バエルの奇策

 プロテクションの膜で剣を止められてもウラヌスは構わず力を入れ、防御膜ごとダインを弾き飛ばす。

 ダインもくるりと空中で体勢を直しながら着地して健在ぶりを示すが、直後に右前脚の痛みを感じぐらりと揺れる。


(地属性を無力化する大地の盾で威力を防ぎ切れないなんて……直撃よりはいいけど、さ)


 エルクリッドも右手首のあたりにヒリヒリとした痛みを感じつつ、自身の使った大地の盾の残骸が消えていくのを見ながら改めてバエルというリスナーとそのアセスの強さを実感していた。


 グランドエッジは攻撃系スペルの一つで地属性の刃を放つ、もしくは剣などから放てるようにする銀枠のカード。それ単体の威力もさることながら、ウラヌスが振るう事で剣圧を加えられ破壊力が大きく増して防御も難しいものへと変貌する。

 攻撃という点では十二星召のカラードも烈火の如く畳み掛けてくるが、バエルは剛の強さ一辺倒ではない。


「ツール使用、幻惑の仮面……ダインに装着させてもらう」


 宙に滲むように現れるのは泣き顔とも笑い顔とも取れる奇妙な仮面、それがひとりでにダインに向かって飛んで顔に貼りつこうとしすぐにダインは躱すも仮面はしつこく追いかけ、さらにそこへウラヌスの剣撃が加わり防戦へ追いやられる。


「スペル発動ツールアウト! 幻惑の仮面を破壊する!」


「スペル発動ウォリアーハート」


 幻惑の仮面がエルクリッドのスペルにより砕け散るも、刹那に黄土色の光を纏ったウラヌスがダインに迫り素早く切りつけた。すんでの所でダインは致命傷こそ免れたが首を切られ血を流し、反撃に転じようとするも肘打ちで突き飛ばされてしまう。


 隙を晒す事になってしまいエルクリッドはすぐに防御のカードを引き抜くが、ここでバエルが予想外の動きに出た。


「スペル発動フォースキャッチャー、強化スペルを受けているウラヌスをカードに戻し別のアセスを召喚する」


 それは意外なカードであった。アセスの入れ替えを行うフォースキャッチャーによりウラヌスがカードとなりバエルの手元へと帰還し、別のカードと入れ替えられる。


(どうしてウォリアーハートを使ってるのにフォースキャッチャーを……?)


 アセスを強制的にカードへ戻すスペルはいくつかあるが、フォースキャッチャーはその中でも強化スペルを受けているアセスと限定的なものであり、枠色も銅色と位としては低いカードだ。


 エルクリッドはもちろん見守るノヴァ達も意図が読めないそれをただ一人タラゼドが気づきながらも沈黙し、バエルの戦術眼に戦慄し冷や汗を流す。


(デュオサモンを強制的に解除する為にあえて……加えてウラヌスをダウン状態にせず温存する事で手数を残して有利なアセスをぶつけられる、流石ですねバエル)


 デュオサモンの制約を解きつつ先々の戦局を見越すバエルの卓越さにタラゼドは感心しつつ、まだ何かあるような気がして気がかりであった。

 それが何かまではわからないものの恐るべきものというのだけは直感として理解し、バエルの次のアセスが召喚されるのを見守る。


「風を断ち切り翻弄しろ……いけ、ジュピター」


 黄色の閃光と共にカードより飛び出すのは鋭い爪を持つ獰猛なる蜻蛉ドラゴンフライのジュピター。一瞬姿を見せると次の瞬間に飛び去りながらダインの背を切り裂き、いきなりの先制攻撃に反射による切り傷を負いながらもエルクリッドはカードを抜く。


「ホーム展開、霧舞台!」


 展開されたホームカードから青白い霧が噴き出て周囲を包み込み、エルクリッドとバエルの両者の視界を包み込む。これにはバエルもほうと感心の声を上げつつも特に驚きはなく、刹那にダインに迫るジュピターが再び切り裂きに向かう。


 と、ダインは霧の乱れからジュピターの位置を特定して身を翻しながら一閃を躱し、円環を解き帯状にして伸ばし捕らえようとするも目にも止まらぬ速さで動くジュピターは捕まる事はない。


(先を考えるとここで決めておかないとね……ダイン、頼んだよ)


 バエルを倒すには彼の魔力を削っていくしかない。その為にはまずアセスを撃破しその都度ブレイク状態にさせ、バエルの魔力を割合で減らすように導く必要がある。


 アセス撃破に伴うリスナーへの反射は傷のみならず魔力を削り、割合である為に量が多かろうが関係ない。それが多数のアセスを抱え戦術択の多いバエルの唯一の弱点であり突破方法と、エルクリッドは見抜きその為の策を練って戦いに臨んでいた。

 彼女の意思を受け取ったダインが帯状にしている円環を四方に伸ばした状態で地面につけ、そのまま身を屈め目を閉じる。


 羽音が微かに聴こえるも凄まじい速さ故に位置は特定できない、代わりに聞こえたバエルのカードを抜く音をダインを通して感じたエルクリッドは、彼がこの場面で使ってくるであろうカードを見定めカードを切った。


「スペル発動スペルガード!」


「スペル発動アセスフォース」


 刹那に霧が一瞬で晴れると共にダインに迫るは巨大な紅蓮の大火球、流星の如く軌跡を残し全てを焼き尽くしながら飛んでいったその後には焼けた大地のみが残り、だがエルクリッドがスペルガードを使っていたおかげでダインは健在である。そして間もなくダインの真上からジュピターが迫り鋭い爪を振り抜き、同時に顔を上げたダインの牙がそれを咥え引き千切った。


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