引き千切られたジュピターへダインが解いていた円環を伸ばすも間一髪の所で逃げられてしまい、咥えた爪を吐き捨てながらダインはすぐに次へ備える。
霧が晴れてホームカードを破壊された中でダインの雄々しく佇む姿にはエルクリッドは少し感慨深いものを思い、出会った時の事やこれまでを思い返す。
(とても思いやりのある良い子であたしと契約してくれた。シリウス伯父さんのダンを参考に戦い方も増えて、今も怖がらずに戦ってくれてる……あたしも傍にいる、だから安心して……!)
無邪気さは今もあるが戦いに慣れて怯む事がなくなり、ダインもすっかりエルクリッドの色に染まっていた。それがリスナーとアセスの関係性が生み出すもの、一人では到達し得ない領域へ届くものに繋がる要素だ。
ジュピターは爪の片方をもがれたがもう一方は残っておりまだ戦闘続行可能である、加えてバエルもカードをいつでも切れる状態で虎視眈々と構えている。
恐らく次の一瞬が勝負の行方を左右する、あるいは決着となる。初戦からこれ程の緊張感と思うとエルクリッドは自然と笑みを浮かべ、自分が確かにバエルと同じ舞台に立てるまでになったのを実感していた。
(あれから、あたし強くなったんだ……でも、これで終わりじゃない。勝っても、まだ……!)
バエルに勝つ事は悲願ではあるが、それで終わるわけではない。次の道を探す為に、あるいは見つけて進む為に、まだこれからがあるのだから。
静かに風が吹き抜け空気が貼り詰める中、バエルの指先が微かに動いたのをエルクリッドは見逃さずにカードを抜く。
「スペル発動エアーカース!」
「スペル発動ブラストエッジ」
低空で飛来する風の刃を避ける為にダインが跳ぶと同時に真後ろから一瞬で姿を現すジュピターが迫り、刹那、ダインが首筋を切られながらも帯状にした円環でジュピターを締め上げ一気に身体を引き千切り粉砕する。
直後にバエルの全身に衝撃が走り反射による傷が現れよろめくも踏み留まり、エルクリッドも首から血を流すがすぐに手で抑えつつヒーリングのカードを取り出して使い傷を癒やす。
同時にダインが出血量の多さもありここで倒れ、それでもまだ起き上がろうとするとエルクリッドが何も言わずにもカードへと戻した。
「ありがとねダイン、休んでて」
労いの言葉を聞いてからダインのカードから色彩が消えてブレイク状態となり、それを見届けてからエルクリッドはカード入れへとそっとしまう。
初戦から遠慮なく飛ばし激戦となったがまだまだお互いの手札はあり、ひとまず一区切りというところで二人のリスナーは相手を捉えていた。
「少しはやるように……いや、あれから確かな力をつけたらしいな」
「色々あって、悩んで、でも吹っ切れたから。あたしも自分自身驚いてるところはあるし、今改めてあなたが本当に強いリスナーって思える」
初めての時に完膚なきまで叩きのめされ、それから再会した時にも同じように圧倒され、三度挑んだ時は喰らいつけていたが最後にひっくり返され敗北を味わされ続け、力不足であると、まだまだ未熟と思い知らされ苦悩もし、力を求め続けながら旅を続け己の運命を知る。
その中でバエルというリスナーへの認識も変わっていった。誇り高き孤高なる者、戦友を失いながらも誇り高きリスナーとして在り続け、憎しみ交じりのエルクリッドの敵意に対しても真っ向から受け止め叩きのめした。
強くなければ真っ向勝負などはできやしない。そして、明らかに敵意を示す相手に有耶無耶な答えをせず力で示せと言い切り常に堂々と戦い、様々な戦術や想像を超える技量を示す。
今はそれらがリスナーとしての模範を示すようなものとエルクリッドは思える、それを見て学び研鑽したのもまた事実であると、認めるべきものを認めながらバエルの見えない側面を知りたいとも思えていた。
「あなたに勝って、あたしはメティオ機関で何があったかを聞き出す。それは変わらない……あなたを越えていくことが、あなたに対する礼儀で敬意って思うから」
勝たねばならない思いは強くエルクリッドの目に闘志を宿し強い光となってバエルへと向けられる。一瞬後退りしかける程にそれは強い眼差しであり、だがバエルも退く事なく堂々と腕を組んで魔力を滾らせ風を呼ぶ。
「この俺に勝つ、か……それを口にして勝った奴はただ一人しかいない。だが、今のお前ならばそれを成し遂げられる可能性があるのは認めてやろう、故に……」
バエルが組んだ腕を解きながら左右の腰につけたカード入れに手をかけ、腕を交差させる形で引き抜き魔力を込め真っ直ぐエルクリッドへ重圧を放つ。滾る魔力が作り出す風が重さを持ったもの、思わず両手で顔を隠し押されそうになるがエルクリッドも魔力を滾らせ次のアセスを引き抜き、熱風を呼び起こし重圧を跳ね除けた。
「俺の全力をもってお前を倒す、
「上等! あたしだってあなたに勝って、未来を掴む! あなたと違う道を進んで得た力で、あなたを倒す!」
二人の闘志が再加熱し風を巻き起こし周囲を揺らす。怒りや憎しみはそこにはない、あるのは強きリスナーへの敬意とそれに応える為に全力を尽くすという思いのみなのだから。
NEXT……
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